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14話 シリアスは突然に


「ヨムルお兄ちゃんが帰ってこない?」


 そんな話をパピーから聞いたのは、初めて魔物狩りをした少し後のことだった。


「ああ。カルディナに行ったっきり戻って来こないんだ。まあ、アイツのことだから大丈夫だとは思うんだが」


 パピーは大丈夫とは言ったが、俺は心配だった。

 カルディナは、獣人を認めないというサリエス教を信仰しているとフィーネも言っていたしな。


 その心配が顔に出ていたのだろう。

 パピーが気を遣ってくれる。

 

「そんなに心配しなくて良いぞ。アイツだしな」


 それにしても、無駄に信頼しているな。

 一体、ヨムルとパピーってどんな関係なんだろうか。


「この前、ヨムルお兄ちゃんがパピーに世話になってたって言ってたけど、どんな感じだったの?」


「ああ、師弟関係というやつでな。アイツはメルの兄弟子みたいなもんだ。かなり強いぞ」


 ということだった。ヨムルがどれだけ強いか分からないが、パピーが強いというんだからチート級の強さなんだろう。


 ん? でも待てよ? 今まで何回かヨムルのステータスを見たことがあったが、俺の3倍も無かった筈だ。レベルも20くらいしかなかったし。

 うーん、どういうことだろう。あれから強くなったという訳でもないだろうし。


 未だにスキル欄は見れないから、何かのスキルが強いとか、そんな感じだと思われる。それともスキルで鑑定偽装(仮)を持っているのだろうか?

 まあ、そのどちらかだろう。


 それにしても、あのスカしたイケメンのヨムルが強いとは、見た目に騙されちゃいかんな。


 今は無事に帰ってくることを祈ろう。






 結局、ヨムルは1ヶ月後に帰ってきた。


『カルディナに入る手前で、柄の悪い連中に目をつけられちゃってね。それで、少し叩きのめしたら門兵がやって来ちゃってさぁ』


 ということだった。しかし、彼を待っていたのは尋問などではなく感謝だったらしい。


 その柄の悪い連中というのは結構強いヤツだったらしく、門兵では止めることが出来なかったので放置されていたらしい。

 で、そこに現れたのがヨムルと言うわけである。


『実はそれだけじゃなくて、その……感謝されて嬉しくなっちゃって、困り事を片っ端から引き受けちゃったんだ』


 なんだそりゃという話である。

 皆も呆れていた。


 ヨムルっぽいと言えばそれまでだけど、今回は皆が心配していたのだ。笑い事では無いのである。


 ヨムルもそれは分かっていたらしく、ちゃんと皆に謝罪していた。



 こうして、プチハプニングは幕を閉じた。




 筈だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ここはカーネリア神聖国の城、その一室。


 そこでは不穏な空気が流れていた。


「確かなのか? その話は」


 事務机に座る男の質問に、その目の前に立っているいかにもな騎士風の男が答える。


「ええ間違いありません、ガンドルフ様。確かな筋からの情報でございます」


 暫しばかりの沈黙。そのあとにガンドルフと呼ばれた男が口を開く。


「ふむ。だが、(にわか)には信じられんな。あの()()()()()()()()()()()()()などと………」


「私も最初は信じられませんでしたが、高名な結界術師にあの森を調べてもらったところ僅かではありますが結界の反応があったとのことです。恐らく間違いないでしょう。あの森の性質もその結界によるもの思われます」


 これを聞いて、半信半疑だったガンドルフもその情報の信憑性が高いことを知った。

 この情報を持ってきた人物は、その結界を破れるとも言っていた。問題は何も無い。


「……そうか。では、()()()()()()()。貴様もそれでいいな? クロードよ」


 クロードと呼ばれた男は口端を吊り上げた。


「ええ、構いません。大人しく獣の国に引っ込んでいるというならまだしも、許可なくサリエス様のご加護があるこの地に住むとは言語道断! 神に変わりこの私が天罰を下して差し上げましょう!」


 クロードは大袈裟に声を張り上げ、手を剣に掛けて礼をする。

 ガンドルフは良しとばかりに頷いた。


「頼んだぞ。早速兵の皆に伝えておけ。出発は明日の──」

「その討伐、俺にも加わらせてもらおう」


 その時、扉が勢い良く開いた。

 2人がそちらを向く。

 そこには、2メートルを超える巨漢。豪傑と言うに相応しい鍛え上げられた筋肉。左目に眼帯をした、強面の男がいた。


「ベ、ベルモンド殿、何故ここに……」


 ガンドルフが恐る恐る尋ねる。その顔には汗が伝っていた。


「ああ、会話が聞こえたんで、王室から飛んで来たんだ。知ってるだろ? 俺が地獄耳だってことぐらい」


「バカな! ここから王室までどれほど離れていると思って──」


「やめろ! クロード。す、すみませんでしたベルモンド殿。それにしても、王女の護衛はどうなされたのですかな?」


 クロードを戒めながらガンドルフが尋ねる。


「ああ、ちゃんとやってるよ。侵入者が入れば音で分かる。知らねぇ音があそこに近づけば、駆けつけてやるさ。まあ、S()()()()()()()()()()()が守ってるところにわざわざ侵入するとは思えないがな」


「はは、確かにそうですな。しかして、何故迷いの森の獣人の討伐に加わろうと?」


「……久しぶりに、体を動かしたくなったからだ」


「……え? それだけ、ですか?」


 その言葉に、ベルモンドは眉を寄せる。


「あ? 悪いかよ」


「「ッ!?」」


 その瞬間、部屋の中がとてつもないプレッシャーに覆われた。二人の口から悲鳴にならない叫び声が上がる。


「いえ、いえいえいえいえ。素晴らしい理由でございます。正に武人の鑑ですな」


「……ふん。まあ、そういうことだ。討伐隊の奴らに伝えておけ」


 そう言って、ベルモンドは部屋から出ていく。


 その顔が笑っていたことに、ガンドルフとクロードは気づかなかった。



「待ってろよ? 必ずこの左目の借りは返してやるからな。()()()


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