表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/69

16話 『テメェ』は甘すぎた


「──ぃゃあああああああ!」


 森に入った俺たちを歓迎したのは、()()()()であった。


 蜘蛛や、蜂、蛾や蟻、果てには黒光り彗星(ゴキブリ)……などなど、その一体一体が50cm以上のデカさを誇っている。

 いや、誇られても困るのだが。


 ウン十倍も五月蝿(うるさ)くなって帰ってきたあの羽音。

 ウン千倍も気持ち悪さが増したあのカサカサ音。


 それが大群で迫って来るのだ。卒倒モノである。

 エイミなんて「きゅぅぅ……」と気絶してしまった。


 ブーーーーーン

 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ


「にゅあああああああ!?」


 いや、どうすんのこれ!?

 SP(スタミナ)が凄い勢いで減っているのが分かる。

 回復魔法の『チャージ(スタミナ回復)』を詠唱している暇もない。


 虫を鑑定したが、ステータスは大体がHやFであるものの、Eも時々混ざっていた。Dがいないのが唯一の救いか。


 だが、脅威であることに変わりなかった。例えHやFと言えど、それが100匹集まれば地獄である。


 どうする

 どうする

 どうする


 俺の頭の中は既に、バーニングファイヤオーバードライブヒートしていた(意味不)。


 木に登っても、羽がある魔物の餌食。

『チャージ』を詠唱しようにも、黒い悪魔(ゴキブリ)に襲われてチェックメイト。

 風魔法でも、残りMPで敵を殲滅出来る可能性も低い。


 幾度のトライアンドエラーに俺のキャパシティにも限界が近づいてきていた。

 というかもう限界であった。


 と、そこで天の声が舞い降りる。


「ビルドボアを、(えさ)として使ってください……いける……筈です……」

「エ、エイミ!」


 意識を取り戻(ふっかつ)したエイミの天恵に従い、俺は迷わずビルドボアを異次元収納から引き抜き、虫の目の前に放り出した。

 豪快な音と共にビルドボアが地面に衝突し、土煙が上がる。


 すると、虫の動きが止まった。


 羽音を五月蝿く鳴らしながら、ビルドボアに群がり始めている。こっちには既に興味が無くなっているようだった。


 よし、今のうちに早くここから離れよう。

 虫たちも動かないみたいだし、その間に次の階層へ──、


──ん? ちょっと待てよ?


 虫は何匹もいて、

 ()()()()()()()()()()()


 これは、レベル上げのチャンスでは?


 俺は少し離れたところで立ち止まった。



「メ、メル様? 何をなさって……?」


「倒す」


「た……!? ちょ、ちょっと待ってください、無謀です! あの中に突っ込むなんて……それに……」


「大丈夫。魔法でやる。エイミは下がってて」


 エイミを背中から下ろす。


「ま、魔法……?」


 エイミの疑問を背に、俺は風魔法のレベル8のトルネードを詠唱し始めた。

 上級魔法の中でも1番威力の低い (だがレベル7までとは比較にならない威力を持つ) それは、詠唱もまた1番短く3分程度である。


 エイミは未だに心配そうにしていた。何か言いたそうにしているが、俺の詠唱を妨げないように黙ってくれている。


……そんなに心配しなくても大丈夫なんだけどな。

 虫の魔物はあんなにビルドボアに夢中になってるし、距離もまあまあ離れている。


 俺はどんどん詠唱を進めていく。


(……よし)


 もうすぐ、詠唱が完了する──。





 そんな時だった。


 1匹の蜂の魔物──ホーネットが、死角から俺に目掛けて迫ってきたのは。


「!?」




 まず、音が迫ってくるのが分かった。


 姿は、見えなかった。



 だから、顔をそちらに向けた。


 あ、見えた。



 針を突き出した巨大蜂が、目の前にいた。


 時間の流れが緩やかになったような、そんな錯覚を覚えた。




──突然の出来事に、思考力が極端に鈍る俺に対して、ホーネットはその鋭い針を俺に突き刺さんと更にその速度を上げる。


 もちろん俺は、

 避けられない。


 詠唱中は動けないし、無理に詠唱を中断しようとすると、魔力暴走(マナ・ルイン)を起こしてしまう。いや、あの針に刺されれば、どの道起こしてしまうだろう。


 ヤバイ。



 どうする


       どうする


    どうする



 そんなことを思っている内にも、どんどんホーネットは近づいてくる。


 俺のHPと、その後の攻撃から考えて──、



 頭に『死』という文字が(よぎ)った。



 俺は、目を瞑った。。。。。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「    」


 どれくらいの間、目を閉じていただろうか。

 1秒か、それとも10秒か。



 だが、()()()()()()()()()()()()()ことに違和感を覚えた俺は、恐る恐る、目を開け──、



「────ぁえ?  」


 (メル)の、間抜けな声が飛び出た。


 

 目の前には、何故かエイミがいた。


 そして、その痩せ細ったお(なか)からは、()()()()()()()



「かぱ──、げぽっ」


 

 俺を庇ったのだ、と気付かされた時には、彼女は口から血を吐きながら崩れていく真っ最中であった。


 先程よりも緩慢に時間が流れているように感じる程。

 その光景は脳裏に焼き(へばり)付いた。


 どざっ


 力なく、地に身を預けたエイミ。


 対して、空中に佇むホーネットの針は元々の黒ではなく、赤く、赤グロく染まっている。


 言わずもがな、エイミの、血だ。



「──あ。「あああああああぁああぁあっ!?」」



 俺は剣を思いっきり薙いだ。

 

 パキッという音と共にホーネットが切断される。

 

 厭に、呆気なかった。



 俺はエイミに近寄る。


「──っ!」


 ぽっかりと、穴が空いていた。

 言葉の通り、ぽっかりとだ。


「つぁっ……!」


 すると、エイミの虚ろな目がこちらを向いた。

 その顔は、苦痛で歪んでいる。


「エ、エイミ!?」


 まだ、

 まだ生きている……!


「メ、ル……さま……」


 エイミは口と腹から血を流しながら、言葉を発し始めた。

 苦しいはずなのに、ぎこちなく笑みを浮かべている。


「ダメですよ、メル様…………ダンジョンで魔法を詠唱するなんて愚の骨頂です……案外抜けてる、ところも、あるん、ですね……?」


「──っ! 今、助ける……っ!」


 すぐに、回復魔法のレベル7の『グレードヒール』の詠唱に取り掛かった。


「め、るさま」


 だが、俺は忘れていた。


()()()


──少し離れたとはいえ、近くに100匹以上の魔物がいたことを。


 幾らビルドボアの大きな体といっても、そんなに持つ筈がなかった。


『ギチギチギチィッ!』

「!?」


 ビルドボアを食らいつくした奴らが、こちらに向かって来ていた。



「     」


 俺の脳内で、()()が行われる。




(てめぇ)のせいだ。』


   違う……俺は悪くない……!



『あの時エイミの制止を聞いておけば良かったんだ。』


   でも、レベルアップが必要で──、



自分(てめぇ)が甘かったからだ。』


   でも、

    でも、

     だって──、


   ()()()()()()()()()()()──。



 果たしてそれは、弾劾と呼べるモノだったのか、俺には分からない。

 ただ、言い訳(良い分け)をしたかったのかもしれない。



 だけど。

 いや、だからこそ。


 そこで、『()()』がキレた。



「『今、なんて思った? (クソ)』口が、勝手に」『言い訳(くだらねぇこと)曝してんじゃねぇ(ガキ)がっ!』……いや、これは(自分)────」」



 他者から見れば、それはそれは頭のおかしい自問自答(独り言)にしか見えないのだろう。


 でも違う。

 違うんだ。


 確かに、誰かがいる。

 確かに、誰かがいた。


 二重人格でもなければ、とち狂った訳でもない。


 まるで、


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんなヤツからの、伝言とも言えるモノだった。


「『良く考えろよ、(クズ)』」

 


 重なる罵倒。

 自ら投げつけられる(意思)


 でもそれは──、



「今、やれることは1つだろうが」


「    」



 最低で、最高の発破に成り得た。 


「────ッ!」

 眦を決する。


 俺は、()()()()()()()()()()()()()()()


「メ、メル……様? 一体何を……? ()()()を置いていってください……」


 エイミが、弱々しく喋る。


「出来る筈無い。これは()のせい。エイミは死なせない」


 それはダメだ、と。

 口調を隠すこともせずに俺は言った。

 エイミを抱えたまま走り出す。


 目指すは階下へと繋がる階段。

 階段からは魔物は産まれず、さらに疑似地帯(フェイクフィールド)の魔物は、階を跨いでは移動しないという特徴がある。


 そこで、回復魔法を使うのだ。


 そのために逃げる、逃げる、逃げる。

 階下へ繋がる階段を探して、走る。



 そこからは、記憶がなかった。


 気が付くと、俺は薄暗い階段で、エイミに『グレートヒール』を掛け続けていた。それこそMPがすっからかんになるまで。


「……」


 そしてエイミは今、すやすやと寝息を立てている。

 破れて血が滲んだ服が悲惨さを物語っているが、お腹の穴は塞がっていた。

 どうやら、一命はとりとめたようである。


 良かった。

 そう思うと同時に、苛立ちが身体中を埋め尽くした。


 あの時の自分が許せない。


 こうなったのは、俺がダンジョンを甘く見すぎていたせいだ。

 前世のゲームの感覚が抜けなかったから、等とふざけたことは思わないけれど、結局、命は1つしかないのだ。


 死んだらそれで終わりである。

 そして、この世界では、それがいとも簡単に起こってしまう。



 俺はそれを改めて噛み締めながら、エイミの目が覚めるまでずっと見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ