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3 守ってあげてね

 

 俺が起きた時にはもうすでに村が動き出していた。みんな随分と早起きだし、自然に囲まれていて、騒音やらを気にする必要がないからか、声が大きめだ。


「それじゃあ、俺たち行ってくるよ」

「いつもありがとうございます!」


 大きめだからか、彼女の声が壁越しに聞こえてくる。こんなに朝早くからお仕事だろうか? 少し気になったので小屋(こや)から出て外へ見に行こうとした時、おばあさんが入り口近くにいるのが見えた。


「ごはんができたから食べにおいで……」

「ありがとうございます! まさか朝ごはんまで用意していただけたなんて……これから俺に手伝えることがあればなんでも言ってください!」


 流石に申し訳なく思い、手伝える事はないか、と聞いてみたら、おばあさんは俺の目を見てしっかりとこう言った。


「あの子を守ってあげてね」


 意外な言葉に少し驚く。

 間違いなく俺よりも強いし、心も体も健康そのもののような彼女に俺が何かしてあげられることがあるのかと疑問に思った。そもそも、そんな関係性じゃない俺に、どうしてそんな事を頼んだんだろう? 誰かと勘違いしてる?


「もちろんお約束はしますけど……俺が彼女を守ることなんてあるかなぁ? はは……」


 おばあさんは全てを分かっているような優しい笑顔をしてから、スタスタと家に戻っていく。そのおばあさんの背中を追った、ご飯を食べる為に。


「おはようございます! いい天気ですね!」

「あぁ、おはようございます」

「今日のご飯は豪華なんですよ?」


 たしかにテーブルに所狭(ところせま)しと料理が並んでいてここまで歓迎されていることにまたすこし負い目(おいめ)を感じた。ていうか、そもそもここどこ!


「それじゃあさっそくいただきましょう!」

「「いただきまーす」」


 テーブルに並んだ料理は全て美味しい。その中でも野菜をじっくり煮込んだであろうポトフが一番のお気に入りだった。普通に美味い。食事の途中で、気になっていたことを聞いてみることにした。


「今日の朝、外でいろんな人と話してたけど何かあったの?」

「倒したドラゴンとか、私たちが落とした弓矢をみんなで拾いに行ってきてくれてるんですよ?」


 なるほど。あの時は焦って弓矢を投げてしまったのかと思っていたけど、そうじゃないんだな。


「あの、食事を終えたらセントラルに行こうかなと思っているんですけど、どうでしょうか?」

「ん? あぁ、確か、王様の居る?」

「そうです! どうですか?」

「この世界の事も良く分かってないし、行ってみようかな? セントラルに」

「それでは行きましょうセントラル! 準備は私に任せてください!」


正直、そのセントラルに行ったところで何も変わらないかもしれない。でも、少しは状況を飲み込もうとしないと。いつまでもこの二人のお世話になるわけにもいかないから。


「あぁ美味しかったぁ。ごちそうさまでした」

「あの、準備をしておくので、もし何かあれば今のうちに支度しておいてください」


 言われて気が付いたのだが、昨日もらった棒を小屋に置きっぱなしにしておいたことをすっかり忘れてた。


「それじゃあ、少しだけ支度して良い?」


 家の裏にある小屋に着き、置きっ放しの棒切れを拾った。そして、家に居たおばあさんに話しかける。感謝とかも言っとかないと、普通にのたれ死んでた可能性もあるんだし。


「あの、おばあさん? 実は、セントラルに行ってきます。あの、またここに来ると思うので、その時は何か手伝わせてください! お世話になりました」


 また今朝のような優しい笑顔を浮かべて(うなづ)いてくれた。


  「気をつけていってらっしゃい……」


 その言葉が胸の中に深く染み込んでいくのが分かった。優しさが染みる……ありがとう……

 おばあさんとも話したので彼女の元に戻るといつのまにか弓矢を背負っていた。あんなに重たいのに、良く普通の顔して持てるなぁ。


「昨日もらった武器も持ってきたし、もう支度は済んだよ?」

「ではこの馬車の荷台に乗って行きましょう!」

「もう準備は終わったかい?」


 馬車を引いている男性が聞いてきた。


「はい! セントラルまでよろしくおねがいします!」


 荷台に乗ろうとすると男性が二人、入り口の前で待ってくれていた。


「この方たちが今日、私たちの護衛をしてくれる人です!」

「必ず安全に送り届けるよ」

「君たち! これからよろしくな!」

「あ、こちらこそよろしくお願いします」


 見送りに来た村の人たちに手を振って、セントラルへと出発する。一応、手を振ってみたけど、これは彼女の見送りの人たちだろうなぁ。


「みんなありがとう! それじゃあ行ってきます!」

「「「「行ってらっしゃーい」」」」


 こんな俺を迎え入れてくれたこの村と、色々なお世話をしてくれたおばあさんに深くお辞儀(じぎ)をした。


「良い村……」


 ボソっと一言呟く、彼女は聞こえていたのかニコッと笑いかけてくれた。一瞬、涙が出そうになったが、彼女の目の前なので頑張って止めた。


 村を出てからすこし経って、彼女に聞かなければならないことがあったことを思い出した。


「そういえば……名前聞いてなかったですよね?」


 おそらくカエデという名前だろうと思ったが、一応聞いておく。


「あ! そういえば私もあなたの名前知らないかも」


 あぁ俺も名乗ってなかったのか。しかし、名前も知らずにこんなに仲良くなったんだなぁ。


「俺はアキラ、君は?」

「カエデです! アキラさんこれからもよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく、カエデさん!」


 新しい始まりのような感じがして嬉しくなった。






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