第10話 子爵家6
マーブル先生は色々なことを教えてくれる。
法律関係のお仕事をしていたらしいのだが、基本的な貴族の必須教養はすべて抑えているらしく、本当なら数人の教師を専門別に雇うべきだそうだが、マーブル先生は専門分野も押さえていて、俺に教える分には問題ないそうだ。
その教え方なのだが、とにかく広く浅く教えてくれていて、なにか急いでいるような気もする。
一応後7年位は教わる予定なのだが、どうしたんだろう?
7年というのは15歳位になると、貴族は必ず学院に入学しなければならないためで、7年かけてそこに入学できる学力を付ける予定だ。
学院は3つ有り、貴族学院・騎士学院・魔法学院と、名前のようにそれぞれの専門を学ぶ所で、これ以外にも平民向けの学校はいくつか有るが、話を聞く限り俺が行かなくてはいけないのは、騎士学院だ。
俺の居るこの国エスト王国では、各学院を卒業しなければ、その職業につくことが出来ないようになっていて、なので俺の場合、街道警備の請負の仕事をするために、騎士学院を卒業しなければならない。
街道警備の仕事をするだけなら、騎士学院を卒業しなくても大丈夫だけど、子爵家の当主としてやっていくなら必要ってことだ。
元の世界で考えるなら、卒業資格が免許のようなものなのだろう。
例えば道路工事の仕事をするなら、道路工事をする会社に入社すれば誰でも出来るのだが、会社が道路工事の入札に参加するためには、免許が必要って感じかな?
その辺り不思議に思ったので、マーブル先生に聞いてみたのだが、
「うーん。本当はね。もっとちゃんと教えようと思ったのだけど、どうも時間が足りなそうなのよ。詳しくはちょっとまだわからないのだけど、まだもう少し時間があるのかしらね?ティちゃんは優秀だから、大丈夫だとは思うのだけどね」
なんて、よくわからないことを言われてしまった。
実はマーブル先生もよくわからない人だったりする。
何で俺に良くしてくれるのかわからないし、勉強以外にも色々助けてくれているようなのだが、俺がそれほどのなにかを持っているとは思えない。
助けてくれるのは良いのだが、イマイチはっきりとしないような気がして、ちょっともやもやする。
一応仮説は有る。
それは派閥の問題だ。
俺の住むこの国はエスト王国と言い、基本的には絶対王政を敷いているが、それに反発する勢力が有る。
今の所3つの派閥が有り、王政派・貴族派・中立派と呼ばれている。
王政派はそのまま、絶対王政を支持する派閥で、細かく分けてしまうと色々有るが、基本的には王政以外を認めない方針だ。簡単に言い直すと、王政の方が利益を得る連中の派閥で、権力構造の主流派になっている。
貴族派は王政の反対勢力で、国王は象徴としてあれば良く、実務は全て貴族がやるべきっていう、立憲王政みたいなのを目指している。現在利権にも絡めず権力もない連中の吹き溜まりで、あまりまとまっていないのだが、最近になって神光聖声教会という、この世界で言う人族絶対主義の宗教が入っていて、ちょっと危ない派閥になっている。
中立派は王政そのものは認めているものの、貴族派との派閥争いにより、行政が滞ることを懸念していて、派閥争いには加わらないと宣言した上で、行政を押さえている派閥だ。第三者的な見方を言うなら、中立派という名の裏切り者集団だったりする。
どの派閥も、似たような方向を向いているだけの物で、中身は基本寄せ集めになっていて、派閥内の主導権争いも激しかったりする。
そもそもこんな派閥争いが起きた原因は、先々代の王がむちゃくちゃしたかららしい。
それまで各地に有った貴族の領地を、強引に召し上げ直轄領にしたり、反対した貴族を罪人にして爵位を剥奪したりと、やりたい放題だったらしく、それに対抗するために貴族が団結したのが、今の貴族派の前身だそうだ。
先代になって色々と改革が行われたものの、貴族に領地を渡すことはなく、直轄地への代官として任命したり、仕事として役割分担を受けたのが、中立派となっているそうだ。
そして、この中立派に属しているのが、マーブル伯爵家やエルダー伯爵家それにスタン子爵家等であり、バルサー・スタン子爵が仲良くしていたのが、貴族派の重鎮のところだったらしい。
まぁ要するにだ中立派としては、自派閥から寝返る貴族を出したくはないし、かと言って本業をおろそかにするわけにもいかず、出来れば穏便に世襲させて、自派閥の強化に役立てたいと思っているはずだ。
エルダー伯爵がこう考えていても、バルサー・スタン子爵はそう簡単に子爵家を奪われる気がなく、跡継ぎを決めたものの、適当な時期に捨てるつもりであるのが、外野から見ても明白だったため、マーブル先生が色々と手を打っているのではないか?
プライドのためにバルサー・スタン子爵は生かされていて、実益のために俺が育てられているのでは無いかと思っている。
とは言え、まさか本人に確認するようなことでもないし、仮に合ってても間違っていても、今の関係が崩れるのは、俺にとって不利益にしかならないから、素直にありがたく思って、今の待遇を受け入れている。