24話 激動のダンジョン
(──さて、これからどうしたもんか)
疑問も募るが、『人化』からはいったん目を離し、他のスキルに意識を向けることにした。
剣術などのレベルも上がってはいるが、それは置いておく。
見ると、新しいスキルが2つも増えていた。
その内の1つは、『苦痛耐性Lv2』というモノだった。まぁ、効果はそのまんまだろう。
今までたくさんの魔物から攻撃を受けてきた。ゴブリンジェネラルに至っては、死ぬ一歩手前まで逝ったのだし、取得出来たのも納得である。
(……それで)
しかし、問題はもう一方のスキルだった。
字面だけだと全く想像もつかない。
(『代償Lv-』って、なんだ……?)
俺はそう思いながら、スキルを鑑定し──、。
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十二分に休憩を取った俺たちは、再びダンジョンの中を進んでいた。因みに、今はヒューマンではなくラクーン(タヌキだけど)の姿をしている。
と、いうのも、もう『人化』をしている意味が無くなったからである。
エイミには既にバレているし、嗅覚とか聴覚とかがヒューマンの時よりも格段に良い。それに加え、スキルの表記通りなら、こっちの方がステータスが上なのだ。
無意味にヒューマンの形を取る必要性は皆無である。
もうちょっと早くに気付いていれば……とも思ったが、思い込みの件もあったし、しょうがない。
生きているなら万々歳。
いのちだいじに、だ。
というか、エイミが獣人嫌いじゃなくて本当に良かった。もしエイミが獣人を嫌っていたらと考えると……いや、考えたくもないな。
ともあれ、これからはもっと胸を張ってこの姿で生きていけたら、と思うのだが、そうは問屋が許さないだろう。
サリエス教徒め、まじゆるさん。
(……それにしても)
これ以上愚痴を言っても仕方がないので、思考を切り替える。
ステータス欄にある、とあるスキルをちらり。
「……うーん」
「どうしたんですか? メル様」
「……ちょっと、ね」
「……?」
先程発現した、『代償』というスキルについてだ。
(……なんか、微妙じゃね?)
という感じのスキルだった。
いや、弱くは無いと思うのだが、『代償』というスキルだけあって、代償とやらがえげつなかったのだ。
使いどころを間違えれば、呆気なく死ぬかもしれないほどに。
恐らくだが、これからもあまり使わないだろう。
少なくとも、このダンジョンで使うことはもう無い。
『代償』は、そんな死スキル (全く使いどころがないスキルのこと) だった。
そんな訳で、今の心境も微妙だ。
折角新しく手に入ったスキルが微妙だった時の気持ちを考えて欲しい。
微妙な気持ちにもなるだろう? って誰に話し掛けてるんだこれ。
そう思いながら、俺たちは、今までより暗くなったように感じる一本道を進んでいった。
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ダンジョンは想っていた。
『────ああ、ころしたい
ひとを、ころしたい』
それは、絶対的な○○の意思であり、曲げられぬ存在意義。
だが、ダンジョンは憂う。
『────でも、ころせない?
なぜ、ころせない?』
それは、新たに自分に芽生えた問であり、植え付けられた意思への反逆とも言えるだろう。
故に、ダンジョンは焦った。
『────まえに、まなんだはずなのに?
どこで、まちがった?』
それは、自己概念の揺らぎであり、固定であった。
己は、『強いダンジョン』ではないと分かっている。
弱いダンジョンは、いずれ踏破される。
予定調和で、必然で、当然の結末だ。
躊躇いなく人を殺し、躊躇いなく壊される。
それがダンジョンの役目。
弱いダンジョンであれば、それは顕著になる。
だが。
自分は生き残ってしまった。
何年も、何年も、生き残りすぎてしまった。
『──死にたくない』
その感情が。
ただの処刑場、ないし殺戮場であるダンジョンに生まれた異常であった。
殺すために狡猾になるのではなく。
生きるために狡猾になった。
滅びないためには、ヒト族を殺すためには、弱いやつだけ、入れれば良い。
入口に蓋をし、数々の初見殺しを作り、更には『彼』を作った。
だが。
それが今、とあるヒューマンと獣人の少女の手によって次々と突破されている。
それだけではない。
先ほど、誰かが、無理矢理入口を抉じ開けたのだ。
それが、ダンジョンを余計に焦らせることとなった。
それでも、あのヒューマンと獣人の女は大丈夫だろうと、そう結論づける。
あそこには『彼』がいる。簡単に始末できるだろう。
一応、『彼』に指示を出し、あの2人に気付かれないように壁へと戻って貰った。
これであの少女らに関してはなんの憂いも無い。問題は、先程入口を壊した、あのヒト族だ。
メル達から興味を失ったダンジョンは、新たな脅威の排除を試み始めた──。
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さて、『彼』の話をするとしよう。
彼は守護者だ。
モンスターでありながら、ダンジョンを守るためだけに産まれた存在であり、守護者であるからこそ、彼はそこから動くことを赦されなかった。
故に、彼は孤独だった。
産み落とされてから既に50年余りが経過しているが、それを知る術は彼には無い。
しかし彼は、モンスターにしては生きすぎた故に、モンスターらしからぬ知能が芽生えはじめていた。
元来、モンスターとは、ヒト族を殺すためだけにダンジョンによって作られた生粋の虐殺者である。
だが、50年という長すぎる年月が、彼に感情を生ませたのだ。
詳しく言えば、彼がその感情を持つようになったのは今から10年前のことであった。
奇しくもメル達と同じ目に遭った4人のCランク冒険者のパーティーが、彼の元に現れたのだ。
対する彼は、そのパーティーを八つ裂きにした。
大剣を持っていた男を股から脳まで裂き、小柄な髪の長い女は壁に叩きつけて潰した。
恐怖で盾を構えることすら出来ない大柄な男を捻切り、杖を持った女は腹から真っ二つにした。
その時だ。『悲鳴』を耳にしたのは。
たちまち彼の心は、歓喜という感情に支配された。
あぁ、こんなにも心地良いモノがあったのか、と。
それから彼は、男が使っていた大剣を手に取り、自分の得物とした。
彼はそれ以来、ずっと待っている。再びあの甘美な響きを聞くために。
ずっと。
ダンジョンの最奥で。
【──人が試練を選ぶのではない
試練が、人を選ぶのだ
……私達はただ、その試練とやらに好かれてしまっただけだよ】
『三蛮勇の冒険譚』9巻 318頁より抜粋




