49 冷静に……冷静に……
相手は腕と腕をぶつけて威嚇のための爆発を起こしている。てか天井から月の光が漏れ出してるじゃん。さっきまでなかったってことは戦闘の途中で崩れたのか。
……もう真夜中。そんなこと考えてる場合じゃないな。
ドラゴンの腕が俺を薙ぐようにグワッと横から伸びてきた。腕の内側に入り込むために前に進む。今までで一番胴体に接近した。
大臣が言っていた通り、鱗と鱗の間に大剣を突き刺す。パンと静かな振動が左腕に伝わってきた。
素早く引き抜き、次の相手の動きを観察する。後ろから弓矢が飛んできて、ドラゴンがそれに気を取られていた。
また踏み込み、今度は胴体ではなく足に大剣を突き刺した。パンと爆発した音の後にギョァァァという悲鳴が上がる。向こうももう限界みたいだな。
冷静になれば俺の方が有利だ。今みたいに確実な隙を見て、大剣を突き刺す。それの繰り返しをしてれば必ず勝てる……
相手は体勢を低くして頭を素早く動かしていた。俺を食べようとしているんだろうけど、今回はそうもいかんぞ。
どうせ後ろに引いても何段階か首が伸びるので、一発目の噛みつきに合わせて、カウンターを喰らわせてやる。
頭がコマ送りみたいな奇妙な動きで、右に左に移動している。いつ来るのか、タイミングを間違えたら今度は全身紙粘土になってしまう。
遠くから矢の援護が届く。気が散るのかドラゴンはまぶたをパチパチと動かしている……今行けるんじゃね?
カウンターのつもりだったが、隙があるならそれをつかない理由はない。
頭が俺の近くにやってくると、突進しながら両手で大剣を前に突き出した。それはドラゴンの大きな目玉に刺さり、抜く時にズブッと音がするほど深くまで到達した。
これでもう終わりだな。今も目から相当な出血をしてるし、時間さえ経てばこっちの勝ちだ。
パニックになったドラゴンは身体中をぶつけ合って、爆発を全身で起こしている。距離さえ取ればこんなものなんでもない。
アレ? 様子がおかしいぞ? ドラゴンが何か変だな?
さっきまでずっと二足歩行だったドラゴンが二本の腕を床につけるような体勢に変わった。何するつもりなんだ?
両腕を地面に強くぶつけて、大きな爆発を起こすと、ドラゴンはカエルみたいに俺の背後へ飛んで行った。あー、スゲー飛んでるわ。
「ヤバくね?」
ドラゴンの着地予測地点はちょうど親方と大臣がいるところのように思える。俺じゃなくて向こう狙ったのかよ。
「気を付けてくださーーい!!」
今から声出したところで何か変わるとも思えないけど……でも、何かあの二人なら大丈夫な気がするな。スティーもいるし。
飛んだ勢いのまま、ドラゴンが地面に全身でぶつかる。
ドガーーーーーン!!! という音と共にここまで爆風が来て、そのせいで全身にじっとりと汗をかいた。今までで一番大きな爆発だ……大丈夫かな?
それとほぼ同時、天井に大きな穴が空いた。空を見るともう少ししたら太陽が昇るぐらいの時間だと分かった。どんだけ長い時間冒険してたんだよ。
さっきまでの天井だった岩がそのまま降りてきて地面に落下すると、今日一の音が鳴り、立ってられないほどの揺れがやってきた。
うるさすぎて頭がおかしくなりそうだ! てか、これ俺もヤバくないか?
「親方!! 大臣!! 大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫だ! でもスューリが!」
大臣が!? マジかよ!
天井から崩れ落ちてくる岩を避けながら、ドラゴンの爆発源の方へと走って行く。
ガラガラと壁も崩れてきている。この山全体が崩壊しているのか!
「大臣! あの! 大丈夫ですか!?」
「コイツを抱えて逃げるぞ! このままじゃ瓦礫に潰される!」
大臣が幸せそうにスヤスヤと眠っている……さっきまで元気そうにドラゴンと戦ってたのに……近くにはドラゴンの鱗だけがバラバラと散らばっていて、肉体が見えない。今回は食べるところなさそうだな。
親方に大剣を預け、大臣を抱える。とりあえずさっきまでいた洞窟内に戻るしかないだろう。そこ以外の道なんてどこにもないし。
途中で岩が直撃しそうになった時はもうカスほどしか残っていない魔力で何とかした……俺も眠たくなってきたよ……
何とか細い道に入り込んで、一息ついていると、後ろからまたもや大爆発が起こった! もー! どーなってんの!? まだ生きてるの?
親方に預けた大剣をもう一度握りしめ、気合いで構えていると声が聞こえてきた。
『おつかれ。もう終わったみたいだぞ?』
「ホントぉ? もういいの?」
『あぁ、良くやったな。おつかれ』
「はぁーー……もうダメだぁ」
「私も限界だ。もう動けない……」
『後は俺が運んどいてやるから寝てていいぞ?』
「……アヤカはどこ? 崩れちゃってるけど……」
『もう家で寝てるよ。心配すんな』
「あぁーー。ありがとうぅ……」
大爆発の影響で、洞窟に朝日が差し込んできている。眩しい光の中で今日のことを思い出す。いやぁ……いろんなことあったなぁ。
親方ももう眠ってしまったようだ。俺はこの朝の澄んだ空気にもう少しだけ包まれていたくて、特に何を考えるわけでもなく、突っ立っている。
崩れた瓦礫と太陽光のようにキラキラと光るオレンジの鱗を見ると、頑張って良かったなぁと思った。
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