259 戻ったイーリカ
山に着いたのは俺が一番最初だった。まぁ、そうだろうと思ったよ。
もう時間は夜になってると言っても良いぐらいだし、帰ってきててもおかしくはないんだけど、あの三人は帰ってこないと分かってたよ。
暇なので適当にドラゴンでも狩りに行く。それぐらいしかやることないしな。その道中で今日のことを思い出す。
一番最初に思ったのは、ここには、とりあえず今のところは、俺の居場所がないということだ。実際のところはどうなのか知らないが、この街が俺を受け入れてくれる、もっといえば俺がこの街を好きになれるイメージはそんなに湧かなかった。悲しかった。
この世界に来た時とはまた違う疎外感。あの時は自分が特別に扱われてる感じが、今思えば、むしろ心地良かったかもしれない、不安なことはあったけど、悩んでる暇もなかったしな。
……セントラルでの俺の存在意義は、おそらく個人としての俺ではなくて、『魔法が使える人間』としてのモノなのかもしれない。そんなことを言ったら、個人としてではなく『異世界から来た人間』である俺が必要だった時期となんにも変わらないはずなんだけど、なんかモヤモヤする。
俺が特別じゃなくなったから? うーん、ありそうで嫌だな。どうでも良いことを考えながら狩りをしていた。どうせ住むことになったら慣れるんだ、深く考える必要もないな。
一足先に夕食をいただいてから、さっきと同じようなことを考えようとした時に、大臣が帰ってくるのが見えた。思ったよりは早かったな。
「あ、大臣。おかえりなさい」
「ただいま。ははは」
「あの、ご飯ありますよ」
「そう? ありがとね」
俺は解体してあったドラゴンの肉を焼いた。大臣はその間に机の上で地図を広げている。やっぱり大臣も地図を手に入れたか。
一応俺が手に入れた情報も渡しておくか。後で言って混乱させるのも嫌だし。
「あの、実は……」
「ん? どうしたの?」
「ハヤトに聞いたんですけど、この辺りの井戸は全部塞がれちゃってるみたいですよ」
「知ってるよ。ははは」
「あぁ、知ってたんですね……」
「でもありがとう。ははは!」
知ってるかもしれない、とは思っていたような気がするけど、本当に知っていたとは……ていうか、知ってるに決まってるか。だって、井戸の事を調べに行ったんだろうし、それならそれがどうなってるかなんて知ってるに決まってる。
「これからどうするんですか?」
「温泉の国があったでしょ? 名前は覚えてないけどさ」
「ウィールド? いや、分かんないですけど」
「まぁ、そこにも井戸があるらしいから、そっちを試す感じかな」
「なるほど……それでも見つからなかったら?」
「地下を掘ることになるね。それよりは向こうで試す方が楽でしょ?」
「地下を……それなら向こうに行ったほうが良いですね」
「はは。君たちさえ良ければ明日にでも出発したいんだけど、どう?」
「まぁ、俺は……ていうかカエデさん遅いですね」
「イーリカを探すように頼んだからね。それで手間取ってるのかも」
「なるほど」
色々あって大変そうだ。
そうこうしているとお肉が焼けたので大臣の机に持っていった。味付けは塩胡椒だけだが、別にこれでも十分美味しいだろう。うん。
「……遅いですね」
「心配なの? はは!」
「まぁ、心配ではありますけど……もちろんそんなことする必要ないのは分かってるんですけどね」
「知ってるなら心配しなくていいじゃん」
「確かに……それは間違いないですね」
そうなんだよなぁ。俺がカエデさんを心配する意味ってマジで一ミリもないんだけど、心配してしまう、んなら連絡すれば良くね? テレパシーで話しかけてみよう。
(あーあー、カエデさん?)
(あ、アキラさん!)
(帰り遅いけど大丈夫? なんかあるなら手伝おうか?)
(もう帰ります。ただ、イーリカちゃ……イーリカは、あの……ミリアさんのところに)
(へ?)
(あの子が元々居た所に戻ってたので、そこまで追いかけたんですけど、そうしたら、あの、ミリアのとこに行くって言い出しちゃって……)
(なるほど……え、じゃあ今イーリカは?)
(はい、ミリアさんのところです。私が送ってきました)
(あぁ……それはおつかれさま……)
(いえいえ、これぐらいなら……でも良かったんですかね?)
(まぁ、でも、行きたいっていうのを止めるのは難しいし……)
(説得しようとしたんですけど、ダメで……帰るのが遅くなっちゃいました)
(そう、まぁ、待ってるよ。うん)
(はい! すぐに戻りますね!)
(いや、ゆっくりでも大丈夫だよ?はは)
(分かりました! ゆっくり戻りますね? ふふ)
幸せか? まぁ、とりあえずカエデさんが無事で良かった。
それにしてもイーリカは自由だなぁ。ここまで来てからまたあっちに戻るの面倒でしょ? それなら最初っからあっちに居た方が楽だったのに……まぁ、それだけ気まぐれに生きるっていうのも楽しそうだな。
楽しそうではあるけど、カエデさんにはあんまり心配をかけさせないでほしかったりする。こればっかりはしょうがないのかもしれないけれども……
それからしばらくの間は、外に出てカエデさんが帰ってくるのを待っていた。まだかなぁ。
読んでいただきありがとうございます。
小説を書くのは楽しいので、お時間がある方は書いてみても良いと思いますよ。