266 ハリォードさん
朝だ! 晴れだ! 温泉だ!
今日は朝から天気が良い!
これまではずっと雨だったので、なんだかテンションも下がり気味だったが、こんなに晴れてるならテンションも上がりますよ、そりゃ。
三人で温泉への道を歩いている。前に見た時よりも華やかな街並みは、前と同じように賑わっていた。はぁ、お祭りって感じがして良い。観光地に来た感じが良い。
やっぱり大臣に言ってみて良かったなぁ。
当たり前だけど昨日帰ってたら、こんな気分で温泉に向かうこともなかったんだよ、うん、やっぱり言ってよかった! やっぱりテンションおかしい!
「楽しみだね!」
「ふふ、そうですね!」
「いやぁ……温泉、まだまだ入ったことないやつも沢山あるしな……どうしよっかなぁ」
「一緒に周りましょう?」
「もちろん!」
……今日の俺はテンションがおかしい。そんなに温泉好きだったっけ? まぁ、嫌いではないが、こんなに湧き上がるような物でもないような気はする。あれか、前と変わらないこの街の感じが良いのかな。
……セントラルもただただ魔法が広がっただけだったら、もうちょい懐かしさもあったんだろうなぁ。つまりは、ドラゴンの群れでめちゃくちゃになってなかったら、帰ってきたって感覚があったのかもしれない。こんなこと考えても意味ないけど。
上がっていたテンションがちょうどいいぐらいに下がったところで、沢山の温泉がある場所まで辿り着いた。もう匂いが温泉。今日はのばせて倒れないようにしないとな。
「あ、そうだ。なんか、水着みたいなの買わないとなんだっけ?」
「あ、確かそうでしたね……」
「えっと……受付だっけ?」
「そうでしたよね?行ってみましょうか」
……そういえばそうだった。いや、なんか、急にドキドキしてきたぞ? やばい心臓が……あ、そっか。だから、前に温泉に入った時に倒れちゃったんだな? 心臓のことを考えるなら、あんまり温泉に入らない方がいいのかもしれない……入るけど。
受付にてゆったりとした服を貰い、個室で着替える。前よりも個室が広くなっていた。多分、セントラルから来た人にとってこれが必要だったからだろう。であろう。うむ。
外に出るとまたまたカエデさんに会った。会ったっていうか、まぁ、こんにちは……
「えっと、じゃあ……あれ? てか大臣は?」
「大臣さんは先に行くってさっき言ってました」
「あぁ、そうなんだ。え、じゃあ……まぁいこうか」
「はい!」
じゃあ二人っきりってことじゃん。二人で温泉巡りかぁ……ヤバいな、もうすでに心臓が破裂しそうだし、今回もぶっ倒れるかもしれん。気を付けないと、本当に。
なんとなく会話も少ないまま、なんとなく温泉にも入らないまま、ただただぶらぶらしている時間が少しだけあったので、適当に指差して「……入ってみる?」とか言ってみた。
そこは泥みたい温泉で、なんだか汚そうな雰囲気もあったが、不思議と人が多かった。肌にでも良いんですかね?
「ふぅ……はぁーー。あったかい」
「ですね。気持ちいいです」
「そうだねぇ……」
なんだかんだ温泉に入るとボケーッとしちゃって、何にも考えられなくなるなぁ。とかなんとか考えながら、なんとなく温泉に入っていると、遠くにハリォードさんが見えた。今日も温泉に来たんだ。
「あ」
「え?どうしたんですか?」
「いや……あの、ハリォードさん? が居たから」
「あぁ!……なるほど」
だから何?っていうのを感じる。まぁ、俺も不意に声が出ちゃっただけだし、カエデさんもそれが気になって声をかけちゃっただけだし、別にどっちが悪いってことはないんだけど、だから何?っていうのを感じた。これこそ何?って感じだけど。
「……そろそろ別のところも行ってみる? のぼせちゃう前に」
「そうですね! 行ってみましょう!」
適当にブラブラとしながら、次に入る温泉を探す。すると、またもやハリォードさんが見えた……せっかくだし、一緒の温泉にでも……いや、そんなことをする意味分からないか、でも、他に入りたい温泉も特にないし、うん、行ってみるか。話もちょっとしたいし……てか、挨拶だけでもしとこうか。うん。
何故か自分の心に色々な言い訳をしながらハリォードさんのところに行く。おそらく、カエデさんと一緒に温泉を回りたいという気持ちと、ハリォードさんが気になるという気持ちが戦っていたのだろう。結果はハリォードさんの勝ちだったが、別にカエデさんの事が好きな事実は変わらないのであった。うん。
「あの、あれ入ってみる?」
「なんだか……カラフルな温泉ですね」
「そ、そうだけど、入ってみよう」
カラフルな温泉はとにかくカラフルだった。なんか、変な化学物質でも入ってるんじゃないかってぐらい原色に近い色の温泉。青や緑や赤やオレンジや紫や、とにかく気味が悪くなるような色。
人も少ない。これ本当に入っていいのか? でも、ハリォードさんめちゃくちゃ入ってるしなぁ。
不安だったが、二人でその温泉に入る。肌がピリピリとして、やっぱりちょっと危なそうだ……
「……やっぱり出る? 大丈夫かな?」
「そ、そうですね……どうなんでしょう……」
「だいじょぉぶだよ。久しぶりだねぇ」
「あ、ハリォードさん」
「肌が綺麗になるんだってさぁ。まぁ、治るまで時間はかかるけどね」
「治る?」
「ここから上がったら全身まっかぁかだよ。はは」
「へぇ……」
それって良くないんじゃ? てか、ハリォードさんから話しかけてきてくれた。
久しぶりにこの訛りの感じを聞いて地味に懐かしくなっていた。やっぱり、俺はここに住むべきか?
カラフルな温泉に入りながら、色々な事を考えていた。