天虹寮
「今期は豊作だな。君で十二人目だよ。男子は七人で四人部屋に入ってもらうことになる」
朔也は集団生活が得意な方ではなかったので、この雨森の言葉に肩にかけたバッグがずっしりと重たくなるような感覚がした。
校舎から出ると渡り廊下になっていた。そこは丁度中庭がよく見える。六角形の中庭はには色とりどりの花が咲いている。しかし、朔也の目を惹いたのは中心にある一本の大木だった。巨木からは枝が垂れさがり、そこには桜の花に似た六枚の花弁を持つ紫の美しい花が無数についている。その視線に気づいた雨森が説明を始めた。
「見事な庭園だろう? それぞれの寮のシンボルになっている花々も咲いている。赤と青のアネモネ、黄と緑のダリア、黒と白のユリ、それにサンカヨウ。サンカヨウって知ってる?普段は白い花なんだが、雨が降ると透明になるんだ。そして枝垂れ桜の花は、御子神学園が創設されて以来ずっと咲き続けていると言われているんだ。僕も何十年もここにいるけど、散ったところは見たことも無いね」
雨森は説明しながら真ん中にあるサンカヨウの植えられた建物に向かっていた。
「ここが天虹寮」
サンカヨウを模した銀の彫像にIDをあてた。かちゃりとカギが開く音がした。
「さて、入ってくれ。明日には真山も聖石銃が支給されることになるから、霊珠は何時でも携帯しておくようにね」
寮は校舎同様、豪奢な作りになっており、ちょっと豪華な別荘を彷彿させた。
「二階は女子寮だから立ち入り禁止だよ。食堂と風呂は七つの寮合同で別棟にある……ここが真山の部屋だ」
一階の手前の部屋の扉をコツコツとノックして、雨森は部屋に入った。部屋は四つのベッドが置いてあり、それぞれに仕切りと机、クローゼットが備え付けられている。そこには三人の少年が各々のブースで自由にしていた。三人の視線が朔也に集中する。
「みんないるか? 天地兄弟と遠野で全員だな。紹介するよ、今日から仲間になる真山朔也だ。よろしく頼む」
ぱっと茶髪に染めたそっくりの顔をした少年が二人、朔也を取り囲んだ。
「新入りか! 俺は天地謙。謙虚の謙だ。ケンって呼び捨てでいいぜ」
「俺は譲るって書いて譲。みんなにはジョーって呼ばれてる」
交互に真山の肩をそれぞれ叩いた。
「俺たちは四か月前に来たんだ。ここにいたら意味なんてなくなるけど、一応本来なら高二、十六だった。真山はいくつだ?」
「僕は高校入学したばっかりで……」
「あぁ、そりゃあ災難だったな。もうちょっと早く風邪にかかってりゃ受験勉強しないで済んだのに」
ケンが神妙に頷いた。
「俺たちは丁度期末テストの最中でな。試験受けなくてラッキーだったぜ。まさかその上魔法風邪に罹っちゃうなんてな」
ジョーが楽しそうに親指を立てた。
「こら、天地。そういう不謹慎なことを新入生に吹き込むのはやめなさい」
はーいと二人は自分たちのベッドに戻っていった。それから遠野と呼ばれた細身の少年が歩み寄ってきた。
「遠野真守。よろしく」
遠野は黒い切れ長の目で一瞬探るような視線で朔也を見た後、微笑んで右手を差し出してきた。握るとひやりとした感触が伝わってくる。
「それじゃあ、三人ともいろいろ真山に教えてやってくれ。頼んだぞ」
そう言い残して雨森は去っていった。
お読みいただきありがとうございます。
次回「ルームメイト」をどうぞよろしくお願いいたします。
ご指摘ありがとうございました!七話の題名修正しました。あと長くなったので二つに分けました。引き続きよろしくお願いいたします。
透明なサンカヨウの花はとてもきれいなのでよろしければ検索して見て下さいね。