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プロローグ

 



「…最悪だ。」




 澄み渡る青空を目に、俺が最初に呟いた言葉がそれだった。


 そこは瓦礫が散乱する、廃虚としか称しようの無い場所。そのなかでもとりわけ狭苦しい場所で俺は、仰向けになって空を眺めていた。

 それだけ聞くと、俺が廃虚廻りと野外の狭い場所に寝転がるのが好きなんていう、どことなく闇を抱えてそうな趣味嗜好をした奴に思えるかもしれないが、断じて違う。

 まず、俺には廃虚廻りや、狭い場所に入る趣味なんて無い。そもそもここはついさっきまで、人が少ないとはいえ一応商店街だったのだから。

 もちろん瓦礫だって、ほんの数分前までは商店の建物だった。

 狭い場所にいるのだって、俺の意思じゃない。

 何のことはない。ただ瓦礫に埋もれているだけだ。

 大丈夫かって?両足と右手の感覚が無くて、左目が見えないこと以外は、全身が痛くて仕方ないだけだ。

 …うん、全然大丈夫じゃないな。はっきり言って今にも死にそうだ。

 ではなぜ、こんなことになっているのか。

 災害?テロ?どれも違う。

 これは、魔獣の仕業だ。




 だいたい二年程前のことだ。

 奴らは突如、世界中に現れた。

 既存の生命とは一線を画す力を持つそれらは、後の研究で新種などではなく、生物が何らかの要因で後天的に変異したものだとわかり、魔獣と名付けられた。

 当然世界中の注目の的だ。新種のウイルス説や某大国の生物兵器説など、色々な説が真しやかに囁かれ、メディアは連日その事ばかり話題にした。やれウイルスだとしたら人に感染するのかだの、やれ動物愛護団体が某大国に抗議しただの、話題には事欠かなかったのだろう。

 中には宇宙人の仕業説を唱えたり、自分が全ての元凶たるマッドサイエンティストだと騙る者も出てきて、連日お祭り騒ぎだ。

 だが、次第にそうもやっていられなくなっていった。

 死人が出たのだ。それも大量に。

 インドで翼を持った空飛ぶ虎の魔獣が街中で暴れた。

 アメリカでは鋼のような皮膚と歯を持ったサメが船を沈めたり。

 南米で30メートルを超える大蛇の魔獣が何人もの人を呑み込んだ。

 アフリカでは疫病を撒き散らす鳥の魔獣の群れが都市に飛来した。

 日本でも、猪の魔獣がビルを倒壊させたなど、連日連夜そうした事件のニュースが途切れることはなかった。

 各国はこぞって軍隊を出動させ、魔獣を駆除、または捕獲させた。日本でも自衛隊が出動し、いたるところでその活躍は見られた。

 一時はこれで、ある程度は事態を納めることができると思われた。

 まあ、甘かったが。

 魔獣はどんどんその数も強さも増していった。それこそ、国家の手に負えなくなる程に。

 何せ、魔獣は科学の常識を覆すような力を手に入れていたのだから。

 火炎放射や空を飛ぶなんてのは序の口。水や風を操ったり、果てには地形や天候を操って天変地異を魔獣まで現れた。

 そうして防衛機関を蹴散らし、家屋やインフラを破壊し、何千何万という人間を殺戮。

 ほとんどの国がその国としての機能を失うまで、そう時間はかからなかった。

 日本は、だいたい一年くらい前だな。

 食料自給率が低いのによく持った方じゃないか?なんせ空路も海路も、魔獣が飛行機や船を壊すせいで使えなかったのだから。


 その後はたいへんだった。

 とにかく生きるのに必死だった。なんせ、その日食べるものを探すのも一苦労だ。

 缶詰めや菓子類なんかの保存のきく食品は早々に店から消えてたし、冷凍食品は壊滅。インスタント食品は、カップ麺とか水が無きゃ食えないものはかろうじて残ってたが。

 肝心要の水は、置いてたミネラルウォーターが無くなった後は雨水なんかを濾過と煮沸して使ってた。燃やせるものは意外とたくさんあったしな。

 あと、地味に辛かったのが風呂に入れないことだな。

 服だって、一通り着た後はずっと同じやつを着回してた。

 そんな生活を、魔獣の被害に怯えながらするんだ。何をするにも命がけで、よく生き残れたなと思うよ。

 外国は、インターネットが使えなくなったあたりから情報が入って来なくなったので分からないが、似たようなもんだろう。


 まあそんな生活も、とあるコミュニティに拾われたことで多少ましになった。

 そこは、自衛隊の生き残りや元農家を中心に、二百人くらいが助け合って生きていた。こんなご時世で、俺みたいな特に何か特技を持ってるわけじゃない人間でも温かく迎えてくれた。

 良い人達だったよ。

 まあ、今じゃ何人生き残ってるか分からないがな。


 たぶん、油断もあったんだと思う。

 このコミュニティが生活していたのは、完全な田舎とは言いにくいものの、都会とも言えないとある町だった場所。

 そこは魔獣の出現も少なく、管理された田畑があり、近くには元商店街やアパートもある、新たな生活をするにはまさにうってつけの場所だった。

 たとえ魔獣が出たとしても、元自衛官達で充分対処できていた。


 …昨日までは。


 昼食を終え、食後の休憩にみんなと小一時間駄弁り、さて仕事を再開しようかというところ。

 アパートの方から爆音が轟いた。

 急いで窓から外を確認して見えたのは、岩の鎧を身に纏った、二足歩行の巨大な化け物。

 それが、アパートを粉砕し、さらにここ──商店街に突っ込んでこようとしているところ。

 咄嗟に、横にいた女の子──陽菜ちゃんをかばったところで、俺の意識は暗転した。


 

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