26 山編①
「うぉー!! 親方ぁ! ちょっと! ヤバイ!」
崖に捕まりながら助けが来るのを待っていた。鎧の重さに耐えきれず、手が離れそうになる。こんなことになるなら……俺も来なければ良かった!
時は遡る……
………………………………………………………………
「おい! 今日こそは山に行くぞ!」
「え? 大丈夫なんですか? 前全然ダメだったじゃないですか?」
「人数が増えただろ? だから大丈夫だ」
人数が増えたって言っても二人しか増えてないじゃんか。
「それでも足りなくないですか? えっと……五人でしょ?」
「いや、七人だ!」
「なな?」
「お前と私とハヤト、アヤカ、マスター、アイラ……それとアイツだ」
「まさか!?」
大臣が来てくれるのか?
「スューリも呼ぶ」
「え、誰ですか?」
「お前今まで名前も知らないでいたのか? 大臣だよ!」
「へぇ」
なんか変わった名前だな。やっぱり貴族とかだったりすんのかな?
「よく来てくれましたね。そういう戦いとか嫌いな人かと思ってた」
「お前は知らないのか? アイツは弓の名手だぞ?」
「あ、そうなんですね……」
「元々ドラゴン狩りの功績を買われて国家の仕事についたようなやつだ。だから弓の腕前は間違いない」
「へぇ、最初は普通の人だったんですね」
「最初からアイツは異常だったよ」
昔からの知り合いなのか……よく分からないけど、この二人って色々ありそうなんだよな。
「とにかく! お前以外のやつにはもう連絡しておいたから準備するぞ!」
「なんで俺が最後なんですか?」
「……いいだろ! そんなことは!」
こんだけ大人数で旅に出るのなんて初めてだな。俺の知り合いが総動員でこれから山に向かうことになるけどそんなに大変なのかな。
でも七人ってことはカエデさんは無理だったのかな?
「カエデって来れないんですか?」
「あぁ、忙しいみたいだぞ。日中はずっとだな」
夜になってもすぐ眠ってしまうから最近話が出来てない。それに朝も早いので顔を合わせることもほとんどない。
大丈夫かな? 疲れてないかな……
「あぁ!! やっと来たねぇ!! 遅かったじゃないか!」
「大臣……テンション高いですね」
最近分かったのだが大臣がテンション高い時は煙を吸った後だ。本当に麻薬みたいだしやめといた方がいいと思うんだけどな。
「久々だなぁ、ドラゴン狩り! 僕ねぇこう見えて上手いんだよ?」
「そうみたいですね。今日はよろしくお願いします」
「あ、そうそう! ちゃんと粉は持ってきた?」
「え?……あ、持ってきてないです。荷物になっちゃうんで……」
「うんうん! そういうと思って僕が代わりに持ってきたから! 大変な時は使ってね? それとも先に一服しとく?」
「い、いやぁ……ちょっと……」
「キセルは持ってきたよね? いちお、二つもってきたんだけど……」
「あ、それは持ってます」
懐からキセルを取り出し、大臣に見せる。満足した様子で話を続けようとしたが……
「君さ! これから行く山に……」
「おい。出発するぞ……大臣、コイツには言っておかないといけないことがある。そろそろいいか?」
「いいよ! それじゃ、頑張ろうね!」
「大臣も気を付けて」
親方が大きな門の前でみんなに声をかける。
「よし!! よく来てくれた! それでは出発するぞ!」
「「「おーー!」」」
出発だ。山がどれだけ厳しいのか知らないがこれだけいたらきっと大丈夫だろう。
「あ、アキラ? ハヤトどこに居るか知らない?」
「ん? 居ないの?」
「あぁ、ハヤトは来ないらしいぞ」
「親方は話聞いてたんですか?」
「ついさっきな。まぁ、しょうがない。死ぬかもしれないんだ」
「……」
死ぬかもしれないのか……嫌だなぁ。
みんなで門の外に出て行く。アイラは弓矢は持たず、大きな荷車を担いでいた。
俺たち以外にも馬車が後ろから付いてきていた。ドラゴンの死体をこれで運ぶのだろう。
「なんだか凄いことになってますね」
「そうだな。私もホントにこんな日が来るとは思ってなかった。君のお陰だよ」
「いやいや、俺は何もしてないです」
「ん? 遠くにドラゴンが見えるな?」
大臣が弓を構えたと思った瞬間、矢が放たれた。それはさっき親方が見つけたドラゴンに命中した。こんなに上手いなんて思ってなかったな。
「上手いですね!」
「うん。今はいつもより集中力が増してるからね。もしかしたら現役の時より上手いかも」
「それってアレですか? 煙ですか?」
「そうだね。君も吸ったらいいのに……」
「……ちょっとだけ……いや! やっぱやめときます」
「ふふ。でも、そんな簡単な旅じゃないと思うよ? 君もハヤトくんみたいに来ない方が良かったかも?」
「いや、ハヤトの分も頑張るんで……」
「ははは! いいねぇ! 君のそういうとこ嫌いじゃないよ!」
「どうも……」
………………………………………………………………
うん。大臣の言った通りだ。俺も来なければ良かった。来なければ崖に捕まって死にかけることもなかったんだ。
「親方! 限界です!!」
「うーん……お! そのまま崖をつたって右に行くと緩やかな坂になっている! そこまで頑張るんだ!」
「はい!」
ぶら下がった状態で右手を離しまた崖を掴む。広がった両手の感覚を狭めるために左手を離しまた崖を掴む。その繰り返しだ。
「よし! もう手を離しても大丈夫だ! 真っ直ぐ落ちろよ!」
「ホントに大丈夫ですか!?」
「あぁ! 大丈夫だ!」
手を離すと身体がグルングルンと転がり落ちた。しかし大きな怪我はない。痛みはひどいけど……
「今から行くから待ってろ!」
「僕も行くよ」
「……私たち二人で行く! その間の指揮はマスターがとってくれ!」
「おうよ! 任せとけ!」
生きてて良かったぁ。もう俺ドラゴン退治すんのやめようかな。
寝転がって空を眺める。はぁ……早く助けに来ないかな……
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