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30話 後日談


 暖かな光が、瞼越しに伝わってきた。


「ん……」


 それを合図として、閉じていた瞳をうっすらと目を開く。


「うぁ」


 が、眩い光に阻まれて、またすぐに閉じてしまった。


 あの薄暗いダンジョンの中にずっと居た身からすれば、()()()()()()()は、今の体には少々(こた)えるものが──


(……?)


 と、そこで、違和感を感じた。


(つよい、光?)


 未だ眼に、体に当たる、ダンジョン内では有り得ぬ光量。

 それだけではない。

 俺は一体、いつ寝たのだろうか? という問いも生じる。


 確か、俺はあの時、ダンジョンで……。


「……ぁ!」


 思い出した。


 ダンジョンでの逃避行と言うべきか、はたまた戦記というべきか。


 エイミとの邂逅から、あの怪物との戦闘。 

 あの時はがむしゃらもがむしゃらだったので、よく覚えてはいない。


 あの後どうなったのか、知らないのだ。


 エイミは。

 あの怪物(オーガ)は。

 ダンジョンは。


       どうなった!?


 耐えきれず、ガバッと、上半身を起こそうとして。


「い~~~っ!?」


 途端、鈍痛が体を襲った。

 俺は痛みの発端である()()押さえつつ、痛みを抑えようと、ほとんど反射的に背を丸める。


 と、そこで気付いた。


「スゥ……スゥ……」

「!」


 光に慣れたきた目が映したのは、少しピンク掛かった白髪(はくはつ)の少女。


「エイ、ミ……」


 彼女は背の高い椅子に腰掛けたまま、俺の太ももにその小さな頭を乗せ、気持ちよさそうに、スヤスヤと眠っている。


「……」


 これは、夢なのか?

 そんなことを思ってしまう。


 意識が覚醒した今で尚、ここが夢なのか現実なのか俺には分からないでいた。


 苦し紛れに、辺りを見渡す。

 

(……ただの部屋、か?)


 俺が居たのは、正しく特徴の無い部屋だった。


 あるのは、今自分が使っているベットと椅子が2つ(その1つはエイミが使っている)だけで、お世辞にも広いとは言えない。

 だが、唯一ある窓からは陽が差しており、陽当たりは良いことが窺える。


 が、それだけだ。

 これだけでは、全く状況が掴めない。


 エイミを起こすのも1つの手なのだろうが、それは少し忍びないように思われる。

 だから今、俺には出来ることがない。


 そんなわけで、どうしようか悩んでいると。


「起きたか、メル」

「!」


 ガチャッと、ドアが開けられた。


 そこから現れたのは、とある妖精(エルフ)だった。

 澄んだ薄い瑠璃色の髪を腰まで伸ばしている彼女は、相変わらず、綺麗の一言に尽きる。


「……()()()


 俺の声は、まるで、何日も使われていなかったかのように掠れていた。

 けれどその瞬間、セルカの顔に少し笑顔が浮かぶ。

 そして、いつもと変わらない口調で聞いてきた。


「どうだ、調子は」

「だいじょう、ぶ。ここは?」

「……ここは冒険者ギルド職員が夜勤時に使う仮眠部屋だ」


 もっとも、今は殆ど使われていないが、と。

 余っていた椅子に腰かけながら、彼女はそう口にした。


「……」

「…………」

 

 暫しの沈黙。

 2人の間に気まずい雰囲気が充満するが、セルカはそれを破って話を再開した。


「それで、どこまで覚えている?」

「えっと、オーガ(アイツ)と戦って……そこからは、覚えてない」


 彼女は「そうか……」と言った(のち)


「安心しろ。お前たちは、私らが保護した」

「……え?」

「あの時、お前を見失ったとゼファーから聞いて、私とゼファーで黒浪の洞窟に乗り込んだのだ」

「の、乗り込んだ……!?」


 驚きを浮かべる俺に、言い聞かせるようにしてセルカは頷いた。


「それから先はお前の思っている通りだ。最下層でお前たちを拾い、脱出した。もちろん迷宮の魔石を割ってな」


 と。

 つまりは、そういうことだった。


 あの時、待っていれば助けは来たのだ。

 極小の確率であったとしても、待っていれば、俺もエイミも死にかけるようなことはなかった。


「────、、」


 後悔と自責の念が俺を満たしていく。


 なら、俺は。

 俺たちは。


 酷く、滑稽じゃないか──


「──勘違いをするな。お前は、お前たちは、()()()()()()()()()


 そんな俺の内心は、セルカの言葉によって断ち切られた。


「え?」


 俺の考えを透かしたように。

 その上で、妖精は言った。


「……対価無き冒険など、無い。冒険(ソレ)には、必ず得る物がある。お前もあの中で、得たモノがある筈だ」

「!」

 

 そうだ。

 そうだった。

 エイミと心が通じ合えたのは、(ひとえ)彼処(あそこ)まで行けたからじゃないか。


「……うん」


 小さい肯定の筈が、やけに大きく部屋に響いた。

 その時。


「んぅ………」


 エイミが、目を開けた。


「エイミ……!」

「……メルさま……? えへへ、おはようございましゅ」

「……」


……噛んだ。

 どうやら、寝ぼけているようだった。


 前世の俺なら、この可愛さに「くっ///」と言って悶えていたことだろう。

 いや、しないけども。


 少しの間、寝ぼけ眼で「えへへ……」と笑っていたエイミであったが、徐々に眠気が取れてきたようで。


「……はっ! メ、メル様!? お目覚めになられたんですか!?」


 と、いつものエイミに戻った。


「うん、おはよう、エイミ」

「~~~~!!(プイッ)」

「えっ」


 俺がその碧眼を見つめて言うと、エイミは何故か顔を逸らしてしまった。


「!?!?!?!?」


 ちょっと、いや、かなりショックだった。


 比喩抜きで、がーんと音を立て、顔面に『拒否られ』というストレートが炸裂した。


 メルの預かり知らないところではあるが、もちろんエイミにそんなつもりはない。

 寧ろ。


(やっぱりメル様は(たら)しです! これはいけません。えぇいけませんとも。他の薄汚いメスが寄ってきてしまいます……!)


 1人、ベクトルの違う心配事をしていた。


「…………」


 そんな2人を、静かに見つめるセルカ。

 心なしか、その目つきは少し、怖いモノとなっている。


 が、2人は気付かない。

 というかメルに至ってはそれ以前の問題で、自分が()()()姿()()()()になっているということにさえ、気付かない。


 一応、知られていたこととは言え、メルの口から直接聞いたわけではないのだから、セルカの目つきがそうなるのも当然と言えよう。


「……はぁ」


 誰にも聞こえない妖精の溜め息は、小さく、消えていった。

 


 



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