32 親方の野望
「……ハヤトくんか……」
背の高い顔色の悪いアーノルドという大工がハヤトに声をかけている。もしかして図書館で知り合ったのかな?
「知り合いなの?」
「うん。アーノルドさんって背が高いでしょ? 高いとこの本とか取ってくれたりするんだよ」
「そうなんだね。いい人じゃん」
「ははは……そうだね」
顔色悪くてちょっと気味悪いと思ったり思わなかったりしてたけどいい人だなぁ。
「……ハヤトくんの家はまだ時間がかかる。その間に彼の家に泊めてもらうといい……」
「え? でも良いの? アキラくん?」
「え? 別に良いよ。だって家広いしさ」
「……私たちも完成を急ぐ……待たせて申し訳ないな……」
そういうと玄関をしゃがみながら外に出ていった。あれだけ背が高いから高いところの本が取れるんだろう。
「ハヤトもリフォーム頼んだの?」
「うん。フルマさんに言われてね?」
「フルマって誰?」
「え! 君も知ってるよ! 僕の職場のマスターだよ!」
「はぁー、名前知らなかったぁ」
フルマっていうんだぁ、へぇ。変わった名前だなぁ。いや、この世界の普通の名前が分からないから変わってるのかどうかの判断は俺にはできない。うん。だってここに来てからまだ五人ぐらいとしか知り合ってないし……もっと友達増やした方がいいかな?
でも、俺も割と忙しいんだよなぁ。そもそもなんで親方はドラゴンと闘ったりしてるんだ? 命懸けたりしてるけど理由も知らないままってよくないぞ。
よし! そうなれば善は急げだ! 早速聞いてみよう。
「あの、親方?」
「なんだ?」
「変なこと聞くんですけど親方ってなんでドラゴン倒したりしてるんですか?」
「……理由が聞きたいか?」
もちろんだ。それを聞く権利が俺にはあるはず。
「理由は簡単だ。私の作っているモノたちが素晴らしいと証明するためだ」
「それって剣とか鎧とかですよね?」
「あぁ、この世界では皆が弓を使う。しかしドラゴンを倒すのには剣や槍の方が効率がいい……」
少しだけ黙った後に言葉を続ける。何か言いたそうな顔をしていたような気もする。
「だから皆が弓を捨て、私の武具を使うようになるのが夢なんだ。これは私だけの夢じゃない」
「他にも鍛冶屋をやってる人がいるんですか?」
「昔な……昔、私の一族は鍛治を仕事にしてたんだ」
なんだか真剣な顔つきになってきた。やっぱり命を懸けてるだけあってちゃんとした理由があるんだな。
「しかし王の一族が変わってから私たちは隅に追いやられていくようになった……つまり自由にモノを作ることができなくなってしまったんだ」
「へぇ、王様って世襲制かと思ってました」
「そうだよ。だが彼らは巨大なドラゴンを倒して今の地位に昇り詰めたんだ」
「ザーラ?」
「そうだ。私のお婆様が言っていたのだが彼らの装備は私たち一族が作っていたらしいんだ……つまりは今、弓がどうこう言っている王族自体が剣を使ってドラゴンを倒していたということだ」
「はぁ」
……もしかして親方って今の国を変えようとしてる? 俺はすごいことに巻き込まれているのかもしれないなぁ。
「君には大変なことばかりさせて申し訳ないな。だが! 私の目的が達成された時には君も物凄く得をすることになるだろうな!」
「そうなんですねぇ……」
「乗り気じゃないのか?」
「いや、ちょっと思ったよりも大きなことをやろうとしてたんだなぁって思ったら変な気分になってきました。ははは……」
国家転覆に俺が加担することになるのか? それとも親方的にもそこまでは望んでない? でもこれだけ弓が普及してるところでそんなことするってヤバいよな?……ヤバイのか?
「まだまだ時間はかかるよ。もしかしたらその頃には君も元の世界に帰ってるかもしれないな」
「一応、ここに永住するって決めたんでそれはないと思いますよ。事故でもなければ」
それで思い出したけど、カエデさんは大丈夫なのか? だってめちゃくちゃお城で仕事してるし。
「でも、そんなことしたらカエデは大丈夫ですかね? だって今もお城で働いてるわけだし」
「ははは! そんなすぐの話じゃない。ちゃんと準備ができたらカエデは呼び戻すよ」
「なら良かったです」
カエデさん元気にしてんのかな?……また思い出したけど家が出来たってことはカエデさんもウチに住むことになるのか?……何か死ぬほど緊張してきたな。
「それではもういいか? 私もやることがあるんだ」
「あ、ありがとうございましたー」
「これからも頑張っていこうな」
親方が去った後にこれからのことを真剣に考え始める。だって俺もクーデターに参加することにいつのまにかなってるかも知れないんだもん。
いや、もしかしたらそんな大層なことじゃないのかもしれないけど、そうなってもおかしくない。
何よりドラゴン狩りの途中でいつ死んでもおかしくないのにそんな目的のためにこれから頑張れるだろうか?
……カエデさんと一緒に村へ帰ろうかな。もしそれができたら一番良さそうだなぁ。
考えてみればおばあさんからカエデを守るように言われてるんだった。俺もそろそろ自分の意思で選び始めないとヤバいかもしれないなぁ。
そんなことを考えていると玄関にアーノルドさんがやってきて、家が綺麗になったことを教えてくれた。今日からでも住めると言うことなので早速引越しの準備を始める。
新生活だ。これからも大変そうだなぁ。
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