第1話 よくある転生
俺は転生したらしい。
死んだ後神様に呼ばれて、スキルとか選ばせてとかはなく、新しく生まれ変わった俺が、急激なストレスや何らかのショックで、転生前の記憶を思い出すタイプだ。
転生前の記憶が蘇ると、今生の記憶と混じり混乱することがよくあるようだが、俺の場合それはなかった。
なぜなら、俺の今生の記憶は、殆どなかったから。
つまりどういう事かと言うと、良くは思い出せないのだが、生まれてたいして生きてないうちに、転生前の記憶を思い出したってことだ。
生まれてしばらくは家で育てられていたのだが、ある日外に連れ出されたかと思うと、寒空の中捨てられてしまった。
今生の俺は、捨てられた事はわからなかっただろうが、突然知らないところに置き去りにされ、不安と恐怖から混乱し、そのショックで俺の記憶が蘇ったというわけだ。
正直なにが起こったのか全くわからなかったし、赤ん坊の目でははっきりと見えないから、周囲がどうなっているかもわからなかった。
どんなところに捨てられたのかはわからないものの、最後の良心からせめて人里に捨てられていることを期待し、とにかく泣き叫び続けることにした。
というかそれしか出来ないしな。
運が良かったと言うか、捨てていった奴はまだまともだったのか、人里には捨てられていたらしく、しばらくすると黒いローブを着たなにかが、俺を拾って部屋の中に連れて行ってくれた。
どうやらここは孤児院のようなところのようだ。俺の他にも赤ん坊の声がするし、そういった施設であろうことはなんとなくわかった。
哺乳瓶のようなものでミルクを飲ませてくれたり、粗相したものを片付けてくれたりするから、ある程度快適に過ごせているが、たまに俺のミルクを盗んでいくやつも居るから油断はできない。
そうやって食っちゃ寝しているうちに、色々と考えていたのだが、まず気付いたのはここが日本ではないこと。目はあまり見えないものの、耳はちゃんと聞こえるからわかったのだが、言葉が全くわからなかった。
転生前の記憶もそんなにはっきりとしているわけではないので、そこまではわからないのだが、日本語では無いのは確実で、他の英語や中国語のような響きにも感じられない。ロシア語とかフランス語はそもそもわからないが、日本でないことは確実そうだ。
周囲の人間が話す言葉がわからないのは不便だが、一歳にもなっていないのだから、ゆっくり覚えていけば良いだろうとは思う、なるべく早く自分の置かれた状況を知りたかったりもするが仕方ない。
せっかく転生前の記憶を思い出せたのだから、出来れば楽に生きたいものだ。とは言え、天才だとか神童だとか言われても、すぐにメッキが剥げそうだから、慎重に行こうと思う。
ある程度日にちが経ってくると、徐々にだが目が見えるようになってきた。
それまでは色もあんまりわからず、なんというか白黒のぼやけた世界を見ているようだったのが、段々と色がついてきたような感じだ。
だがちょっと変な感じに見えてしまう。
頭と思える辺りの色が変なのだ。
赤や茶色はあるかなとも思うのだが、青やピンクはどうなんだろう?
よく見えないからわからないだけで、モブキャップ的なものを被っているのだろうか?
だがそれを深く考えるより、もっと重大な問題が発覚した。
なんというか、手が短いので直接確認するのが難しいと言うか、いややろうと思えば届くと思うのだが、確認するのが恐ろしいと言うか…
まぁ簡単な話、有るべきものが無いようなんだ。
そもそも俺の記憶によると、転生前の俺は男であったはずなのだが、それがないようなんだ。
まだ赤ん坊だから、目立たないのかも知れない。
この辺の気持ちはどうすればよいのか、経験がないのでなんとも言えないのだが、アイデンティティの崩壊とでも言うのだろうか?食っちゃ寝しながら正解がわかるまでは、保留としておこうと思う。
結論から言うと、やはり無かった。
生まれ変わって人間になる確率がどんなものか知らないが、人間になれたことだけでも良しとするべきなんだろう。そう考えれば、生まれた途端に捨てられて、それでもこうして生きていられるだけ運が良かったんだ。
性別が変わる位なんともない話だ。たぶん。
ただちょっと思ってしまうのが、はたして俺は、男を好きになることが出来るのだろうか?
そういった心を持っている人がいるのは知っているし、別にそれについてどうこう言う気もしないが、俺は男の心を持っている状態で、男を愛していけるのだろうか?と言うのも、この国がどこの国かはわからないが、そういった方面に厳しい国だったりすると、世間一般の普通ってやつについていけない可能性が出てきた。
子供ってやつは理性より本能で生きるものだ。
大抵の生物は、弱いものや違うものに対して、否定的な見方をする。
そうすることによって、自分が生き残る確率を上げる。
わかるだろうか、俺は楽に生きていけるようになりたいのに、変に目立ったりしては楽に生きるどころか、いきなりハードモードになってしまう。
どうすればよいのか?そんな事を一生懸命考えていたのだが、そんな事はどうでも良くなってしまう事件が起きた。
ある日、お世話をしてくれる人が抱き上げてくれた時、今まで輪郭がはっきりとはわからなかった。
だがその日はやけにはっきりと見えた。
抱き上げてくれた人の髪が緑色だったのを。
あーそうか。頭が水色やらピンクやらに見えたのは髪だったのか。
そして、唐突に理解してしまった。
そうか。ここは異世界だったんだな。