61 契約事項
市場から食材を山のように買ってきた後、夜ご飯の仕込みを始める。親方も手伝ってくれたので、割りと早く終わった。
「しかし大変なことになっちゃいましたね。鎧とかも鍛冶屋にあるし」
「ちょっと見に行ってみるか? もう人気もそんなにないだろうしな」
「あと、アイラとか心配してたんでみんなのとこにもついでに……」
「そうだな。心配をかけた……」
「イクゾ! サンポ!」
二人で鍛治屋に行ってみると、そこには倒壊した建物の瓦礫だけが残されていた。野次馬は消えたな。
リアルなウサギの置物の残骸も見える。このキャワィィ! のせいで、鍛治屋は……
「あるか?」
「うーん、あ! なんか光ってませんか?」
黒く煤けたゴミの山の中に蒼く輝く物を見つけた。そこまで歩くのも大変そうだ。
全身真っ黒になりながら、俺と親方の鎧、そして大剣を無事に回収する。
魔法で全身の煤を払い、綺麗にする。便利だと思うよ?
「使えそうですかね? ちょっと部分部分で壊れてる気もするけど……」
「直せば今まで通りに使えるが……果たして直せるのかどうか」
ひとまず家に拾った鎧やらは置いていき、みんなに挨拶に向かう。とりあえずアイラから行っとこうかな……多分一番心配してるだろうし。
「まだ大丈夫? 入るよ」
「…………あ! ミリアさま! お怪我は!?」
「大丈夫だ。な、泣くな……」
「……ぐすっ……でも、ミリアさまが居なくなったら、私……」
親方がアイラに抱きつく。それでもアイラは泣き止まず、そのままの時間が続いた。
もしかしたらアイラも出来れば親方と一緒に仕事したいって思ってるのかな……自分で仕事選べないってめんどいな。
「……あの、一ついいですか!」
「なんだ? なんでも言ってみろ」
「ミリアさまを助けるって約束したでしょ!? アナタ!」
「あ、俺?」
「そうですよ!」
言われると思った……けどこのムードからいきなり喧嘩になるのは予想外。
「待て待て! 私はアイツに助けられたんだぞ?」
「……え、そうなんですか?」
「そうだ。元々は私のミスなんだ……」
「…………なら謝ります。ごめんなさい……」
「あ、別にいいよ! うん」
「ミリアさまを守ってくれてありがとうございました!」
腰が九十度なんじゃねーかってぐらい深々とお辞儀をされてしまった。逆に困るやつ!
さて、他にも心配してる人いるだろうからそろそろ行こうかな。
「それじゃマスターのとこにも行ってくるから。あの、アヤカにも元気だって伝えといて?」
「えー! ついて行ってもいいですか?」
「いいぞ。だが、店はどうするんだ?」
「閉めます! 今日はもう終わりです!」
そんな感じで、アイラがついてくる。
マスターのところに挨拶に行くと二人ともまだ忙しそうに働いていて、ちょっと顔を見せるだけで終わった。その間もアイラは親方のことを心配そうに眺めている。
他には誰かいたかな? 大臣……はまぁいいか!
「帰ります?」
「そうだな」
「私も帰ります! ミリアさま! お元気で!」
「アイラも気を付けて帰りな」
「はい!!」
結局、アイラと別れ、二人で家に帰る。
途中でグェール出てこなくて助かったなぁ。話めちゃくちゃややこしくなってただろうし。
「それでは私はもう帰るとするかな」
「せっかくなんで夜ご飯一緒に食べません? もし用あるならあれですけど」
「それなら頂こう。私はちょっと鍛治屋の方を見てくるから」
「じゃあカエデが帰ってきたら呼びに行きますね」
「ありがとう。それじゃまた後でな」
玄関を開けて家に入ると、不思議とホッとする。いやぁ、今日は色々あったなぁ。
「聞きたいことあるんだけどいい?」
(なんだ?)
「許可……なんて言えばいいか分かんないけど契約みたいなことしたらずっとそのままなの?」
(そのままだな。死ぬまでずっと……もしかしたら死んでも一緒かもしれない)
「いつのまにかドラゴンに乗っ取られるとかない?……あっても言わないか」
(それはないぞ。もしアイツがやったことを心配してるならああなった理由を説明しようか?)
「よろしく」
(今の我々には肉体が存在しない。ならばどのようにしてこの世界でこうして話すことが出来るのか……それは我らが蓄えていた魔力の中で生きているからだ)
「どういうこと?」
(ドラゴンはみなそうだ。死んだドラゴンは自分が蓄えていた魔力と同化して、この世界を漂う。それが終わるとどこかに消えてしまう)
そんなこと初めて会った時にも言ってたっけ。「腐敗したらどこかに消えていく」みたいなこと。
(腐敗する前に新たな肉体を見つけることが出来れば、またこの世で生活出来る。そして、アイツは新たな肉体を見つけた)
「だからあんなに舞い上がってたってこと?」
(それもあるが、魔力という不安定な場所からいきなり肉体に移ったんだ。久々に感じる空腹などの感覚を我慢出来なかったんだろう)
「……ルドリーは我慢できる?」
(出来るさ。もし出来なかったとしてもここまでお前を困らせることはないよ)
「それって許可とか必要なの? 今でも俺の魔力の中で生きてるんでしょ?」
(人間はすぐに死ぬ。ただの仮の宿に過ぎないんだ。だが人間とドラゴンぐらいしか魔力を蓄えられる生き物は存在しないんだよ)
「じゃあ、人間よりもドラゴンに喰われた方が良いの?」
(ドラゴンの魔力は動かない。喰われてしまうと一生そこで閉じ込められることになる)
「なんでそんなに詳しいの?」
(もう何百年と生きているとこれぐらいのことは勝手に分かるようになる)
ドラゴンも大変なんだな。そう考えるとグェールが親方と契約したことで変になってたのも分かる。
落ち着いたらちゃんと話せるようになるのかな。それなら俺もルドリーと……でも許可しようとしてもなんかダメなんだよなぁ。
「あ、お疲れ様です。アキラさん」
「おかえり。ちょっと待ってて、親方呼んでくるから」
「あの、噂で聞いたんですけど、大丈夫でしたか?」
「大丈夫! 親方も俺と元気だからさ」
「私、着替えてきますね?」
カエデさんが自分の部屋に入って行ったので、親方を呼びに外に出た。
今日も空が真っ暗になるまで働いているカエデさん。
なんとかせんとなぁ……
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