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22話 inダンジョン


「……」


 間一髪で、エイミの危機に間に合った俺。

 澄ました顔をしているが、その内心は──、


(やっべぇ獣人()のまま出てきちゃったどうしようマジでヤバイんだけど)


────エイミにカッコつけた反面、かつて無いほどに焦っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 今からたった、十数秒前のこと。


「……っ!」


 たたっ、たたっ。


 俺は駆けていた。


『人化』を解き、持ち前の嗅覚と聴覚でエイミを探しながら、敏捷のポテンシャルを最大限に活かす。

 後先のことは考えてはいなかった。

 痛む体を無理矢理に動かしている。


 反響してくる小さな音を拾い、エイミの匂いを嗅ぎ分けて、4足歩行ならぬ()()()()でダンジョン内を移動する。


「……。」


 なんかこう言うとめちゃくちゃ変態っぽく聞こえるが違う。断じて違う。


 か弱い少女を夢中になって探し回りながら四つん這いで地を猪突猛進する男子高校生──、なんてものを想像してはいけない(戒め)。


 仲間の危機に必死になって駆け付ける少女を想像して貰いたい。


 ま、まぁとにかく。

 エイミの姿が見えたときには、既にゴブリンジェネラルの棍棒が振り上げられている所だった。距離も絶望的なほどにある。

 ポーションで回復したとはいえ、魔法を撃てるだけのMPは残っていない。

 それこそ、完全な詰みであった。


(クソッ、間に合え!)


 軋む体に鞭を打ち、無理矢理スピードを上げた、その時。


「……え?」


 魔法を()()()()()()()()()()のだ。


 俺は直感に従い、咄嗟に『サイクロンカッター』を6連射する。


「~~っ!?」


 途端、全身に猛烈な虚脱感が押し寄せた。

 だがそれは、MPの枯渇によるものとは少し違う気がした。強いて言うならば、()()()()()()()()()、と言った方がしっくり来るだろうか。

 変わらず全力である筈なのに、走るスピードが目に見えて落ちる。


 だが、『サイクロンカッター』の威力は減衰することはなく、6体のゴブリンジェネラルを爆砕した。それによってレベルが上がり、スピードが少しだけ戻った……気がする。


「エイミィィィっ!!」


 俺は咆哮し、迷うことなくエイミに駆け寄った。

 そう、何も考えずに登場してしまったのだ。


────『獣化』を解くのも忘れて。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 そして、今に至ってしまった。


 完全に誤魔化しの利かないほど、エイミにがっつりタヌキの姿を見られた俺は場違いに焦っていた。


(やばいよやばいよ)


 ()のリアクション芸人並に語彙力が低下する。

 ナウならあのクレイジーなイングリッシュもセイ出来る気がする。


 エイミからすれば『アンタ誰?』状態だろう。

 自分がメルだと明かしても信じてくれるかどうかすら危うい。と言うか普通に拒絶されるのでは? という不安が俺を埋め尽くす。


 最悪、『……知らない天井(ダンジョン)だ』と、誤魔化す(?)他あるまい。


 獣人とヒューマンの仲って険悪みたいだし……っていや、だとしても今は助けることが先決だ。


 俺は、そう思いながら異次元収納から出したアントンの剣を構える。もう、奴らに攻撃はさせない。


「はぁっ!」


 先手必勝とばかりに飛び出した俺は、残り6体の内、1番近くにいたゴブリンジェネラルを切断した。


(……! やっぱり……)


 元々がタヌキだからか、こちらの方が動きやすい。

 寧ろヒューマン形態の時に比べると、幾らかステータスが上がったような気さえする。


 それに、残った奴らも先程の6体が一気に死んだことに驚愕していて連携が全く出来ていなかった。

 大きな隙が生まれている。

 紛れもないチャンスだった。


 俺は隣にいたヤツの首を袈裟斬りで飛ばした。それだけでは止まらない。勢いをそのままに他に斬りかかる。


『グガァ!?』『ギィッ!?』


 対して、奴らは悲鳴とも取れる声を上げることしか出来ない。

 俺は、それを意に介さず何度も刃を見舞った。


「──しっ!」


 両手脚(全身)を使い、地を駆け、獲物を狩る。

 それはまさしく、獣のそれであった。


 30秒もする頃には、ゴブリンジェネラルは全て絶命していた。


「……な」


 エイミは唖然としている。

 

「……ふぅ~~」


 対して俺はいっそ清々しいまでの息を吐き……


 しゅっ


 ()()()()()『人化』した。


「あ、あれっ?」


 エイミから声が上がる。


DO(どっ)、どうしたの? 

 ここ暗いよね

 色々大変だったし

 混乱してたりで

 別のものに見間違えちゃうこともあるかも

 それよりも大丈夫だった?」


 オタクの如く、早口で捲し立てた。


 露骨だった。

 メルは完全に決まったと思っているが、露骨(バレバレ)だった。


(……決まった)


 決まってないです。

 

「え、えぇぇ?」


 エイミも疑っている。

 

 だが、彼女は何故か「は、はい」と答えた。それだけでは止まらない。「い、いやいやいや……え? これってエイミがオカシイんですか? え、えぇきっとそうでしょうそうなのでしょうメル様が間違っている筈ありませんきっとエイミがオカシイんです疲れてるんですねコレは」

「…………」


 オカシイというより、それを通り越してなんだか怖くなっていた。

 メルもドン引きしている。


「「……すぅ、はぁ」」


 メルとエイミはどちらも違う意味で深呼吸をする。


「「…………」」


 そして沈黙。


 少し気まずい雰囲気が漂うなか、先に口を開いたのはエイミだった。


「その、メル様……? なんで、来てくれたんですか?」


「え?」


「私は今までずっとメル様のお荷物で、何の役にも立てていませんでした。ですが最期(さっき)だけは、メル様の役にやっと立てたと思ったのに……」


「え、ええと」


 メルが訳を話そうとする。

 が、エイミは()()()()()()()()()()()()()()


「な、なんで来てしまうんですか! 黒歴史(あんなこと)を言った手前、ものすごく恥ずかしいです!!!」


「えぇっ!?」


 逆ギレした。

 メルでさえ鳩が豆鉄砲……狸が柿鉄砲を食らったような顔をする()。

 だが、当のエイミも、自分が何故こんなことを言っているのか分からなかった。

 端から見れば、いや、誰から見ても自分は最低オンナ以外の何者でも無い。それは分かっているのだが、どうしても口が動いてしまう。

 

 エイミは更に地団駄を踏んだ。


「メル様はいっつもそうです! 3階層の時だってエイミを置いていけば良かったのに、わざわざ助けて自分の身を危険に晒して!」


「うっ……」


 エイミの顔が怒りとは違う羞恥(モノ)のせいでどんどん赤面していく。というよりそもそも、エイミには怒りなんて更々無かった。


 だがその言葉は違う意味で、知れずメルの甘さ(黒歴史)にグサッと刺さっていた。あれはメルからすれば色んな意味で吐血ものである。


 しかし、それを知らないエイミは尚も喋り続けた。

 自分が今までしてきたこと()()を。


 泥棒もスリも、空き巣さえやっていたことも。

 ()()()()()()()()()、全部話した。


 エイミの中で、『もう、やめてっ……』という気持ち(羞恥)が溢れ返るが、それに反して、エイミの口が止まることはなかった。


 全て暴露し終わった頃には、流石のメルも口を引き攣らせていた。その顔には苦笑いすら浮かべている。


「……分かりましたか!? 私は助けていただく価値も皆無な最低(さいってい)なオンナなんです!!」


「……」


 エイミは気付かない。


 メルに、自分のことを全部知って欲しかった。

 そして、その上で断罪して欲しかったのだ、ということに。


 だが、()()()()が、そんなことをする筈も無かった。


「──今まで、頑張ったんだね」


 メルの口から出たのは、そんな言葉だった。


 許しでも、ましてや断罪でもない。

 純粋な()()だった。


「    」


 時が止まる。

 エイミの感情が、言葉では表せないほどに入り交じっていく。

 元々世紀末だった脳裏にメルの言葉(メテオ)が落とされ、思考と云う名の最後の砦は呆気なく崩壊した。


「う、あ……()()()()()()()()()~~!」


 ()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()涙腺が決壊する。

 今までずっと閉じていた心が、完全に放たれた。


 力の抜けるような、そんな泣き方だった。

 だがそれでも、エイミは全力だった。全力で、泣いていたのだ。


 エイミは、目から流れる謎の水のことを不思議に思う暇もなく、メルに抱きついた。


「え、ちょ、エイミ!?」


 メルから驚愕の声が上がる。

 ほとんどタックルに近い勢いに骨という骨が痛み、全身からアァァァ! と断末魔の如き幻聴(絶叫)が聞こえたがエイミの手前、なんとか我慢した。


 自分の安い涙を(こら)えながら、メルはエイミのぼさぼさになった頭を優しく撫でる。

 そして、こう続けた。


「エイミは私の大切な仲間(ひと)だから、見捨てるだなんて絶対にしないよ」


((エイミ)がメル様の愛人(大切な人)っ!?)

「~~~~~ッ!?」


 顔が蒸発しそうな程に赤くなったエイミは、しばらくの間メルに顔を(うず)めていた。


 メルの預かり知らないところで、話はややこしくなっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「じゃあ、行こう?」


「……はい」


 30分後、メル達は出発した。


 エイミの顔は涙で少し腫れていた。

 いや、本当は未だに悶え死にそうな程に赤面しているだけなのだが、恥ずかしいのでそういうことにしている。


 エイミはいつもと変わらずメルの後をついていく。


 その時だった。


「……ぁ」


 操り人形の糸が切れたみたいに、メルが倒れた。







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