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20話 残された選択肢


 まあでも、ビルドボアを倒せたのは『世界の声』のお陰だ。多少のゴタゴタがあったとは言え、命の恩人ならぬ()()()()であることに変わりはない。


《…………………》


 当の『世界の声』は沈黙。

 ははーん、さては照れてるのか?


「……さて」


 そんな冗談を並べつつ、俺は気持ちを切り替えた。


 これからやるべきことは山ほどある。その整理もしておきたい。

 本音を言うと、今すぐにでも皆を追い掛けたいのだが、現在MPはスッカラカンである。無理に行って返り討ちにあっては元も子もない。


 そうと決まれば、まずは先程、『世界の声』さんから貰ったスキルから確認するか。


「異次元収納……」


 そのスキルの名を、俺は口の中で反芻した。


 比較的、ラノベとかでよく見るスキルだ。しかも、結構チートな部類のスキルであることも多い。だとすると、これからもかなり役立ってくれること請け合いじゃないか?


 そう少しだけ嬉々としていると、世界の声がそれを否定した。


《いいえ、そんなに珍しくはありません。習得している個体はたくさん存在します》


「む……さいですか」


 調子に乗るな、と言わんばかりの思考への割り込みだ。いや、実際そうなんだろうけど。でもそれなら、何故これを俺に?


《この『静寂の森』では、魔物が全くと言っていいほどいません。つまりは、このビルドボアは唯一の食糧となります。そのため、この運搬に『異次元収納Lv-』が必要でした》


「なるほど」


 じゃあ、ありがたく受け取っておこうかな。何故そこまでして、気にかけてくれるのかは謎だけど。


 そんな折。

 

「──それにしても、『世界の声』とか、『神』とかって、一体なんなんだ?」


 ふとした拍子に、口から飛び出たこの問い。


《────》


 それを聞いた途端、世界の声さんは口を()ぐんだ。無論、顔は見えないのだが、そうとしか表現しようがない。


 せ、世界の声さん……?


《……私としたことが。失言、でしたね》


 ようやく喋ったかと思えば、聞こえたのはそんな言葉だった。

 『失言』。それって一体──


《──1週間ほど歩けば、この森を抜けることが出来ます。それからはまっすぐ道なりに進んでいって下さい。2週間も進んでいれば、街の『ジガート』が見えてくる筈です。そしてそこで、冒険者登録をしてください》


 その俺の質問を、『世界の声』は聞き入れなかった。それどころか逆に、俺の気持ちなど知ったことかと、啓示のようなモノを俺に押し付けてくる。


 いや、


「いやいやいやいや──」


 ()()()()()


 ジガート? 冒険者?

 確かに、冒険者にはなってみたいとは思ったことはあるが、今はそれどころじゃない。


 もしかして、勘違いしてないか? 


《……》


 世界の声は押し黙る。


「今まで俺が、俺たちが、()()()()()()()()()()()()()()


 そう。

 俺は、世界の声(おまえ)が指し示した道標(アリアドネ)などを辿る気なんて毛頭ない。

 ありのままを、突き付ける。



「俺が

ヒューマン(あいつら)を赦して

「のうのうと冒険者生活を享受すると



────本気で、思ってるのか?」



 瞬間。俺の中で、ナニカが切れた。辛うじて抑えていたモノが行き場を失い、溢れ始める。


 まるで、(メル)の声ではなくなったかのようだった。

 ただ、誰かの喋り方に、似てる気がした。

 誰だっけか。


《────》


 我慢を、していた。

 今までずっと、自分でも考えないよう努めていた。


 だけど無理だ。

 これだけは、無理だった。


 簡潔に言えば、()()()()()()()()()。誰でもない、自分への嘘だ。


 今もなお自分(オレ)が感じている『この気持ち』を、自分にさえも気付かせないように、


────出来るだけ、()()()()()()()()()()のだ。


「……はは」


 笑える。

 乾いた笑いだった。

 大人は言わずもがな、マミー(シル)も殺され、パピー(ガルド)の生も絶望的で、(アル)の生死も不明。

 そんななかでの、俺のあの思考。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、あの思考。


「……っ」


 膓が煮え繰り返る。

 もう、耐えることなんて出来なかった。


 そもそも。

 これは、ヒューマンを()()()()()()()()()()()()思考なのだ。


 恐怖はやがて、憎しみに成る。

 その、憎しみの部分を感じさせないための、あの思考だ。


 だけど。


「それは、間違ってる」


 この思考の真意は、人間(ヒューマン)を憎みたくなかったという、エゴに過ぎない。転生者(元人間)である俺の、エゴでしかないのだ。


 だけど今は。

 俺は人間じゃない。

 獣人だ。



 獣人の女の子が。

 同族(ヨムル)に裏切られ。

 ヒューマンに、集落を、家族を、滅茶苦茶にされた。

 

 さて。


「アイツらを()()()()()()()()()()()()?」


《……では、これからどうすると言うのです》


 どこか悲しげな声だ。


「まず、皆を助ける。アルも探しに行く。そして、()()()()()()()


 俺は『世界の声』の問に、迷うことなく答えた。


《…………今から『迷いの森』に戻ることは推奨できません。あそこは既にカーネリア神聖国の領地下です。個体名:アルに出会える確率はほぼ0、そこから逃げ出せる確率は0。他のラクーンはジガートにいますが、救える確率は0。どちらも推奨できません》


 対して、『世界の声』の返答は粛々としたモノだった。

 それが、どうにも腹が立つ。


 だから吠えた。


「何が分かるんだよ! 家族を殺されて、それでも赦せって。そう言うのか!? 皆、みんな、大切な──」


《あなたのそれは蛮勇です。無謀なことはするべきではない》


 癇癪を起こす子どもを諭すような声音。まるで、俺が間違っていると言わんばかりだった。


「──お前は、俺の味方なのか。それとも敵なのか」


《どちらでもありません。しかし、あなたはこの世界にとって有用です。死なせる訳にはいきません》


 有用? ふざけるなよ、俺は道具じゃないんだぞ……!


《…………分かりました。貴方の人生ですし、貴方が決めるべきでしょう。ただ、まずはジガードに向かうべきです。でないと()()()()()


 それと、と言って『世界の声』は言葉を続ける。


《『神』、または『神徒』と名乗るモノが接触してきた場合、その言葉は無視して下さい。聞き入れる必要性はありません》


「神徒……?」


《では、『世界の声』の一時的な定着を終了します。終了まで、5、4、3》


 無情に、そんな声が響く。


「っ、オイ! 待て!」


《2、1……0》


「……くっそ」


 完全に、1人だけになった。勝ち逃げされた気分だ。

 残されたのは、現状、この行き場のない感情をどうすることも出来ない俺だけである。


 だが、やることは決まっていた。

 これは、俺の人生だ。

 好きに生きてやる。


 そう、ヒューマンに、復讐を────


 その時。


『───────────。』

「ぇ」


 何かが聞こえた。

 世界の声ではない別の声が、()()()()()

 

「あ、ああああああああああ!!!」


 頭に走る激痛。

 それと同時、大切なものが抜けていく感覚が、頭を蹂躙した。

 そして、


「─────ぁ」


 視界が、闇に覆われた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……ん」


 瞼を開く。

 そこには、清々しいほどの青空が広がっていた。


……あれ、生きてる。もしかして、助かった、のか? 


 背にはコンクリートではなく、芝生の感触があった。

 どうやら、病院というわけではないらしい。


 体を起こす。


「どこ、ここ……え?」


 そこで異変に気付いた。


「声が……!」


 いつものような、変声期が終わった後の男子高校生の声ではない。

 寧ろ変声期すら迎えていない少女のような声である。


「え? え? え?」


 どうしてこうなった!? いや……あの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、俺はどうなった!?


 何がなんだか分からない。

 そして、頭を掻こうとして、ようやく気付く。


「……なに、これ」


 手が、人間のモノではなかった。爪は黒く尖っている。何より、茶色い毛が全身に生えていた。


「これって、もしかして……」


 俺はとうとう、とある仮説にたどり着いた。


「異世界転生ってヤツ……!?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結論。

 異世界だった。


 ステータスと呟けば、ステータスが出る。

 魔法を使おうと思えば、使える。

 ステータス欄にあるスキルだって使える。


 何故かは分からないが、使い方も、この国の言語 (?)も、なんなく使えた。

 まるで、最初からそうであったかのようだ。

 ちなみに、この体の名前はメルというらしい。


 転生と言うと、赤ん坊に転生というのがオーソドックスだと思うのだが、俺の場合はどうなんだろうか。


「うーん……」


……憑依?


 いやでも、それにしては体が馴染みすぎているような気もする。

 寧ろ、スキルの『人化』を使った方が動きにくいのだ。長年使ってなかった筋肉を無理矢理動かしているような感覚だった。


 それに極め付けは、()()()()()()()ということだ。

 地名はジガート。距離にして徒歩3週間。方角だって分かる。


 これは一体どういうことだろうか。


 ダメだ……こんな結論が出ないことを考えてると頭が痛くなってきた。

 まぁ、今はとにかく、ジガートとやらを目指すのが先決だろう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 1週間後、砦らしき物が見えてきた。かなり大きい。進撃の○人とかに出てきた壁くらいあるんじゃないか?


 予定よりかなり早いのは、多少走ってきたからだ。()()()()()()()()()、何故か走っていた。



 因みに、俺はあれからずっと人化を使っている。というのも、タヌキの姿の時と、人化した時の姿はまるで勝手が違うからだ。

 ずっと人化を使っているのも、この体に慣れるためである。その甲斐あって、今では大分慣れてきた。


 余談だが、この世界には魔物がいるようである。ホーンラビットとかいう魔物に1回だけ出会ったのだ。めちゃくちゃ弱かったけど。


 そして、なんか最初から持ってたビルドボアに関しては、ウィンドカッターを何度も使って切り落としてから、Lv3の火魔法のティンダーで枯れ枝に火を灯して焼いて食べていた。

 

 調味料は勿論無かったためにとても不味かったが、食べるしか無かった。1週間しかかかっていないため、まだまだ残っているけれど、食べるつもりはもうない。


 そう考えていると街が近づいてきた。今世で初めての街だ。上手くいけるだろうか? 服装は、ちょっと民族衣装チックだが、大丈夫だと祈ろう………


 

 俺はそう思いながら、ジガートに向かっていった。







【1章『幼年期』】は、これで終わりとなります


「こんな所で区切るの?」と思われる読者様もおられるでしょうが、一応ここが物語の節目です


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次話『人物早見表』と、次々話『魔法について』は読み飛ばして貰って大丈夫です


 気になった際にご覧ください

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― 新着の感想 ―
[一言] 理由が分からないってことは、記憶の一部がないってこと?一週間の内に何があったのか……。
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