待望のVRギアを装着して俺はらぶ無双したいのに!
まさか。
今日は親元から離れ一人暮らしの初日。
新しい仕事と両親と離れて暮らす緊張感と寂しさは・・・今はない。
引っ越しを手伝ってくれた親を早々に帰ってもらうと、俺は引っ越し段ボールを空け、アマゾンの箱を引っ張りだす。
ついにこの日が来たのだ。
興奮する俺は、強引に箱のガムテをひっぺ剥がし、念願の物を出した。
それは一か月前に届いていたが、躊躇いもありちょっぴり恥ずかしくて一人暮らしをはじめる楽しみに取っておこうと思った一品。
VRギアと、そのソフト「萌え萌えメモリアル~らぶらぶ+ばーじょん」だ。
・・・こんなの顔に装着して、でへへなんかやって親に見られた日には目も当てられない。
扉の鍵が閉まっているのを確認し、俺は深呼吸をして、VRギアを頭に装着する。
目の前に広がるモニターには、学園が映し出され、二次元女の子キャラが登場し、タイトルが現れる。
俺は期待に胸を高まらせる。
よしっ、どうせ仕事は二日後だ。
このゲームハマり倒してやるぜっ、俺は学園の校門へ立つ。
物語のスタートだ。
俺と彼女のスイートなラブストーリーが開幕する。
「遅刻っ、遅刻っ!」
早速、食パンを口にくわえ駆けて来るボーイッシュな女の子が走って来る。
ここから出会いがはじまるんだろう。
「よっ」
俺は手を上げた。
「ハリケーンっ!ミキサーっ!」
猪突猛進、俺は彼女のショルダータックルを食らうと、上空にはねあげられ錐もみしながら、頭から地面にめり込んだ。
「GAMEOVER」
「って、なんだこれっ!」
俺はVRギアを外した。
辺りを見渡し、もう一度、ソフトのタイトルを確認する。
「もえもえメモリアル」間違っていないよな。
「・・・・・・」
俺は缶コーヒーを飲むと、ゲームを再開する。
俺の目の前に女教師が立っていた。
成程、これからムフフな展開が待っているんだな。
「たかし君、なんで遅刻したの」
ブラウスのボタンを空け胸元をちらりと見せ、先生は迫って来る。
「・・・先生、あの、通りがかりの女の子にハリケーンミキサーをされまして・・・」
「いけない子っ、人のせいにして、お仕置きしなくっちゃね」
「ああっ、先生っ!僕に僕にも教えてよっ!」
先生は腕まくりをする。
ああ、これから先生とめくるめくムフフなっ。
ちらりと右肘に黒いサポーターが見えた。
・・・まさかっ。
「うりゃっ!」
ウエスタンラリアートが飛んできた。
「不沈艦っ!」
「GAMEOVER」
「ふざけろっ!」
俺はVRギアを投げつけた。
激しく憤る俺。
「あと、一回チャンスをやろう」
俺は独り言を言いつつ、VRギアを再び装着する。
桜の季節・・・もう卒業の時だ。
あの伝説の桜の木の下で、あの娘が待っている。
俺は卒業証書を片手に走り出した。
眩しい光で見えない女の子のシルエット。
愛の告白を受け、これからムフフっ。
女の子もこちらへ走り出す。
感動のフィナーレだ。
女の子は側転をし、勢いをつけ飛び上がると空中で一回転し、俺目掛けて両手でバッテンをつくり俺の胸元に一撃を食らわす。
「むっ、ムーサルトプレスっ!」
「GAMEOVER」
スタッフロールが流れる。
俺はそっとVRギアを置き、もう一度ソフトを見た。
「+、ぷらす、ぷられす・・・ぷろれすばーじょん」
ああね。
納得出来るかっ!
早速、明日、本編を買いに行こおっと。
まさかのっ。