デウスエクスマキナ
魔獣とは、異世界の住人が作り上げた侵略兵器らしい。より正確には、比較的知能の低くある程度の生命力を持つ生物を、強力かつ従順な駒に変えるウイルスのようなものをこの世界にばらまいた、というのが正しいようだ。
魔力という摩訶不思議な力を操る謎技術、魔術により作られたそれらは強力で、現在の人間の科学技術では対抗することはほぼ不可能。
このままなら、人類は滅びを待つしかなかっただろう。
しかし、そんな魔獣に対抗する力を持ち、人類を救う者達が現れた。それが魔法少女だ。
この魔法少女とは、魔力を扱うことに長けた高位存在との契約により、魔法という特別な力を手に入れた少女達。
では、なぜ少女しかいないのか。
一言で言ってしまえば、適性だそうだ。
高位存在との相性、魔力を操る才能、貯められる魔力量。
そういったいくつかの条件を、男が満たすのはまず不可能。
そしてできるだけ若い年齢の方が、魔力を操る力が成長しやすいらしい。
だがあまりにも幼いと、もて余すどころかのまれてしまいかねない。そのため、10~15歳の少女が選ばれやすいという。
目の前の鏡を見てみる。
そこには、まさしく人形のような少女がいた。
身長は、150センチに届かないぐらい。
肌はまさに白磁のようで、ほくろどころかちょっとした色の変化も見られない。
髪は真っ白で、赤と青のメッシュが入っていおり、紫の瞳は宝石のように輝いている。
身につけているのは、金属と布が調和したドレスアーマー。
幼げな顔を無表情からピクリとも動かさないのが、より人形らしさを醸し出している。
これが、今の『俺』の姿だ。
いや、もう私だったか。ついさっきマスターに、一人称を「私」にするように命令されたんだった。
「どうだい?体の調子は。」
『上々です。マスター』
私の喉から、抑揚の無い平坦なソプラノボイスが発せられる。それは人の声というより、スピーカーから発せられる音に似ていた。
まあ、そりゃそうだ。なんせ私の喉には今、血が通っていない。それは機械、いや機械と似ているが違う。マスター曰く、魔導機械とでも言うべきものでできている。
喉に限らず、私の体は大部分が魔導機械に置き換わっている。
ズタズタになった内臓はもちろん。右腕と両足は義手と義足に。さらに脳の一部は超高性能コンピューターだ。目は超高性能カメラだし、全身の皮膚と体毛は特殊な素材に変わってる。つまり外側から見える部分に肉は存在しない。あ、でも口の中はまだだったな。歯や舌なんかは普通に生身だ。まあそれでも、普通の人間よりははるかに頑丈らしいが。
まあとにかく、私は無事『機械仕掛けの魔法少女デウス・エクス・マキナ』となった。名付親はもちろん、私のマスターである邪神様だ。扱う魔法は、魔導機械を創造し操る『機械魔法』。私の体の大部分を構成している魔導機械は、私が『機械魔法』で産み出したものだ。
最初、魔法少女にして助けてくれると言われた時はてっきり、怪我も全部治してくれるものとばかり思っていた。
けれどマスターは、私の体を幼い少女のものに変え、魔法少女へと覚醒させると、時間停止をかけ私にこう言ったんだ。
『それじゃあ後は、自分でやってみようか!』と。
全くもって冗談じゃない。初めての魔法の行使が自分の生命維持装置の創造とか。失敗したらどうするつもりだったんだ。
「そうか上々か。それは良かった。無事に体を補完できたようだね。」
『ほんとに良かったです。』
結果的に成功で終わったけれど、魔法の行使中本当にこれでいいのか心配でしかたなかったんだぞ。最低限チュートリアルか、簡単な手本くらい欲しかった。というかせめて、脳や呼吸器、循環器みたいな重要な部分はマスターがやるべきだったんじゃないかと思うんだが。
「いやいや、もし失敗してたら、何度でも時間を戻してやり直しさせてたさ。そのときはもちろんアドバイスぐらいしたよ。けれど君は一発でほぼ完璧に仕上げてきたからね。結果、する必要が無くなったというわけさ。」
『それでももう少し、手伝ってくれても良かったのでは?』。
「手伝う余地、あったかい?重要な部分は最初にほぼ完璧にすませたし。他の内臓や手足の時なんて君、私を放ってノリノリでやってたじゃないか。しかも色んな便利機能や武装を施してたし。そもそも君が言ったんだよ?私に『邪魔』って。」
『…』
確かにノリノリだった。というか思い返せば、途中から夢中で魔改造してたな。そして今、脳内コンピューターのログを見返してみたところ…うん、間違いなく言ってるね。『邪魔』って。あまりに夢中になりすぎて、全く覚えてなかったけど、これは反論のしようもない。
よし、こうなったら話題を変えるしかない。
『ところでマスター。』
「ん?なんだい?」
『そろそろ教えてくれてもいいと思うんですが。マスターの目的とやらを。』
「露骨に話を反らしたねぇ。まあそうか、うんそうだね。言っておこうか。」