表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/69

25話 紅き壁


「メ、メル様……あれって……!」

「うん……!」


 俺とエイミは、とある光景を目の前に、足を止めていた。

 歩き始めてから15分が経った頃である。

 

 魔石が、あったのだ。

 何の、なんて言うまでもない。


 ダンジョンの魔石が、あったのだ。


 100mほど先で、それは紫紺に輝いている。はっきりとは分からないが、大きさも通常の魔物とは比べ物にならないほど大きい。この暗かった道を、魔石の光だけで明るく照らしていた。


「行きましょう! メル様!」


 エイミから歓喜の声が上がる。

 そりゃそうだ。

 この地獄から解放されるのだ。喜ばない訳がない。

 実際、俺の心にも『希望』という2文字が浮かんでいた。長らくの絶望から解き放たれることを身体中が望んでいる。


 だが。


『────。』


「──ぇ」


「メル様?」


 足がぴたりと止まってしまった俺に、エイミが視線を投げ掛けてくる。


……汗が。

  ()()()が、頬を伝っている。


(今……(ナニ)かが、聞こえたような──)


 咄嗟に振り返る。

──背後には、何もない。


 顔を正面に戻す。

──やはり、何もいない。


(気のせい、か)


 疲れているのかもしれない。

 

「ん、ううん。なんでもない。いこう」


 確信の無い推測(コト)で、あまり不安を煽るべきではないのだ。

 

 俺達は魔石のお陰で徐々に明るくなっていく道を、再び歩き始める。

 エイミは一刻も早く向かいたいようで、俺の数歩手前を先行していた──その時だった。


『──────()


「    」


 またしても、足が止まった。

 そんな俺に、エイミが振り返り、言う。


「どうしたんですか? メル様。先程から様子がおかしいですが、もしかして具合でも?」

「……」

「め、メル様?」


 俺は答えることが出来なかった。

 先程の推測(サイアク)が本当になろうとしているという事実に、逃げ出したくなる。


 エイミには、何も聞こえていない。


 しかし俺には。

 獣人である俺には、確かに聞こえたのだ。




  ()()()()()が。



 再び、後方を振り向いた。

 だが、そこにはナニもいない。

 前に向き直しても、結果は同じだった。

 影1つさえ、見当たらない。


(どういう、こと……!?)


 幻聴、などという甘い考えはとうに捨てている。

 妥協すれば死ぬ。それがダンジョンだ。


 それに、アレは幻聴などではないと、妙な確信もあった。

 でないと、こんなにも全身の毛が逆立つ訳がない。

 今なお、獣の(危険信号)がけたたましく鳴り響いている。


「……っ」


 俺は即座に、音の発生源を探り始めた。


(あの(こえ)は色んな方向から──つまり、()()()()()()()から聞こえてきた。普通なら1方向からしか聞こえてこないのに、だ。まるで、壁から直接響いているような…………え?






         ……………………()?)




 そう、思った瞬間だった。


────バキバキバキィッ!!


 壁が割れた。

 比喩などではない。

 言葉の通りに、粉砕された。


「……ぇ?」

「   」


 1人は声を漏らし、もう1人は息を飲んだ。


 『産まれる』

 なんて生易しいモノではない。


 ()()()()()()()()()、と表現したとしても割に合わないような轟音が、迷宮中に響いた。


 ドシン、ガラガラガラ、パキパキ……


 擬音後(オノマトペ)で表すならば、そんな気の抜けた音だっただろう。


「……」

「……ぁ、あぁ……!」


 だが。

 俺達にとっては。

 それは世界に存在するどんな(絶望)よりも。


『ォォォォォ──』


──死の、象徴(旋律)に思えた。



『彼』は、そんな俺たちの目の前に降り立った。

 もう少し進んでいれば避ける暇もなく当たっていたと、心の何処かで思うが、そんなのは()()()()()()


 何故なら、どんな選択肢を選んだとしても、殺されるのが早くなるか遅くなるかの違いでしか無かったからだ。

 それほどまでに目の前の存在は圧倒(絶望)的だと、生物としての本能が告げる。


 教わったことのない魔物だった。

 だがしかし。

 それは、()()()()B()()()()()()()()()、ということの裏返しでもある。


 それに、教えて貰ったことが無いとはいえ、俺はソイツを知っていた。


 その容姿が、余りにも有名だったからだ。



────3メートルを裕に越えるその巨躯は筋骨隆々とし。

 体色は血を彷彿とさせる(アカ)


 右手には、明らかにダンジョンのモノではない両大剣が、まるで片手剣の如く握られていた。

 そしてなにより目を引くのが、その額に生えている2本の角だ。


 俺は震える体をそのままに、確認(ダメ押し)とばかりにステータス鑑定を使用した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

種族:()()()(B+ランク)

名前:なし

状態:憤怒


Lv:50

HP:1028/1028

MP:0/0

SP:1021/1022


力:1061(+120)

耐久:1002(+150)

敏捷:581

器用:401

魔力:0


スキル:剛力Lv8 剛皮Lv7 咆哮Lv9 自然治癒Lv10 超感覚Lv-


称号:迷宮の守護者(モンストルムレイ)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あ、()()()()



『──ォオオオオオオオ!!!』


 大気を。

 ()()()()()()()を震わす大声音。


「…………っ」


 目の前に(そび)える紅き壁は、絶望にしか見えなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ