31話 会議は踊る
「……それで、お前たちに聞きたいことが山ほどあるのだが」
セルカは、視線を俺たちに合わせながらそう言った。
「……」
対してエイミは、先程まで背けていた顔を再びこちらに向ける。その碧眼には、どうすれば良いか分からない、という戸惑いの色があった。
恐らく、未だに不安なのだ。
本当のことを言ってしまえばどうなるのか、エイミなら簡単に想像出来ただろうし。
(……でも)
ここは、真実を伝えるべきだ。
「エイミは、大切な仲間」
「!」
「……ほう」
2人は別々の表情を浮かべた。
1人は一瞬驚いた後、嬉しそうに顔を綻ばせる。
だが、もう1人は俺の言葉に不審な表情を浮かべた。いや、不審というよりは見極めていると言ったほうが良い。
真っ直ぐに俺の目を、その髪と同じ色彩の瞳で見据えてくる。
息を呑んだ。
数瞬後、俺の口から出たのは、紛れもない、事実だった。
────エイミに何度も助けられた。
────エイミはずっと付いてきてくれた。
────エイミが居なかったら、私はここにはいなかった。
そんな、事実。
何分経ったのだろうか。10分のような気もするし、1時間以上も話していたような気だってする。
エイミは、ずっと俺を見ていた。
セルカも瞑目し、ずっと聞いていた。
そして、最後に、
「……だから、エイミにはずっと一緒にいてほしい。一緒に冒険してほしい」
嘘偽りなんて無い、ほとんど勝手に口から出た懇願。
俺はセルカの薄く開いた目を見つめ返した。
短くも重く硬い空気が張り詰める。
顔を一筋の汗が伝い、ベットに落ちた。
「っ……」
再び、息を呑む。
その直後であった。
「本当に、そう思うのか?」
氷のような声が、響いた。
「そもそも、今回こんなことになったのは、その『仲間』とやらのせいだろう?」
「っっ!?」
エイミから叫びにならない悲鳴が上がる。手は震え、発汗も最高潮に達しようとしていた。
対して、俺は黙ったままだ。黙ることしか、出来ないでいる。
そんな俺たちに構わず、妖精の断罪は続く。
「今まで何をしてきた? 悪事ばかりを働いてきたクズを、生きるためだったとは言え、許されると思っているのか」
と。
余りにも残虐なまでに、そう言った。
限りない正論。
限りない愚論。
これ以上ない、罵倒。
妖精の口から吐き捨てられた、拒絶。
その言葉の刃は、限りなくエイミを切り裂いていく。
「わ、わた、し……は……」
エイミの声は震え、過呼吸になっていた。
綺麗な碧眼も、今は焦点すら定まっていない。
壊れたオルゴールのように、エイミの声は小さく消えていった。
「………………」
エイミとセルカの話し合い。そう、思っていた。
だからこそ、俺は口出ししないと。そう、決めていた。
だが、これは、あんまりじゃないか。
「セルカ……!」
しかし、
「私はっ!」
「!」
俺の言葉は、エイミによって遮られた。
しっかりとセルカの目を見つめる、エイミによって。
その声は震えてなどいなかった。
「私は、メル様の力になりたい!」
「────。」
「私はどうしようもないほどの最低なヤツで、色んな人を困らせて……それでも! こんな私でも!………ずっと付いて、いえ、付いていくだけじゃない!
────メル様のお役に立ちたいんです!」
エイミは、言った。言ってやった。
嘘偽りない、本心を。
胸の情動が、溢れていた。
「……………………」
セルカは緘黙。
ややあって。
「そうか………」
笑みを、浮かべた。
「えっ?」
その呟きはメルのものだったのか、エイミのものだったのか。
だが2人とも、セルカの微笑みに驚いたことに違いはなかった。
「それなら、安心して任せられる」
メルとエイミは与り知らないことであるが、セルカの中では既に結論は出ていたのだ。
────あの日。少女達がオーガを撃破した日。
セルカ達は、倒れ伏す左腕の無い獣人の少女と、とある白髪の少女を見た。
己の衣服を破り、応急手当をする少女の姿が、そこにはあった。
『メルさまぁ! メルさまぁ!!』
少女の慟哭はダンジョン中に酩酊していた。
その声は枯れていた。
辛そうで、儚くて。
だが。
決して、諦めてはいなかった。
あのままでは片腕の少女は間違いなく死んでしまうだろう。
だがそれでも、少女は諦めることだけは決してなかった。
約束に押されている。
初めて少女を見たセルカは、そう感じた。
それを見たゼファーがまず駆け寄り、セルカもそれに続く。
碧眼の少女が、それに気づいた。
驚きは一瞬のみ。
『メルさまを、助けてください……!』
今にも裂けそうな声で彼女は言い、そして意識を失った。
長年生きてきたセルカが状況を察するのに、時間はかからなかった。
──確かに、諦めないだけでは光は掴めない。結果から言えば、その少女は身を結ばない努力をしただけだった。
だが。
彼女は他力本願だったなどと、誰が言えよう。
ちっぽけな白髪の少女は、獣の少女に勝るとも劣らない勇気をセルカ達に見せた。
彼女を否定する理由など、もうどこにも無かった。
だから今回は、あくまでも確認。
悪役を演じ、少女らの本心を聞き出した。
たったそれだけのこと。
「自分がどうなっているかさえ無関心で、危なっかしいところも多々あるが、メルの仲間がいてくれるなら、こちらとしても願ったりだ」
メルとエイミに向かって言う。
少しの間固まっていた2人だったが、
「「………うん(はい!)」」
どちらも微笑みながら、答えた。
だがすぐに「あ」と。
自分が今、獣人になっていることに気付いたメルの、素っ頓狂な声が漏れた。
「え、気付いてなかったんですか?」
そんな少女の声と共に。
あぁ、まだまだ長くなるな、と、セルカは苦笑した。




