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13話 うわっ、俺の初体験、遅すぎ?



 6歳半になった。

 魔物狩りはまだしていない、と言うより、()()()()


 というのも、パピーが『せめて武器の使い方は知ってないとダメだ』と言うのでこの半年間ずっと剣の使い方を習っていたのである。


 そもそも、『体術も教えていく』と、だいぶ前に言われた気がするのだが、その時まで全く教えてもらってなかった。


 最初は疑問でしかなかったが、剣(木剣)を持ってみてやっと分かった。これは体を鍛えていないと無理。うん無理。


 すぐに重心がズレて体勢が崩れてしまうのだ。その隙を魔物に狙われればお仕舞い。冒険の幕は早々に閉じてしまう。

 パピーはそこら辺はちゃんと考えててくれたようだ。ごめんなパピー。ちょっとキモいとか思ったりして。


 まあ、こうして俺は半年間剣を握った。

 脚の運び方、力の入れ方、振り方など、学ぶことが死ぬほどあったが、それもなんとか乗り切った。


 他には、柔軟にも力を入れる。

 パピーも一緒にやってくれていたのだが、体が柔らかすぎてキモかった。それも、半年間。


 そして今に至る。やっと及第点が出たので、今日許可が下りたのだ。

 今は森に来ている。


 この森の周りには大婆様の結界が貼ってあって、ラクーン以外の生き物を入らせないらしい。しかし、時々弱い魔物が入ってくるとかで、今回はそれを狙っているのだ。と言うより結界なんてあるんだな。知らなかった。


 人生初めての魔物狩りである。当たり前だが、アルはマミーとお留守番だ。アルはついて行きたそうにしていた。


 俺の腰には剣帯(けんたい)が巻かれており、そしてそこに長めの短剣が挿してある。


 短剣、と言っても俺の身長はまだ1メートルちょい位なのでこれくらいが丁度良いのだ。


 一方パピーは、身の丈ほどある大戦斧(だいせんぷ)を肩に担いでいた。腰には、ロングソードがオマケとばかりに挿してある。


 パピーとマミーの冒険者時代のことは、フィーネから聞かされていた。それによると、パピーは斧の使い手らしい。そして、俺は今までパピーが斧を持っているところは見たことが無い。


 それがどういうことを意味するのかと言うと…………


 パピーは『マジ』である。


 ということだ。

 魔物がいたら俺が戦う前に潰してしまいそうな勢いだ。


「パ、パピー? 大丈夫?」


「大丈夫だ。魔物が出たら、すぐにパピーが滅してやる」


 ちょっと主旨変わってるよ! 見本を見せるとかならまだしも、滅したらダメでしょ、見本にならないよ力任せの暴力だもん。


「ぱ、パピー……」


「………………」


 返事がない。ただのパピーのようだ。


「パピー!」


「おっとどうしたメル。怖くて帰りたくなったか? それは大変だ今すぐ帰ろう」


 怖い怖い怖い怖い。何? 何が見えてんのパピーには。パピーが一番怖いんだけど。


「怖くないし帰らない」


「………本当に、やるんだな?」


 パピーは真剣な顔で聞いてくる。

 え、急に素に戻るの怖い。


「うん」


 俺は答えた。それを見て、パピーが渋々と言い始める。


「分かった。じゃあ、あそこにホーンラビットがいるのが見えるか?」


 俺はパピーの指差す方を見た。


「……!」


 いた。

 食卓で良く見る角ウサギだ。


 静かに頷く。


 さっきパピーが固まっていたのは、ホーンラビットを見つけて、どうするか迷っていたんだろう。娘である俺を危険に曝したくないがために。

 全く、良い親である。


「出来ればゆっくり近づいて、不意打ちで倒すんだ。躊躇はしなくて良い。それに、もし気付かれても焦らなくて良いぞ。ホーンラビットの動きは単調だ。人を見つけ次第誰彼構わず突進してくるが、それだけだ」


 俺はゆっくりと頷いた。

 パピーは続ける。


「よし。じゃあ、まずはそれを避けるんだ。アイツは突進を(かわ)されると、相手がどこにいるか分からなくなって数秒間硬直する。だから、躱してから攻撃を当てるんだ。良いな?」


「うん」


 ホーンラビットの大きさは、今の俺の膝くらいしかない。

 だが、角は少し尖っている。ぶっ刺さる、とまでとはいかないだろうが、もしかしたら刺さるかもしれない。注意はすべきだろう。


 因みに今回は魔法は無しである。そのために剣を習ったのだ。


「……行く」

「あぁ、気を付けてな。出来ることをやれば良い。『最高』を目指すと、足元が見えなくなって、出来る筈の『最善』さえ出来なくなるからな」

「うん」


 心を決め、俺は忍び足でホーンラビットにゆっくりゆっくりと近づいていく。

 だが──


『キュ?』

「……!」


 目が、合った。


『キュイィィ!』


 ホーンラビットは、俺を見つけるや否や、パピーが言っていた通り真っ直ぐ突進してきた。

 しかも思っていたよりも結構早い。


「っ!」


 俺は距離が3メートルを切った辺りで、左に思いっきり避けた。そのすぐ横を、ホーンラビットが通りすぎていく。


『キュウ?』


 そして、俺を見失って止まったホーンラビット目掛けて、思いっきり剣を突き立てた。


「やあぁぁぁぁ!」

『ピギュアァッ!?』


 ホーンラビットから悲鳴が吐き出される。その声を聞くと胸が少し痛くなった。

 だが、躊躇っている暇などない。構わず剣を深々と刺していく。血が飛び散って、俺の顔にベットリと付いた。


……生臭い。しかも、かなりグロい。


『ピ……ピィ……』


 だがそれでも、ホーンラビットはまだ生きていた。


「……ぅ」


 吐きそうになるのを必死におさえ、俺はダメ押しとばかりに剣を押し込んだ。すると、カツンと、硬い何かに当たる感触。

 更に刺すと、今度は何かガラス状の物が割れるような『ビキッ』という音がした。


『──ッ!?』


 すると、ホーンラビットが形容しがたい絶叫を上げ、その体が塵になって消えていった。

 俺の顔に付いていた血さえも無くなっていく。


……倒せた、のか?


 少し困惑している俺に、パピーが近づいてきた。


「頑張ったな、メル……ぐすっ、ホーンラビットが消えたのは、()()()()()()()()()()魔石を砕いたからだ。ぐすっ……魔物は魔石を砕かれると、ぐすっ……体を保てなくなる……ぐすっ……本当に、ぐすっ、がん"ばっだな"、ぐすっ」


 ひ、引くくらい泣いている……

 それほど心配だったんだな。



 そうだ、レベルは上がったのだろうか?

 俺はパピーをおいてステータスを開いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Lv:6

HP:309/310

MP:344/344

SP:323/328


力:278

耐久:218

敏捷:411

器用:298

魔力:289

ーーーーーーーーーーーーーーーー


 一気にレベルが6まで上がっていた。

 ステータスは大体1レベごとに平均で10位上がっている計算だ。ちょっと嬉しい。いや、かなり嬉しい。


 今まで頑張ってきたことが実を結んだような気がする。少し大袈裟かしれないが、達成感が半端ない。



 こうして、俺の初めての狩りは幕を閉じた。


フィーネ「え……? 私たちの訪問、カット……?」

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