20話 絶望との戦い
「ゴブリン、ジェネラル……」
俺の呟きは、ソイツら自身の叫喚によって誰の耳にも届くことは無かった。
ゴブリンジェネラルの脅威度はDだが、バランスの取れた高ステータスにより、その中でも最上位の強さを誇っている。
そして、それが25体。
一般的に、5体集まれば、1つ上のランクのモンスターにも勝てると言われている。
つまり、コイツらの脅威度は単純計算でBランクモンスター5体に相当することになる。
Cランク1体だけでも苦戦を強いられたのに、どうしてこの状況を打破出来ようか。更にエイミも守りながら戦わなくてはならないというオマケつきである。
全身の感覚が消えていく。
「そ、そんな……」
繋いだままのエイミの手は震えていた。
死の恐怖が嫌でも垣間見える。
そしてそれは俺も同じだった。
諦めてしまいたいという甘い考えが脳を支配していく。
だが、諦める訳にはいかない。
奴らとの距離はそれぞれ20mくらい。だから、近づかれる前に倒せば…………!
勝ち筋はそれしか無い。
そう結論付けた俺は、剣を構える動作をすっ飛ばして突貫した。
「め、メル様ぁ!!?」
エイミの悲痛な声を背に、俺は『ヴィエントエンチャント』と同時に『ステータス鑑定』を発動させる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
種族:ゴブリンジェネラル(Dランク)
名前:
状態:憤怒
Lv:28
HP:426/426
MP:100/100
SP:402/402
力:420
耐久:371
敏捷:325
器用:318
魔力:120
スキル:連携Lv5
ーーーーーーーーーーーーーーーー
……ゴブリンって何だっけ。
そんな無駄な考えが一瞬脳を過るが、即座に振り払う。
魔法により、20mの間合いを1秒も経たずに食い潰した俺は、正面のゴブリンジェネラルに肉薄し、一閃。
──窮鼠猫を噛む。
言葉の通り反抗されるなど思っても見なかった彼らは、その行動に数瞬の空白を生んだ。
「しッ!」
そして、俺はそのままソイツの首を……飛ばせない。
「ッ!」
近くにいた別のゴブリンジェネラルに棍棒で受け止められたのだ。
(『連携』…………!)
俺の脳裏にインプとの戦いが思い起こされる。魔物らしからぬ連携行動は、その厄介さを数段以上に跳ね上げるのだ。
だが、俺も学ばない訳ではない。
止められることも予想していた俺は、魔法の行使に踏み切った。
「『サイクロンカッター』!!」
爆砕。
頭部をビチャビチャと飛び散らせたゴブリンジェネラルは、その前方へと倒れ伏した。
(あと、3発……!)
魔法の、残りの弾数である。
これを過ぎてしまえば、MP切れを起こして気を失ってしまう。そうなればどうなるかは容易に想像出来ることであった。
ともあれ、突然の仲間の死に、ソイツらの動きが一瞬だけ止まる。
俺はそれを見逃さなかった。立て続けに近くのゴブリンジェネラルの胸を穿ち、ガラスがひび割れるような音を響かせてその巨躯を灰に変える。
(残り、23………!)
だがそれでも、未だに数字は絶望的だった。
それに加えて、こちらは時間が経てば経つほど勝利は遠くなる。完全には連携が取れていない今だからこそ倒せているだけに過ぎないのだ。
5体集まってしまえば、恐らく俺に勝ち目は無いだろう。その事実が俺を余計に焦らせた。
汗が頬を伝っている。
だが、俺は間髪入れずに、捻転。振り下ろされた棍棒をギリギリのところで回避する。
『ギグァ!?』
己の棍棒を避けられたゴブリンジェネラルが驚きの声を上げるが、意に介さない。
そのままの勢いに、すれ違い様にその横っ腹へと斬撃を見舞った。
緑の体が音を立ててずれ落ちる。
────リミットまで、残り15m。
切り上げ。
振り下ろし。
薙ぎ。
刺突。
使えるもの全てを使い、奴らを圧していく。
それでも、
(……間に合わないっ)
まだ、15体も残っていた。
時間の流れが遅い。
見事なまでのスロー再生。
エンチャントにより尽きていくMPは、すぐ後ろまで迫っていた。
(っ、やばっ……!)
その要らぬ思考により、俺の動きが一瞬止まってしまう。
ソイツが、にやりと笑ったような気がした。
俺へと、その棍棒を薙ぎ払う。
回避は、不可能だった。
俺は、やむを得ず剣をその棍棒の軌道直線上に構え──。
パキンっ
「 ぇ 」
この場に似合わない、いっそ軽快なまでの音がドームに反響した。
恐れていたことが、起きてしまった。
(折れ、た)
そう感じる間もなく、棍棒が左肩に着弾。
全身から骨が砕ける音が聞こえる気がした、というか聞こえた。
ぴきゃ
案外、軽い音だった。
だが、
「~~っ!?」
威力は、その範疇に納まらなかった。
痛みを訴えることすら許されず、そのまま吹き飛ばされる。
「────────────ぁっ!!!」
エイミが何か、喋っている気がした。
俺は緩やかな放物線を描きながら、20mのもの距離を飛び、壁に墜落。
「かぺ」
体が壊れる声が出た。
背中から、まともに激突したのだ。
視界がチカチカと波打っている。
やばい、意識が──、
「────、ぁ」
勝利を確信したゴブリンジェネラルの雄叫びを聞きながら、俺の意識は落ちていき────




