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27話 紡がれるは喜劇


 膝が

 ガクガク、ガクガク


 まるで、()()を見ている時みたいに

 ゲラゲラ、ゲラゲラ


 ()()()()()



 だからだろうか。

 俺も、笑ってしまいそうだった。

 笑いたかった。

 全てを、諦めて仕舞いたかったのだ。


 人は、過度な恐怖を体験すると笑ってしまうと聞いたことがあったが、どうやら本当だったらしい。


「ぁ……()()っ」


 いっそ滑稽なまでに、俺の喉から声が溢れ出た。壊れたオルゴールのように、虚しく、辺りに反響し、そして消えていく。


 怪物はそんな俺に構わず、こちらに近づいてきた。

『死』が、近づいてくる。


 距離は5メートルも無かった。


 あぁ、やっと()()()、解放される……と。

 奇しくも、先程のエイミのように、そう、思っていた。


 だが、その時。


「メル様ぁ! しっかりしてください!」

「!」


 エイミが、吼えた。


 目が合う。

 エイミの碧眼には、『俺』が映っていた。

 死んだ目をした、俺が。


「──────」


 だが、そこで気づく。


(……エイミ、は────)


 俺を写す彼女の瞳。


 そこには。


 紛うことなき、

『意思』があった。


 なにより、『信念』が、あった。


「──メル様ぁッ!!!!」


 エイミは、()()()()()()()()()


「っ──ぁああああッ!!」


 メルは、知らずの内に己の体を蝕んでいた恐怖(くさり)を引きちぎった。


 震える脚で尚、立つ。


 自分より弱い筈のエイミが、諦めていない。


 例えそれが、他力本願であったとしても。

 無謀な行い、だったとしても。

 

 メルを──俺を、信じてくれている。

 ならば、エイミより強い自分が何故諦めることが出来ようか。


 勝機は、限りなく()()

 だが、諦めるという選択肢もまた、()()




 強大な相手を前に、ちっぽけな少女達は、それでも抗う。



【【──生き残る】】


 少女達は誓った。



【──やってみろ】


 怪物は嗤った。





 悲劇などではない。


 

 英雄譚……その()()の1(ページ)目が今、紡がれ始めた。


 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 俺の頭は今までとは違い、何かが吹っ切れたかのように澄み渡っていた。

 何か、とは言わずもがなだが。


 その澄んだ思考で、状況を整理し始める。


(ダンジョンの魔石を壊せば、その中で産まれたモンスターも死ぬ………なんてご都合主義は、無い。それは、鬼コーチ(セルカ)から聞いている)


 生き残るには、オーガ(コイツ)を倒す。

 それしか、ない。


「エイミは下がって、()()を!」


「……! はいっ!!」


 何の魔法か、なんてことは聞かなかった。

 エイミには、それが分かっている。

 何を必要とされているのか、分かっている。


(今こそ、返す時です)


 自分(エイミ)は、何の根拠もなく諦めなかった訳ではない。

 聡すぎる少女は、そこまで直情的には、なれない。


 だが。


──2人ならば、いけると。


 そう、確信していた。



 彼女はすぐさまその場から離れ、()()()()()()の詠唱を開始する。


「………《隠せ、汝の傷。隠せ、(なんじ)の刃》」


『……!! ォオオオオオオッ!!』


 空気の変化を感じたオーガは、させるものかと。

 エイミに向かって巨躯を揺らす。


 勿論、魔法が完成するには、時間が掛かる。

 このままでは、完成する前に、エイミは紅い花を咲かせるだろう。


 ()()()()()()


「──()()()(オレ)がいる」

『!!?』


 迫りくる巨躯に対し、右手を向け、『サイクロンカッター』を()()()

 4つの斬撃は、迷うことなくオーガの顔へと吸い込まれていく。


……もちろん、通常のMPしか使っていない『サイクロンカッター』など利く筈もない。


 だが、()()()()()()()()()()()()()()


 オーガは足を止め、咄嗟に己の顔の前に腕を滑らせた。


 生き物であれば、顔に何かが飛んでくる時、多少なりとも警戒する。そしてそれはモンスターでさえも例外ではない。


 オーガは、利く筈もない魔法に勝手に警戒して、勝手に足を止めた。

 一瞬後、魔法が炸裂する。


 派手な音とは反比例するかのように、ダメージはゼロ。

 だが、数秒という時間(希望)を、俺とエイミは引き寄せた。



 その隙に、エイミは詠唱を紡ぐ。


「《(あと)に残るは、無傷の(からだ)伽藍(がらん)の諸手》……!」


 その詠唱(うた)を背後に、俺は斬りかかった。


 今放てる最大威力。

 渾身の袈裟斬り。

 それを、オーガの首目掛けて一閃した。


『グォ!?』


 俺を目の前にしたオーガが、その眼を驚嘆に染める。


 しかし次の瞬間、ガキン……と、鉄と鉄がぶつかり合うような音が響く。


 言うまでもなく、弾かれた。

 その剛皮によって。

 渾身の一撃が。


 だが、それは予想通りだ。

 最初(ハナ)から利くなんて思っていない。


「っ! (()()()()()!)」


 俺は着地と同時に、オーガの背後へ回った。

 そして間髪置かず、()()()()()()()()()()()()


『!? ッ、グォオオオオ!!』


 それを見たオーガは、逃げるなァ! と言わんばかりに雄叫びを上げ、大地を踏み鳴らしながらこちらへ迫ってきた。


(かかったッ……!)


 俺は、逃げてなどいない。

 エイミから距離をおくための誘導。

 ただ、それだけだ。


 そして。


 小さくも可憐な声が、迷宮に反響した。


「─────っ」


 その声は震えていた。

 恐怖に、絶望に、苛まれている。


 だがそれでも尚、その奥底には決意を感じさせるナニカがあった。


「──《これを以て、世界(かご)は放たれる》」


 エイミは、この『魔法』が嫌いだった。

 ずっと真実を隠してきたエイミにとって、この魔法は自分を責めているような気がしたから。


 だがエイミは、生きるために使い続けた。

 使えば使うほど、自ら心の傷を抉っていったが、気にしないフリをし続けてきた。


 しかし、今は違う。


 自分のためでは無い。自分以外の誰か(とある少女)のために、魔法を行使する。


 たったそれだけで、救われたような気がした。

 というより、救われた。



 詠唱が、加速していく。


「《隠せ、真実を。汝は光。(なんじ)は影》…!」


 オーガは、それに気づかない。


 メル()()を敵と思っているオーガには、今にもその首元に突き刺さろうとしているエイミの決意(ナイフ)に気づけない。


 エイミは、自らの切り札(くさり)を解放した。


「──《リタズ・コリウム》」


 その瞬間。

 オーガの視界から、2人が()()()


『!?』


 彼の顔が驚愕に染まる。


……本来ならば、エイミの魔法ではモンスターを欺くことは出来なかった。

 

 今まで、意味を込めず詠唱してきたエイミは、魔法の本質………()()()()()()()()()()()()()()()、ということを知らなかった。


 だが、今回(いま)は違う。

 意味を噛み締め、それに逃げるのではなく、乗り越えた。

 エイミは意図せず、効果を昇華させたのである。


──そして。


 魔法が掛けられたのを感じた俺は、()()()()()











代償(スキル)』の行使に、踏み切った。



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