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72 市場の長

 

 結局、なーんにも決まることなく話し合いだけで終わってしまった。

 ハヤトも休みのはずだったのにクタクタになってるし、俺は俺で頭痛がしてきた。

 その一方、エラさんは元気そうだし、楽しそうだ……


「……それじゃ……今日は解散で……」

「ありがとねー! 今日も楽しかった! ご飯は?」

「あ……俺は家で食べます……ハヤトは?」

「じゃあ、僕で良ければ……」

「やったー! 私のオススメでいい?」


 盛り上がってる二人をおいて部屋を出る。今日はまだ夕方といってもいいような時間なので、市場(いちば)で食材でも買いに行こうか。


 プラプラと歩きながら、他国の感じを探す。とは言っても何が他国なのかが(いま)だによく分かっていないが……

 やっぱり、エラさんとかハヤトの言う通りに、もっと本について調べた方がいいのかもな。俺が知ってる他国の情報なんて、蒸し料理と(いろど)(ゆた)かぐらいしかない。


「お! 今日もカッコいいね! 買ってかない!?」

「あぁ、はい……あ、そうだ」

「ん? どうした?」

「この辺りで違う国の人とか見ませんでした?」

「はぁ……そんなやつホントにいるのかぁ?」

「そういうのに詳しい人って居たりします? なんか、何でも良いんですけど物知りな人とか?」

「……それならこの市場の(おさ)なら詳しいんじゃねーかな? (あん)ちゃんはここの良いカ……良いお客さんだからさ? 案内しようか?」


 今、良いカモって言おうとしてたな?……まぁ、そうなんだけどね……


「よろしくお願いします。じゃあ、ついでにコレも貰います」

「おぉ! ありがとよ! じゃあ行くか!?」


 お店のおじさんは業務中(ぎょうむちゅう)にもかかわらず、俺を市場の長の家へ連れて行ってくれた。

 カモになってて良かったと思うと同時に、この街の普通の人の優しさに触れることが出来た。やっぱり、こういうのが良いよ……


 意外と質素(しっそ)な作りになっていて、雨が降ったら家中がびしょびしょになりそうなほど天井に穴が()いている。雨なんか降らないけどたまには降るのでその時どうしてんだろ?


「クリエタさん? あの、名前なんだっけ?」

「アキラです」

「常連のアキラです。話があるみたいですよ?」

「おぉ、それなら君は下がって()いぞ?」


 クリエタと呼ばれた人はスキンヘッドで背の低い優しそうな糸目のお爺さんだった。

 お爺さんの白い髭は持っている杖と同じくらい長い。一年後ぐらいには床に着いてるかもしれない。


「いつもありがたいよ。今日はなんの用だい?」

「あの、今、違う国を探す仕事をしてまして……それでえっと、他国の人に心当たりとかありませんか?」

「なるほどなるほど……それなら他国人のいる場所への地図を描いてあげよう」

「え? ありがとうございます!」


 はや!!? もう見つかったの? それともコレが噂の自称他国人の情報? 聞き方間違えたかな……


「これで分かるかい?」

「分かります。この通りに入って3番目の家ですね?」

「役に立てたなら嬉しいわい。これからもよろしくなぁ……」

「……ちなみに……タグュールさんって知ってます?」

「タグュール?……聞いたことあるかもしれん……」

「あの、交換日記を書いてた人……分かりませんよね?」


 人の交換日記なんて普通読まないよな。


「タグュールかぁ……確かユーリカの父親じゃなかったかのぉ……」

「へ? ユーリカさん??」

「ユーリカの家の地図も書いておこう」


 おぉ! これは他国にめちゃくちゃ近付いたんじゃないか? それにタグュールさんにも会えるなら会っておきたいし。


「あの、今日はありがとうございました!」

「またなぁー……」


 クリエタさんは手を低く振って見送ってくれた。これからも市場でカモとして生きていこう。そんな気持ちだ。


 空は暗くなっていて、カエデさんが帰ってきていてもおかしくない。

 最近仕事がそこそこ忙しくて、カエデさんの転職を手伝えてないなぁ。ただ前よりは家での様子が明るくなっているし、王子様とも上手くいってるのかも。

 親方とも会いたいし、グェールとも会いたい。てか、今度普通にアイラの店行こ。


「カエデさん居る?」

「あ、おかえりなさい! そんなに沢山!?」

「まぁ、いつものことだから。食べる?」

「一緒に作りましょう! お腹空きました!」


 カエデさんが隣で野菜を切ってくれてる(あいだ)に、肉に下味をつける。辛いような酸っぱいような謎のスパイスを肉全体にまぶすことによって謎に美味しくなるのだ。


「作りすぎちゃいましたかね?」

「これぐらいなら全然食べれるよ?」


 ……冒険をしなくなって食欲が減るのかと思ったら、案外関係なくて前と同じぐらいの量を食べてしまう。いつかまたドラゴン狩りに行かないと食費……はまだ全然余裕があるか。

 普通にドラゴン狩りたいよーー。でも、弓矢じゃ無理だから鍛冶屋がないと無理だ。

 このままの生活になっちゃうのかな……弓矢練習するか? でもそんな時間なくね?

 暇に戻りたい……


「いただきましょう!」

「いただきまーす」


 テーブルいっぱいに並んだ料理を食べ始める。もっと大きなテーブル買おうかな……

 そういえばカエデさんは冒険とかしたいって言ってよなぁ……それもなんとかしないと……


 なんとかしないとってずっと思ってるけど、全然なんともならないね。







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