8 やりたい事
ゆっくりと休むことはできなかったがひさびさにベットで寝ることが出来て疲れはだいぶ取れた。
「おはようございます! もう朝ですよ!」
先に起きていた彼女はもう支度が済んでいて、いつでもチェックアウト出来るような状態だった。
「今日はこの街を観光しましょう! 一緒に!」
彼女に言うのを忘れていたが今日はあのおかしな大臣に会いに行かなければならない。
「ごめん……実は仕事のことでもう一回お城に行かないとダメなんだ」
出来ることなら俺も君と観光がしたい!
「それなら……ついて行ってもいいですか? このままお別れも寂しいので」
「多分いいんじゃないかな? まぁ、とりあえず俺もそろそろ出発の準備しようかな」
諸々の支度を終えてこの部屋から出る。一階に降りて行くと昨日の受付嬢が素敵に笑ってくれた。
宿屋を出て行き、昨日歩いたお城への道で会話をする。
「大臣さんってどんな方なんですか? 私あったことないです」
「少しおかしな人だけどたぶん、多分だけどいい人だよ。多分だけど……」
もし悪い人だったとしても悪気はなさそうな感じだな。
「へぇー会えるの楽しみです! ちなみにお仕事は何に決まったんですか?」
「あぁ、鍛冶屋だって。人手不足で大変なんだって言ってたよ」
「鍛冶屋? 鍛冶屋ってなんですか?」
「え? こんな世界だから沢山あるのかと思ってたけど? 聞いた事ないの?」
「私は聞いたことないです……もしかしたらあんまり無いかもしれないです」
人手不足って忙しいからじゃなくて儲からないからなのか?そんな話をしてると城が見える。
「あぁ着きましたね! 行きましょう大臣の部屋!」
また橋を渡り、城の中に入って大臣の部屋へ向かう。あぁ、気が進まない……彼女を連れて行って本当に大丈夫だろうか? 今日は危ない実験をしていない事を祈るしか無い。
でも……あぁいやだ!行きたくない!!
「もしかして、ここが大臣の部屋ですか……」
あぁ、名誉ある栄光の素晴らしい大臣の部屋と書いてある。
彼女が異様さに気付いたのか少し引いていた。
「それじゃあ……行こう!!」
「はい……行きましょう!」
入るために気合いを入れる。
そんな会話をしているとまた大臣の部屋の扉が勝手に開いた。
「ははははは! よく来たね。待っていたよ! 僕はねぇ、昨日からずっと君の話が聞きたくて仕方がなかったんだ! ははは!」
煙吸ってなくてもやばい人だなぁ……
「あれ? そこにいる君は誰だい? 知らない子だね?君も王様に言われて仕事を探しに来たのかな?」
2人とも圧倒されてしまう。
まだ朝が早いのに何でこんなに元気なんだ!
「いやあの、彼女は仕事を探してるわけじゃなくて付き添いで来てくれたんです」
「あ、あの、よろしくお願いします!」
「僕の実験を見たくて来てくれたんだね!? いいよ! どんどん歓迎するからさ! どうぞどうぞ! 中に入ってよ!」
入りたくない!!彼女も入れたくない!でも、ここまで来たらもう仕方ない!行こう!気合い入れよう!
「ごめん、やっぱり俺1人で来た方が良かったかも……」
「いや、そんな事ないですよ。悪い人じゃなさそうですし、きっと大丈夫ですよ! だって大臣だし」
「よし! 行こう!」
中に入るとやっぱり、そこら中から煙が立ち上っている。それを吸わないようにと呼吸を浅くしながら前に座った椅子に腰掛ける。
彼女も横に座った。
「あの、仕事のことなんですけど手続き終わりましたか?」
「もちろん! 手続きは終わったよ! ただ、君には昨日の僕の様子と煙を吸った時の感覚を詳しく教えてほしいんだ! もしも他に何か気付いたことがあれば遠慮なく! 僕に話して欲しい!!」
大臣になるだけあって仕事は早いみたいだけどやっぱりちょっとやばい……
「あの、あんまりよく覚えてないんですけど昨日の大臣は呂律が回っていなかったりとか、あとやけにハイテンションだったり、なんていうかちょっとおかしい感じはしました」
「あぁ! そうか! 僕はそんなことになっていたのか迷惑をかけたねぇ! 他には何かあったかい?」
「あぁ、あと笑い声が変になっていました、大臣の様子はそれぐらいかなぁ?」
「どんな、笑い声だい?」
あの笑い方を再現するのか……
「あのー、はへはへみたいな感じの笑い方でした」
「いやぁ、ありがとう! それじゃあ、君が煙を吸った時の事も教えて欲しいなぁ?」
「甘い匂いがしてからなんだか笑いがこみ上げて来ましたね」
「それは僕と一緒みたいだね! 本来はもっと大勢の人間で試したいけど、まぁいいでしょう! 今日はありがとう! それじゃあ、仕事で困ったらまたよろしくね!」
いや!こっちの用事を忘れている!
「あの、鍛冶屋のお仕事ってどこですればいいんですか?」
「あぁ、忘れてた……でも安心して! これから君と一緒に鍛冶屋さんに向かうんだ! もちろん住む場所も一緒に見に行こう!」
まだこの人と一緒かぁ。てか住む所まで決まってるの?
「あの! 私も! 付いて行っていいですか?」
静かに聞いていた彼女が手を上げて言う。
「いいよ! いいよ! 一緒に行こうじゃないか!」
あぁ有難い、1人じゃ心細すぎる、
「ありがとう……実は少し不安だったんだ」
「いいえ! 気にしないでください! 私がついて行きたいんです」
大臣の準備が出来たみたいで鍛冶屋へ向かう。その道中で大臣に質問してみた。
「どうしてあんなに危ないことをしてるんですか?」
「うーーん? どうしてかぁ? それはよく分からないなぁ?」
「よく分からないのにあんなに危険な事をしてるんですか?」
「うん! そうだね!」
もう訳がわからん。
「でもね、僕は思うんだけど」
大臣が話を続けた。
「自分がやりたい事をやるのに何か理由とかいるのかなぁ?」
「だって僕は煙を見て吸いたいと思ったから吸ったんだし、大臣になりたいと思ったから大臣になったんだ。君もその子と居たいから一緒にいるんでしょ?」
確かにそうかもしれない。最後はちょっと否定した方がいい気もするけど……
「僕はねぇ! やりたい事をやるんだよ! だって! そっちの方がいいじゃないか!」
大臣は大きく手を広げて言った。
「君たちも! やりたい事をやりなよ!」
なんだかいいことを聞けた気がした。
自分のやりたいことは何だろう?この世界に来てからあんまり……いや、前の世界にいる時からあんま考えたことなかったなぁ。
「なんか……ありがとうございました」
「いえいえ! どういたしまして!」
大臣がいきなり立ち止まった。
「ここだよ! 君のこれからの職場は!」
今にも崩れそうな建物だった。そこに大臣が入り、少し誰かと話をすると人が出て来た。鍛冶屋だと聞いたので体格のいい男性が出てくるのかと思っていたら赤毛の女性が出てきた。
「おい! おまえが新入りか? おまえはすぐ辞めるんじゃないぞ!」
あぁ、もう、なんと言えばいいのか分からない、とりあえず挨拶しよう、そうしよう。
「あぁ、よろしくおねがいします」
「声が聞こえないぞ!!」
「よろしく! おねがいします!!」
「よろしくな! これから頼むぞ!」
これからの事を考えるのが億劫になるくらい不安になった。あぁ、カエデさんとおばあさんの家が恋しい……
これまでずっと静かに着いて来てくれた彼女が気になったので振り返ってみる。
俺を心配してくれているのか、かなり不安そうにしていた。
何かに悩んでいるような、そんな顔をしていた。
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