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263 普通の鍋

 

 目覚めた時にはもう夜で、窓の外を眺めてもまだ雨だった。いつ頃晴れそうなのかヘルミーさんに聞いてみても良かったな。ここの人たちは天気の移り変わりが予測出来るみたいな事が得意なはずだし。宿の店主に聞いてみようかな。そんなことを考えながら、お腹が空いていた。何か食べ物はないか!

 部屋から出て行き、店主に話しかける。一応寝癖は魔法で直しておいた。


「あの、ご飯とかって……」

「それはここでは用意してないんだ。店で食べたらどうだ?」

「あぁ……あれ? お店ってやってるんですか?」

「魔法を使えるようになってから、雨でも人が出歩くようになったんだよ。だから必然的に店もやるようになったってことだな」

「へぇ……そうなんですね」

「便利だよなぁ。魔法って」

「はは……確かに……あ」

「どうした?」

「そういえば、いつ頃晴れそうですか? 分かります?」

「確か五日後に晴れるんじゃなかったかな? 書いてあった気がするな」

「書いてある?」

「天気予報の紙が配られるんだけどな。それには五日後晴れって……持ってこようか?」

「あ、すみません、ありがとうございます」


 天気予報の紙? そんな感じだったっけ? もっと感覚的なものだと思ってたけど、そういうのもあるのか。その紙とやらも魔法に関わることなのか?

 帰ってきた店主さんの手には普通の紙があった。魔法ではない? どっち?


「あぁ、ホントに五日後晴れって書かれてますね」

「ここ触ってみな」

「はい、あ……これも魔法……」


 言われたところを触ると、(まと)まった日数の天気予報が分かりやすくかわいいイラストで出てきた。どう考えても魔法だな。てか、ただの紙なのにスマホみたいなことが出来るって最早元の世界の技術を超えてしまってないか?


「しかも意外と丈夫なんだよな。雨が降ってても持ち歩けるしさ」

「なるほど……まぁ、とりあえず、ご飯食べてきます。ありがとうございました」

「そうか。それじゃあな」


 寝ぼけた頭は少しスッキリしていた。さてと、気持ちを切り替えてご飯屋さんを探すことにするか。


「……あの、オススメのお店とかって……」

「すぐ近くにある提灯(ちょうちん)が飾ってある店がオススメだよ。鍋が美味しいから食べてみな」

「あぁ、鍋……分かりました。ありがとうございます」


 鍋料理もあるのかぁ。前はめちゃくちゃ中華色の強いご飯だったけど、和風なやつもあるみたい……いや、鍋だからといって和食とは限らないんじゃないか? 鍋の中身なんて分からないんだし。

 その疑問は店に行って頼めば分かるので、そこまでにしておいた。さてと、ご飯屋さんに行こう。


 言われた通りに、提灯があったお店の中に入っていく。内装は地味目で、落ち着く感じだった。

 店員さんが来たので鍋を頼んでみると、どの鍋にしますか? みたいなことを聞かれることもなく、おそらく厨房であろう方へと戻っていった。鍋って一種類しかないの? そんなことある?何の味がするんだろう……あれか、出汁とかはない感じかな。

 目の前に来た鍋は普通の鍋料理だった。出汁はなんか、よく分からんけど、魚系? よく分かんない。

 具材も鍋だ。なんか、普通すぎてつまらなかった。が、まぁ、不味いことはなかった、てか、普通に美味しかった。うん。

 なんだか拍子抜けしたままお店を出ていく。変に期待しすぎたな。意外と普通ってこともあり得るんだな。うん。そんなことを考えながら宿に戻り、自分の部屋に帰ったが、ふと、一つのことを思った。そういえばカエデさんはご飯を食べたんだろうか?

 もし食べてないのであれば、誘って一緒に行けば良かった。二人でだったら、モヤモヤするもことなく、もっと楽しく鍋を食べれたはず。

 そもそもアレは一人で食べる量じゃなかったような気がしてきた。そうだよなぁ、鍋って基本はみんなで食べるよな?……そんなこともないのかな?

 ……どうでもいい! もう食べ終わった鍋のことを考えてなんになるんだ……どうでもいいからちょっとカエデさんの様子でも見に行こう。一応部屋の場所は知ってるから、ノックをすればコッチに気づいてくれるはず。出かけてたらどうしよう……行けば分かるだろ! そんなことは。

 ノックをしてみると、中からカエデさんの声が聞こえてきた。


「あ、アキラさんですか?」

「うん。カエデさん居る?」


 居るに決まってるだろ、返事があるんだし。


「はい! どうかされたんですか?」

「……いやぁ、ちょっと話さない?」

「分かりました。扉、開けますね?」


 カエデさんが扉を開けてくれたので、中に入っていく。そもそもは、ご飯を食べたのかを聞きにここに来たわけだけども、考えてみれば、ご飯を食べてなかったとしても、一緒に食べに行くわけじゃないから、何のために来たのかは良く分からなかった。だから、話すために来たみたいになった。別に話題とかはないのに。まぁ、なんとでもなるだろう。


「それじゃあ、おはなししましょう? どんな話ですか?」

「いやぁ、そうだなぁ」


 その場で適当に思いつく話を、カエデさんと話した。考えてみればこうして二人でただ話す時間はなんだか懐かしい。まだ、俺たちに家があった頃は、こんな風に良く話したもんですよ、ご飯の後とかに。

 単なる雑談ではあったが、話してるだけで最近の出来事で微妙に傷ついていた心がなんだか癒された。話に来て良かった。


 やっぱりカエデさんが大事だなぁ、と思いました。


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