閑話 とある凄腕パーティーの話2 sideフィーネ
「──わぁ……!」
そこには、文字通りの喧騒があった。
お世辞にも広いとは言えない店内に、冒険者という冒険者がそれぞれの赴くままに、喋って笑っている。
その全員がゴツい冒険者というのもあって一見入ることが躊躇われそうな雰囲気ではあるのだけれど、不思議と嫌な感じはしない。
寧ろその逆だった。
楽しそうとさえ感じる。
と、入り口で様子を見ていると、綺麗な女性──余りにもラフな格好だがお盆を脇に抱えているので恐らくウエイトレスさんだ──が近づいてきた。
「いらっしゃーい! えっと2人ね、こっちへどうぞー!」
満面の笑みを見せながら中を進んでいくウエイトレスさんの後に、私達も続く。
それにしてもスゴい人気だ。
パッと見、空いているテーブルが見当たらない。2階とかあるんだろうか?
そんな疑問を胸に、私達が案内された先は──、
「では、ごゆっくり~。注文が決まったら呼んで下さーい」
「「…………なんか、低くない(か)?」」
めちゃくちゃ低い、カウンター席だった。
テーブルなんて私の太ももに届くか届かないかくらいの高さしかない。
(これ、もしかしなくともドワーフサイズじゃん)
このお姉さんには、私達がドワーフにでも見えているとでも言うのか。
万能薬持ってるけど、目にぶっかけてあげた方が良いんだろうか。
「「…………えっと」」
まさかの展開に、私も、ローゼットでさえも困惑する。
すると、ウエイトレスさんがふと思い出したかのように口を開いた。
「あ、見ての通りテーブル席は一杯なのでカウンターになっちゃいますけど良いですか? 良いですよね!」
(……多分、天然なんだ、この人。うん、きっとそうだ。そういうことにしとこう)
「えっと、はい、良いですよ。ローゼットも良いよね?」
「やっぱり、少し小さ……むぐっ、むごごっ!」
「はい、良いみたいです!」
なにやら文句を言いそうだったローゼットの口を塞ぎながら笑顔で答える。
不正はない。
「じゃあ、これがメニューです。注文が決まったらまた呼んで下さいね~」
あちらもニッコリ笑って、嵐のようなウエイトレスさんは喧騒の中へと戻っていった。
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そして1時間が過ぎた。
出される料理はどれも洒落ていて美味しかった。
相変わらず席は小さい(私はまだマシだが、ローゼットに至っては最早可愛そうなレベルだった)けれど。
「それにしても、女将さんが小人族だったなんてね」
料理が美味しいのも頷ける話である。今食べているパスタも言わずもがなだった。
話を聞いてみると、この店は1人で始めたのだそうだ。
このカウンター席が低いのもそいうことらしい。
今、私達の目の前では、今も女将さんがせっせと料理を作っている。
ドワーフサイズのキッチン………高さは、唯でさえ背の低い私の腰にも届かない程なので、ヒューマンが手伝うには少し骨が折れるだろう。
そのため、料理は全て女将さんの担当で、ヒューマンの2人は給仕に徹しているらしい。
改めて聞くと、中々にハードな仕事だ。これだけのお客を3人で回すのは、素人目の私から見ても大変なのが分かる。
(……他にも誰か雇ったりはしてないのかな?)
その時だった。
「アルマさん。ここ最近、“メル"ちゃんを見かけないがどうしたんだ? もしかして、辞めちゃったとかか?」
近くの席に座っていた40代くらいの男性が、そう言っ──
「「────え?」」
パスタを口に運ぼうとしていた手が、止まった。
ローゼットも同様だ。
そんな私たちを横に、女将さんが手を動かしたまま答え始める。
「メルはちょっと体調を崩してるから休ませてあるだけですー。辞めたワケじゃないので、安心してほしいですー!」
「なんだ、良かったぜ。俺ぁてっきり辞めちまったのかと思ってよ。メルちゃんは俺らの癒し枠だからな、安心し──」
「ちょ、ちょっと待って! 今、“メル”ちゃんって、そう言いました!?」
そんな会話に、無理やり割り込んだ。
流石に、今のを聞き流すほど道化ではない。
「……おいおい、どうしたよ、女。メルちゃんの知り合いかなんかか?」
「教えてください、女将さん! そのメルって子は、いまどこに?」
「へへっ、お前無視されてるぞ」
「……ちっ」
そんな会話を背に、カウンターから身を乗り出す。
もし激情して襲ってきたら返り討ちにしたのだが、どうやらここの人たちは比較的温厚のようだ。
というかローゼット。
君はいつまで止まってるんだ。
びっくりしてるのは分かるけども。
「……」
対して女将さんは、包丁を動かしたまま答え始めた。ただ先程とは違い、何故か私達だけにしか聞こえないような小さな声だった。
「少し落ち着くです。その、あなたが探しているメルさんとは別人という可能性は考えないです?」
「……! それは」
言われてみればそうだ。
“メル”という単語を聞いて思わず焦ってしまった。
そもそも情報の通りなら、メルちゃんたちは捕らわれている筈なのだ。
──だが。
(……一応。聞いておきたい)
だって、メルという名前なんてそうそうあるものではない。少なくとも、歴史を少しでも囓っている人族であれば、そんな名前は付けない。
ただ1つ、獣人を除いて。
「す、すみません。でも、1つだけ。
そのメルって子は、黒髪黒目ですか?」
次の瞬間。
「────」
女将さんは、動きを止めた。
「ちょっと、耳貸すです」
だが、それも一瞬。
肩を掴まれ、ぐい、と引き寄せられる。
「ぅえ!?」
すごい力だった。
魔導師とは言え、Aランク冒険者である私が、為す術なくその力の言いなりになってしまうくらいの、馬鹿力。
(低く見積もっても、物理特化のAランク冒険者並の怪力! もしかして、この人……!?)
どこかで見たことがあるとは思ったが、この人は──、
と、そこで。
「──“新種の獣人”」
「!?」
「この言葉に聞き覚えがあるなら、王都に行くと良いです。ただ、今は無理。それだけは言っておくです」
耳元で、そう告げられた。
「──え、ちょっとまっ」
「これ以上話すことはできないです。さぁ、さっさと全部食って帰るです」
そう言うと、女将さんはまた包丁を動かし始める。
もう口を利かないぞと言わんばかりに、黙々と。
「ローゼット、どう思う……?」
「……」
「って、いつまで固まってるんだ君は!? もしかして聞いてなかったとかじゃないよね!?」
「ん? あ、あぁ、聞いてたぞ」
パスタをむぐむぐし始めるローゼット。
「ホントかなぁ……」
「俺は馬鹿だから、良くは分からなかった」
「えぇ……」
「……だがまずは、ユーインに指示を仰いだ方が良いんじゃないか?」
「む」
確かに、一利ある。
もう女将さんは話してくれないみたいだし、私達だけで話してもなにも成果も無さそうだし、それが最善のようにも思えた。
そう、結論付けて。
「「──ごちそうさまでした」」
全ての料理を平らげた私達は『熊の蜜嘗め亭』を後にした。
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短い短い夜が過ぎた。
私は目を擦りながら、まだ人が少ない通りを足早に進んでいた。
時刻は日が昇るかどうかの境界線と言ったところで、肌寒い空気が顔を撫でている。
「……」
そんな私の前には、ほんの少し足が覚束ない彼がいた。
「──ユーイン、本当に大丈夫?」
「あぁ」
交わされる短いやり取り。
本人は肯定しているものの、その声音には明らかに疲労の色が感じられる。その証拠に、目の下には巨大な隈が出来ていた。
そんな様子を見て。
「……なら、良いんだけど」
私は内心とは裏腹に、そう言うことしか出来なかった。
勿論仲間として、彼を休ませたいという気持ちもある。だがそれ以上にその選択は酷でもあった。
ユーインにはこれが終わったらいっぱい休んで貰おうと心に決め、どうにか話題を変えようと努める。
「それで、ユーインはどう思ってる?『あの話』のこと」
「ドワーフの店主が言ってたっていう話か?」
こくりと頷く。
彼は1拍ほど置いた後、答え始めた。
「実際に見てみないと、なんとも。だが、メルちゃんがいないんならそうなんだろ」
「! やっぱり、ユーインもそう思う?」
「あぁ。多少の疑念は残るけどな。
俺がメルちゃんの立場だったとして、何かしらの理由で捕縛から逃れていたのなら、ほぼ確実に都市に赴いて情報を集めているだろう。
あの子は、それが出来てしまうくらいには、子どもを辞めている。皮肉な話だ」
「……」
「まぁ、あくまでも仮定の話だからそこまで気にしなくて良い。それよりも問題は、なぜそのドワーフの亭主がメルちゃんを知っていたのかってことなんだが……それは後でだ。
──着いたぞ」
「!」
立ち止まったユイーンの視線の先を目で追う。
「……って、え?」
だがそこにあったのは、どう見てもただの家だった。
奴隷商会などもっての他。
そもそもそれ以前に、何かの店だと言われても疑ってしまうくらいの、質素さが全面的に押し出された小さな建物。
ユーインが言うのなら奴隷商会で間違いないのだろうけど、にわかには信じがたいくらいだ。もしかしたら、それが狙いなのかもしれない。
「こういう後ろめたいモノの類いは、路地裏にあるのが定石なんだがな。……建物を隠すなら建物のなかってことなのか」
溜め息を吐くユーイン。
どうやら、見つけることに相当苦労したらしい。
「さ、流石ユーインだね。お疲れ様」
「流石ユーインだ! ハッハッハッハッハ! 疲れているようならおんぶをするが、どうだ!?」
今まで黙していたローゼットも称賛を口にした。
「……要らん。というか大声を出すな。頭に響く」
「スマン!!!」
「ローゼットに言った俺がバカだった。
──さて、行くぞ。時間がない」
ユーインがドアを引いた。
ギィィ、と古びた音を立てて中の様子が露になる。
「鍵は掛かってないんだね」
「あぁ、先に話は付けてあるからな。この時間、3分間だけ鍵を開けてもらっている。
……基本的に、話は全て俺に任せておけ。お前らが割り込むと面倒くさくなるからな」
「め、面倒くさい……!?」
「じゃあ行くぞ。静かにしてろよ」
私は頬を膨らませながら、ユーインの後に続いた。
これもまた隠されていた階段を、一言も喋らず3人で降っていく。
そして階段を降り終えた私達の目に入ってきたのは、外からは想像も出来ないような小綺麗な空間と、その部屋の真ん中に佇む、小太りのいかにもな男性だった。
その男は、私達が視界に入るやいなや、わざとらしく腕を広げて歓迎の姿勢を取る。
「お待ちしておりましたよ~。しがない冒険者様達……いや、Aランクパーティー『緋色の虎』御一行様と言った方が宜しいでしょうかねぇ?」
「……言った覚えはないんだがな。調べたか」
「いやはや、どうでしたかな。私はただ、今朝方、あなたの話を伺ったそこの彼奴めから聞いただけですので」
小太りの男は、近くに侍っていた覇気のない男性へ手のひらを向けた。当の男性は「ひっ……」と萎縮する。
「……」
本当に、胡散臭い男だった。
けれど油断も出来ない。そう思わざるを得ない雰囲気すらも醸し出している。
男はこちらに振り返ると、笑みを浮かべて続けた。
「あぁ、そうでした、スミマセン。
私達の方だけが貴殿方の素性を知っているというのも、失礼に当たるものでありましょう。
申し遅れました。『ムジン商会』代表のムジンでございます。今後、縁があればお見知り置きを」
挨拶にしては挑発的過ぎるそれに、ユーインが対応した。
「あぁ、しがない冒険者だ。今日だけ、世話になる」
「おっと!……フフ、これは1本取られましたな。いや、失敬失敬。舐められないことがこの世界で生き残る1番の手段ですので。
……さて、ではでは、私もこう見えて非常に忙がしい身なので早速、仰られていたという大商談に入りたいのですが」
大仰に身振りを加えながら、笑顔でそう宣うムジン。
だが、営業スマイルであろうそれが、ほんの少しだけ陰りを見せた。
「──はて、正気ですかな? 先日捕えられた獣人の新種を全て買い取りたい、というのは」
「嘘など言ってどうする」
「いえ、嘘などとは思ってはいませんよ。
……ただ、『新種』の獣人、それも『幼体』。数にして、凡そ50。1匹500万は下らないでしょう。
それに、もっと金額が上がる可能性もありますからねぇ。『獣人趣向』のお貴族様も沢山いらっしゃることですし、ね?」
「「「…………」」」
『獣人趣向』とは、そのままの意味合いである。
獣人に欲情する人への、侮蔑が含まれた呼び名だ。
獣人とその異種族間では子どもが生まれないことが分かってからは、その数は貴族などの金を持て余した連中の中で少しずつではあるが増えてきているらしい。
「最低金額ですら2億5千万もの大金が必要になるでしょう。そこに加えて……そうですな、1億はプラスされるのではないでしょうかねぇ? 幾ら名を馳せている冒険者様と言えども、流石にこの金額、は……!?」
ムジンは、投げ捨てられた異次元収納ポーチの中から溢れた大量の星金貨を見て、時を止めた。
「確認すると良い。1枚100万サリスの星金貨が500枚。オマケにポーチもくれてやる。これでどうだ?」
「しょ、少々お待ちを」
ムジンはポーチの中を全て出し、目にも止まらぬ早さで枚数を数えていく。
20秒もしない内に全てを数え終わったようで、ムジンは顔を上げた。
「フフフ、いやはや、参りましたな。思ったよりも良い商売が出来てしまった。今後ともご贔屓に、と言いたかった所ですが。さてはて、今回だけ、というのが非常に惜しいですな」
「……! お前まさか──いや、なるほどな」
「ユーイン? どうしたの?」
「……後で話す」
「?」
「ともかく、交渉成立だ。早速案内してもらおうか」
「フフ…………では、案内いたしましょう。どうぞこちらへ」
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案内された先にあったのは、鉄の重厚な扉だった。
「ここですぞ。『隷従の首輪』をしているので襲ったり逃げたりはしないですが、一応ということもありますので、注意を怠らぬよう。
私は外で待っています。何かあれば知らせてくだされ。
……凌ぎ程度にはキリシス語を学ばせてはおりますが、まだ進捗は良くありません。覚えが早い個体も幾らかはおりますが、会話は少ししか出来ないと思って戴くよう」
「……最初から話せる子は、居なかったんですか」
私は、それとなく聞いた。
“最初から話せる子”というのは、言うまでもなくメルちゃんのことだ。
「……? いえ、おりませんでしたな」
ムジンは嘘も無さげにそう言うと、懐から鍵を取り出し、扉を開けた。
────白い、部屋だった。
床も、壁も、少しばかり低い天井も、全て、清潔感のある白に覆われている。
遊び道具は、申し訳程度に青と赤のボールが置いてあるだけだった。
当たり前だが誰も遊んではいない。
「「「────。」」」
彼らは皆、こちらを見ていた。
楽しげにしている子など勿論いない。
誰もが希望を無くし、絶望だけをその表情に宿していた。
4ヶ月前に一体何があったのか。顔を見るだけで分かってしまうくらい。それ程までに、落ちていた。2年前に見た笑顔は見る影もない。
「……これは、想像以上、というかなんというか」
「そうだな。話し掛けづらい」
ユーインが小さく呟き、ローゼットでさえもどもる。
恨んでいてくれたほうが良かったとまでは言わないが、少なくとも───言葉は通じないまでも、そちらの方がまだ話し掛け易かっただろう。
視線が痛かった。
嫌悪と恐怖が雑ざった視線が。
そして、それと同時に気付いた。
(……やっぱり、メルちゃんがいない)
確証なんてものはない、ただの直感。
だけど、間違いないという確信はあった。
だって、あの子は────
「あなたたち、は、まえに、きた、ひと?」
「「「!!」」」
突如として白い空間に響いた拙いキリシス語に、私の思考は断ち切られた。
驚く私たちは、咄嗟にその声を辿る。
────いた。
部屋の中心から少し右。
ぬいぐるみを抱えた、ラクーンの少女がいた。
少女は、私たちと目が合うと、ぺこりとお辞儀。
「こん、にちわ?」
「「「こ、こんにちわ……」」
他愛もない挨拶をして。
私たちは少女と目を合わせたまま、互いに無言になった。
「……」
「「「……」」」
こ、これ、どう切り出したら良いんだろう。
いっそフレンドリーに話し掛ける?
いや、出来る筈がない。
少なくとも、ヒューマンである私たちには出来よう筈もない。
かと言って、優しく語りかけるのも違う気がする。
あれ、もしかしなくても詰んだ?
そう思っていると、少女が口を開いた。
「おねえさんたちは、いいひと、だよね」
「え?」
「だって、メルちゃんのおとうさんやおかあさんと、ともだちのひと、でしょ?」
「! 覚えていてくれたの?」
「おぼ……? ごめんなさい、しらないことば」
「あ、ごめんね。うん、そうだよ。ともだち。
──今日はね、あなた達を助けに来たの」
分かりやすい言葉を選びながら、ゆっくりと喋りかける。
助けに来た、だなんて烏滸がましいにも程があるけれど、今はそれしか言葉は見つからなかった。
ユーインとローゼットは、優しく見守ってくれている。
「それで、ね。メルちゃんは、どこにいるか、分かる?」
少女は少し考えた後、小さな声で答え始めた。
「メルちゃんは、こわい、ひとに、おされて、まもの……に……」
「「「……!!?」」」
暗くなる少女の顔に連られるように、自分の顔も青ざめていくのが手に取るように分かった。
「それはどこで!? ここ? それとも違うところ?」
「きがたくさんあるところ、しらない、ところ」
「…………弟君……アル君は、どこに………?」
「アルは、みてない。たぶん、いない?」
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「あぁ、そう言えばそんな報告がありましたな。『ビルドボアに襲われそうになったので1匹を囮にした』……と」
あの後ムジンに問い詰めたが、その口から出てきたのはそんな飄々とした言葉だった。
「残念ながらソイツは既に解雇しました。えぇ。
囮にするなら自分にしろ、とキツく言った後にね。
あぁ、いや、失敬。解雇したんでしたな。恐らくはもう会えないでしょう」
「……下衆が」
ユーインは心底見下した声でそう言った。
私も同じ気持ちだ。ローゼットは言わずもがなだろう。
「フフ……流石に面と向かって言われると、ちと心に来ますな。あぁ、そうでしたそうでした。そう悲観しなくても大丈夫かと思いますぞ。
あの後、死体の残りカスでもあればと思い、個人的に調べさせたのですが、その場所で何やら天災が通ったかのような破壊痕が見つかりました。その獣人の少女とやらの跡も見つかっておりません。
もしかすると、名の通った冒険者が助けてくれたのかもしれません。……にしては少々やりすぎのような気もしますがな」
「本当!?」
「嘘など言ってどうするのです、マドモアゼル。本当のことしか申し上げませんよ、私は。えぇ。
因みにもう1匹の獣人の所在については存じ上げておりませんな。こちらに至っては存在していたことすら初耳ですので……フフ」
「…………」
「えぇ。しかしまあ、良くご決断されましたねぇ。本来いる筈だったお客様を差し置いて、お金にモノを言わせてご購入。これを貴族様等々が知ってしまえばどうなるのでしょうかねぇ?」
「好きにしろ。最後の悪足掻きくらいは訳もない」
「……フフ、善処しましょう。出発は夜で宜しいですかな? それまでには積み荷はまとめておきますので」
「あぁ、頼む」
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深夜0時を少し過ぎた頃、私達は、皆を乗せてジガートを発った。
街から離れた今、一応の難関は去ったと言って良いが、未だに難問は残っている。
「あの話、信じて良いのかな。2人はどう思う?」
疑問を仲間へと投げ掛ける。
「今は、それを信じるしかない、という感じだ。一応、ドワーフの店主が言っていたことも矛盾はしていない。納得できない点はまだまだあるが、それを疑ったところで進展はないだろうな」
「右に同じだ。英雄らしく希望を見るなら、そう考えるのが良いと思う。ただ、アルに至っては全くもって分からない!」
「……結局はそこなんだよな。あの『隻眼の虎』が見逃すなんてあるのか?」
「「…………」」
「あぁ、クソ、とにかく今は王都のフィーネの屋敷に向かう。話はそれから考えろ」
「そうだね。よし、じゃあ一先ずはウルクを目指して……!」
「おう!!!」
「おいバカよせ、子どもらが起きるだろ」
「スマン!!!」
「ローゼットに言った俺がバカだった……」
「……ふふふっ」
いつものやり取りに、ホッとする。
とある凄腕パーティーの旅路は、まだまだ途中に過ぎない。
次回は説明回になります
読み飛ばしてもらって大丈夫です




