269 結婚?
二人で鍋料理を食べた。楽しかった。少なくとも一人で食べたあの時よりは楽しかったし、美味しく感じた。やっぱり鍋って一人で食べるもんじゃない……まぁ、そんな事もないか。普通に良く聞いたし、そんな感じの話。
ちょっとだけ、前の世界が懐かしくなってしまっていたが、俺はこの世界で生きていくことを決めていた。戻れるとしても戻らんぞ、カエデさんがここにいるなら。
「それじゃあ、これからどうしよっか?」
「お店でも見て回りません? 雑貨屋さんとか?」
「あぁ、そうだね。お土産でも……」
変な覚悟を決めたところで、雑貨屋へ。道中は街の景色について話していた。カラフルだとか、宝石が凄いだとか。ちなみにカエデさんもこの装飾をやり過ぎだと微かに思っているらしい。やんわりと言葉の節々にそれが表れていたような気がした。つまり勘違いかもしれない。
前にも来たことのある雑貨屋に着いたので、中に入る。そういえば前にここで変な物を貰ったな。アレって今どこにあるんだろう。
「あぁ、お久しぶりですねぇ」
「あ、どうも……こんにちは」
「何を買われる予定ですかぁ?」
「まぁ、ちょっと、見てみてから、はい」
「そうですかぁ」
というわけで雑貨屋を見て回ると、不思議な指輪を見つけた。それは、自然光によって、ていうか光によって色を変えるという不思議な石が嵌め込まれた不思議な指輪……そういえばこういうアクセサリーって一回も付けた事ないな。前の世界でもなかった。
付けてみるか?……え、でも、イキッてるみたいじゃない? これぐらいなら問題ない? そういえば近くにアクセサリー付けてる人って居ないから、どんな感じで付ければ良いのか分からない……居たっけなぁ。初めてだし、無難なやつがいいけど、どれが無難なのか分からない。
基準が分からなかったので、カエデさんを呼び、感想を聞いてみる事にした。
「これどう? おかしいかなぁ」
「いや、似合ってると思いますよ? 素敵です!」
「そう? ホントに?」
「はい!」
「そっかぁ、なら買っちゃおうかな。ごめんね、呼んじゃって」
「いえいえ!」
「カエデさんは買うの決まった?」
「迷ってて……良いですか?」
「あぁ、うん」
アイコンタクトで、着いてきてほしいという感じを感じたので、着いていくとカエデさんはポーチについて悩んでいるみたいだった。金色の刺繍でカワイイイラスト的なニワトリが描かれたポーチ。可愛い。それと、もうちょっと大人めな青の落ち着いたポーチ。両極端すぎて、どうアドバイスすれば良いのか分からない。
「うーん……どうなんだろう」
「迷ってて……」
「二つともはどうですかぁ?」
「あ、店員さん」
「タダなので」
「あぁ、そっか。どうする?」
「それなら二つとも頂いて良いですか?」
「はいぃ」
そのポーチを二つとも貰い、俺も慣れない指輪を……あ、そういえば、この世界に結婚指輪とかあんのかな。そういうのがあるのかは分からんけど、せっかくならおそろいで……いや、恥ず……いけど、言ってみるか。
「え、あの……カエデさんも同じの買う?」
「え? どうしたんですか?」
「いや、同じ指輪買わないかなぁって」
「お揃いってことですか?」
「あぁ、まぁ、いやなら、てか、ごめん。やっぱりなんでもないです……」
「お揃いにしましょう? 指輪も綺麗ですし!」
「あ、そう? ならそうしましょう? はい、すみません……」
てか、キモくないか? もし仮にこの世界に婚約指輪的な概念がないのであれば、ローカルルールで勝手に悦に浸ってる変態じゃん。分かる?
考えてみれば全然そういう関係でもないのに、相手が知らないのを良いことに、お揃いの指輪を付けるなんてキモくないか? どうするんだ、今更。
「綺麗ですね?」
「あ、うん……そうだね」
「嫌でしたか?」
「そんなわけないです……まぁ、ありがとうございます……」
「ん? どうされたんですか?」
「もう行きましょう……セントラルに」
「だ、大丈夫ですか?汗が……」
「あぁ、温泉だね。発汗作用が……」
顔から汗がダラダラ流れてきたので、それを心配される。それを温泉のせいにしつつ外へと出ていった。はぁ、暑い……死にそうだ、温泉入りたい。
「……暑いね」
「そうですね……」
「まぁ、もう帰る? どうしよっか」
「そうしますか! スューリさんも待ってますし」
「そうだねぇ。もう帰ろう……」
そんな感じで、俺たちはセントラルに帰ることになった。太陽光に反射して、虹色の光を放つ指輪は、俺の薬指にあったので、気持ち悪いと思った。なので、それを人差し指に差し替える。
……ちゃんと説明したら、薬指に付けよう。ちゃんと説明したら……
いつか来るその日に汗がダラダラ。心臓は破裂しそうで、のぼせているわけでもないのに、倒れそうだった。そもそもこの世界に結婚という概念はあるのだろうか? そもそも、俺とカエデさんはそこまで深い仲になっていくのであろうか?考えれば考えるほど倒れそうになったので、思考を停止させた。はぁ、疲れた。