29 女神の守護
雲の上にまで届くほどの高い山だった。上に登るにつれて空気が薄れていく感覚はあったがそれによって呼吸が苦しくなるとかはなかった。
「ここですかね?」
「ぽいね。行ってみようか?」
頂上に何かの手によって作られたような建物があった。淡く輝く岩の中をくり抜いた建物に何かの気配がする。外観は岩だったが入り口部分が綺麗な長方形だ。
〈入れ〉
言われた通り中に入る。天井が無かったので光が差し込んでいた。
部屋などは無くそのまま真っ直ぐの道をただ進むと白と青を混ぜたような色のドラゴンがいた。
知性を感じるような目、二足歩行と背骨から伸びる尻尾の存在。そして何より静かに輝く二つの翼。
太陽の光に反射する鱗が白い光を放っていた。
「はじめましてアキラです……お名前は?」
〈名前などどうでもいい〉
本当に目の前のドラゴンの口から声が出ている。不思議だ。
「不思議そうだね? ドラゴンが喋るなんて考えもしなかった?」
「まぁ、はい。ここに来てからは……」
「みんな結構知能が高いんだよ? だから喋るやつがいてもおかしくないと思ってたんだ……」
コソコソと大臣と話していたがドラゴンが口を開き始めた。
〈お前たちはなぜ我らを殺す〉
いきなり重たい問いかけだ。それには親方が答えた。
「生活のためだ。お前らも生活のために我々を殺すだろ?」
〈我々がお前らと同じように知識をもっていたとしてもか?〉
「私はドラゴンを下に見ているから殺すのではない。知識の伝達ができないのならその有無に関してはどうでもいい」
〈では私は殺さぬのか?〉
「私に害がないのであればな」
〈それは人間全てに言えることか?〉
「それはないだろう。もしお前が街に現れれば喋ろうが何しようが殺されるに決まってる」
そこで会話は止まった。ドラゴンが何を考えてるのかは表情では分からない。
「質問してもいいかい?」
〈あぁ〉
「君は言葉を喋れるけどどこで学んだのかな?」
〈我はここに来るまでずっとグレィースの辺りにいたのだが……〉
「それって……氷の街?」
〈そうだな。私のところに迷ってくる人間は凍死寸前の者が多かった。彼らは私に歯向かって来ることはなく、意思疎通ができた〉
喋り疲れたのか深呼吸をする。その時に翼を伸ばした。
〈私が助けてやると彼らは私に食べ物を渡した〉
「殺されかけたことは?」
〈あるが……そんなことはどうでもいいだろう〉
無表情だったドラゴンが少しだけ悲しそうな顔をした。やっぱり感情があるみたいだ。
〈彼らの中には私と一緒に生活する者もいたよ。長い奴だと数十年もの間な〉
「その途中で言葉を覚えたんだね?」
〈そうだ〉
「では何故? 今はここにいるのかな?」
〈私にも老いが来てな。寒さに耐えられなくなってしまったんだ〉
「助けた人間に裏切られたわけじゃない?」
〈私が人間に負けるはずがないだろう。住処を追いやられたらなどしないよ〉
「人間に恨みは?」
〈私は人間に特別な感情はない。同族にも興味はない。あとはここで死を待つだけだ〉
「そっか。他の質問をしてもいいかな?」
〈あぁ、すればいいさ〉
そろそろ夜も近くなってきている。大臣はまだまだ話し足りないみたいだが切り上げないと危ないだろう。
「……大臣?もう夜になりますよ?」
「えぇー! まだ聞きたいことあるよぉ!」
「うーん。でも……」
「僕は今日、ここで夜を過ごすから! 君達は?」
「いやぁ……」
「帰るぞ。コイツは本気でここに泊まるつもりだ」
「でも……危なくないですか?」
〈私が守ってやろう。ならば安心だろう?〉
あなたが一番怖い。けど、まぁ大丈夫そうかな? きっとこのドラゴンは良い人なはずだ。大臣は何としてもここで話を聞きたいだろうから説得とかしようとしても無駄な気がする。
「それじゃ、よろしくお願いします。大臣も気を付けて」
「君たちも無事に帰るんだよ〜」
〈アイツらは大丈夫だ。女神の守護がついている〉
「何ですかそれ?」
〈お前達は安心すれば良い……私は女神に見放された……〉
体を縮こませて眠るような体勢になってしまった。大臣はそれでもここで一泊したいらしく、俺たちは二人で帰ることになった。
「女神の守護って何ですかね?」
「私は神を信じない。そんなものはどうでもいい」
「この世界の宗教ってどんな感じなんですか?」
「……そんな大したものじゃない。それに嘘ばかりだ」
「……そうなんですね」
親方がなんだか不機嫌になってしまった。
道中でドラゴンと出会うこともなく、空が真っ暗になると同時に街に辿り着いた。
「あぁ!! ミリアさま!! ご無事で良かったですぅ!」
「心配かけたな。私は無事だ」
「私! 心配で心配で……ずっと女神様に祈りを捧げていたんです!!」
「……ありがとな。もう疲れたから話は明日にしよう。……それと、大臣は向こうで一泊するらしい。みんなに伝えておいてくれ」
「はい!!」
女神の守護って何だ?って思ってたけど、もしかしてアイラの雑貨屋にある無数の女神像が関係してたりする?
あれだけ有れば効果凄そうだし、アイラのお陰で俺は生きてるのかもしれないなぁ。
「アイラ。今日はお疲れ」
「……はい。お疲れ様でした……」
そんな露骨に態度変えなくてもいいのに……
帰宅途中から感じていた眠気が街に入った時にピークに達した。俺は自分でも気付かないうちに眠った。
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