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魔法銃士の少年は美少女アイドルとともに竜の歌の夢を見る  作者: 三ツ矢 鼎
第一部 魔法学園編
2/88

退屈で貴重な一日

アイドル用語は後書きに記載しておきますので、参照してください。

万が一使い方が間違っていたらご指摘お願いします!

 誰かが歌っている、そんな夢を見た。そこで真山朔也(まやまさくや)は目を覚ました。時間は午前六時、いつもの起床時間より三十分ほど早かった。ベッドサイドをさぐって、眼鏡をかける。鏡の中の朔也は黒髪は癖毛でいつもあちこちにはねていた。両親におはようと言って、朝食を食べる。いつも通りの朝だった。


「おはよう、真山」


クラスで声をかけてきたのは数少ない友人である関だった。関とはジャンルは違えど、趣味を通じて親交を深めた。


「おはよう、関。なんだか、嬉しそうだね」

「今日はマギ☆ドキの第二期の放送日ですからな。ずっと楽しみにしてたのですよ。第一期で魔法使いに変身した少女たちが悪の結社ドラコーンの謎に迫る……マリカちゃんの活躍をこの目に焼き付けなければ」


 関の言葉を聞いた朔也は苦笑した。この現代に本当に魔法使いになりたい人間なんていないのにと皮肉に思う。その会話を聞いていた女子生徒が通りすがりに一言呟く。


「ヲタクキモッ」


 手に汗握り、熱弁(ねつべん)(ふる)っていた関は、まるで冷水をかけられたようにしゅんとなってしまった。たかが三十人のクラスと言っても、そこには歴然とした力関係が存在する。朔也や関のようなコミュニケーションが下手で一般受けしない趣味を持つカースト下位者は、上位の者には(かな)わないのだ。そうこうしている間に予鈴が鳴り、がやがやとそれぞれが席に戻る。この春、そこそこの高校に入学した朔也は、既に高校生活に退屈していた。


 背の高い前の席の生徒の陰に隠れて、校庭を眺める。さんさんと春の日差しが窓から降り注いでくる。そこで朔也は欠伸を噛み殺した。昨夜急に目が覚めて、それから再び寝付くのに時間がかかったのだ。何故起きてしまったか、寝ぼけていたせいでよく覚えていない。そこまで考えたところで朔也の思考は中断された。


「真山、さっきから呼んでるぞ。さっさと三十二ページの四行目読め」

「あ、はい」

「なんか気がたるんでるなぁ。俺の授業がそんなに退屈か?」


 野太い声で教師が朔也に高圧的に詰問(きつもん)する。


「いえ……」


「だったら、さっさとしろ。いつまでも中学生気分でいるんじゃねぇぞ」


 教室内にくすくすとした忍び笑いが満ちる。朔也はそっと眼鏡の位置を直した。


(早く放課後にならないかな……)


 朔也の唯一の趣味は地下アイドルであるホワイトフェザーの追っかけだった。学校が終わると急いで駅へと向かう。今夜もいつものハコでライブが行われることになっている。


 朔也は電車に乗り込みながら、音楽プレイヤーを操作してイヤフォンを耳につけた。直接会場に行ける利点もあって、私服の高校を選んだ。これから、彼女に会えると思うと心が(おど)る。


 ハコにはもう人だかりが出来ていた。


「真山氏来たでござるか?」

「戸田さん。流石(さすが)に早いですね。これでも学校から直で来たんだけど」


 ハハッと戸田は軽く笑った。


「なに、あみたんのためなら講義の一つ二つ、サボることも許されます……最近、康弘氏は干されてますな」


 中学の時従兄の康弘にライブに連れられてきて以来、朔也は未体験のライブの熱狂とパフォーマンスに魅せられ、従兄よりもハマってしまった。逆に従兄は大学で彼女が出来てからはすっかりご無沙汰(ぶさた)である。


「なんだか大学の方で忙しいみたいですよ」

「全くヲタ活をないがしろにするとは嘆かわしい」


 戸山はやれやれと言った様子で首を振った。


 朔也はそれから知り合いのファンたちに挨拶し列の最後尾に並んだ。待っている間もSNSやHPで今日の曲目をチェックする。


(今日の物販の時みつきに会えるだろうか……)


 ファングッズの販売にはアイドルが手売りし、その際には顔を合わせ短い会話を交わすこともできる。ホワイトフェザーは四人組のグループで偶然にも四人の苗字に鳥に関連した漢字が入っていることに由来する。リーダーの小鳥遊(たかなし)こころ、鷺沼(さぎぬま)あみ、鳩山まき、そして朔也の推しメンの鶴来(つるぎ)みつきだった。白金色の髪をなびかせて歌うみつきを初めてライブを見て、朔也は衝撃を受けた。同じ年でこんなに可愛い女の子に出会ったことがなかった。そんなことを思い返しているうちに開演した。


 ハコには百人弱のファンたちが集まっていた。ざわざわとした喧騒(けんそう)の中、会場が暗くなると一時水を打ったように静まり返った。ステージに四つの人影だけがぼんやりと見える。アップテンポの曲のイントロが流れるとステージに照明が灯り、四人の少女が右手を高々と掲げポーズを取っていた。少女たちが現れると会場は歓声に包まれた。真っ白な衣装で踊って歌う姿を熱狂的なファンたちはジャンプしたり、サイリウムやペンライトを振って盛り上げていた。朔也は一番後ろでみつきを夢心地で見つめていた。


(こうしている時だけ生きているって気がする)


 踊る度に白いフリルのスカートがふわりとひるがえり、長い白金色の髪が広がる。ジャンプしているファンたちの隙間からちらちらとその姿が見える。その一瞬、みつきは朔也を見た。


(目が合った?)


 思わず朔也ははしゃぎそうになってしまった。しかし、こんな最後列にいてレスを貰ったと勘違いするのは一番有り体に言って痛いヲタクの典型(てんけい)だとはやる気持ちを静めた。ライブは熱狂の中幕を閉じた。

 

 物販コーナーには長い行列が出来ていた。物販は希望のアイドルのいるブースに並び、スタッフに買いたいグッズを伝える。そのグッズにアイドルがその場でサインをしながら、ファンとの交流を行う。朔也はみつきの列に並び、じっとその時を待った。


「CDとチェキ一枚下さい」


 朔也の声が若干(じゃっかん)震えた。みつきが目の前にいる。色素の薄い瞳は金がかった茶色でまつ毛は長く、鼻は少し小さめで、桜色の唇をしている。薄いCDを手渡され、みつきがにっこりと笑って写真を手に取り、サインしていく。


「お買い上げありがとうございます……今日一番後ろで見ていてくれた人ですよね? おいくつですか?」

「高一です……」

「同じ年ですね。これからも応援よろしくお願いします」


そう言ってみつきは右手を差し出した。朔也はドキドキしながらその手を握った。みつきの手は燃えるように熱かった。


 僅か数十秒の会話だったが、みつきが自分のことを認知してくれていたのを感じて朔也は胸が高鳴った。口の中がカラカラだった。場の雰囲気に流されて声を出したので喉も痛い。早く帰ろうと朔也は家路についた。月がのぼっているが、その姿はあまりにか細い。


(そういえば、昨夜は新月だったな)


 ぼんやりと朔也は電車の窓から空を見上げた。駅を出て家に着くまでに段々と身体が重くなり、咳が増えてきた。やっと帰宅すると母親に夕食はいらないと断り、ベッドに倒れこむように寝転がった。何とか体を起こし、スエットに着替えて布団にもぐりこんだ。春だというのにひどい寒気が背筋を駆け巡り、やがて泥のように深い眠りに落ちていった。



ハコ=ライブ会場

推しメン=お気に入りのメンバー

レス=アイドルが目線を特定のファンに送ること

サイリウム=光っている棒。ヲタクの人が良く振ってるアレ。

干す=ヲタク活動を休止している状態

チェキ=インスタントカメラで写真を撮り、サインを入れてもらえるサービス



お読みいただきありがとうございます。


次回「魔法風邪発症」をどうぞよろしくお願い致します。

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[良い点] ①タイトルが珍しいので、惹かれるものがある ②あらすじが分かりやすい、かつ本文とちゃんとリンクしてて〇 ③文章の語彙力が高く、かつ読みやすい ④『魔法症候群まほうシンドローム』のウィルス発…
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