249 賢者の部屋
起きたのは夜だった。イーリカは元気そうに余ったお肉を食べていた。俺はまだ寝ぼけていたが、その肉の匂いにつられて布団から出て行く事にした。
「おはよう」
「ん」
「お肉ってまだ余ってる?」
「良いよ。食べて」
「え? 自分の分じゃないの?」
「良いよ。お腹いっぱいで吐きそうになりながら食べてたから」
「へぇ……なんで?」
「食べようって決めたのに多かったから?」
「そう……まぁ、なら食べようかな」
吐きそうになりながら食べる……まぁ、残しちゃいけないって思ったんだろうな。割とそういうことはあると思う、うん。まぁ、イーリカがそんなことを気にするなんて意外だけど……普通にご飯とか残しまくる人だと思ってた。別にそれがどうって訳でもないけどね。
イーリカが焼いてくれた肉を食べる。どうやら焼きすぎてるようで、めちゃくちゃ硬い。これも吐きそうになっていた事の一因ではありそう。吐くよりも先に顎が疲れちゃいそうだな。
別に脂がそこまでキツいわけでもないし、吐く……いや、別にそれはもう良いか。本気で言ってる訳でもないだろうし……いや、でも、そういう行動をするのは意外だな。
食べ終わったので、村を探しに散歩に行くかを開いてみよう。正直俺はお腹いっぱいになった事で行きたくないって気持ちの方が強くなっているけど、イーリカが行くというなら俺も行こう、しょうがないから。
「えっと、探しに行く?」
「行こー」
「おっけー……行こう」
「嫌?」
「別に、そんなことはないですけどね。ははは……」
「先に私だけ行ってこようか?」
「いやいやいや、俺も着いていきます」
二人でマーチの近くを歩き回る。とりあえずの目標は、あのコリとよく会った、つっても二回しか会ってないけど、広場に行くことかな。もしかしたらそれだけでコリに会えるかもしれない。
「ここかな?」
「ん? どうしたの?」
「ちょっとここで休憩しよう」
「なんで?」
「いや、ここは良く村の人が通るから。誰かが通ったらその人に聞いたりとかして」
「へぇ。そういえば私が前にコリに会ったのもここだよ」
「あ、やっぱりそうなんだ。じゃあ、ここで待ってれば会えるのかもね」
「ふーん。待つのか」
「退屈? イーリカは散歩する?」
「いや、別に」
「そう。なら待とうか」
それからしばらく待っていると、予想した通り、コリさんがここにやってきた。やっぱりなんか変だな……どう考えても俺たちに用があるというか、意味ありげだ。
「こんにちは……」
「よ。それじゃあ着いてきてよ」
「え? どういうことですか?」
「ははは。レイに会いたいんでしょ? なら着いてきて」
「あ……知ってるんですね……」
「うん。だってレイに聞いたし」
「そうですかぁ……まぁ、イーリカも行くよね?」
「うん」
「じゃあ、コッチね。別にそんなに歩かないからさ」
レイ?ってレインの聞き間違いか? いや、レインがレイの聞き間違いなのか? まぁ、別にどっちでも良いか。
そんなに歩かないと言われても、高い山が目的地ならめちゃくちゃ歩く事になるだろう。だってこの辺りには森ばっかりで、高い山に行くとなると距離的にどう考えても歩く事になる。とか思っていると、いきなり、本当にいきなり霧の中に俺たちは入り込んでいった。
不思議に思いながら、周りが何も見えない状態でも、コリになんとか着いて行くとそこには高い山があってビックリした。
「え! こんなところに山なんて……」
「まぁ、賢者だからね。ここからは、魔法で運んでくれるってさ」
「はぁ……ありがとうございます」
「俺はここで」
「あ、あの、コリさんは、何者なんですか?」
「俺? 俺はレイに作られた人間。だから、別にほら」
そう言ってコリさんは、俺が背負ってた剣を抜き取り、自分の腹に刺した。
「え!?」
「全然大丈夫そうでしょ? 俺はそういうのないからさ」
お腹に刺さった剣からは、ボタボタと重たそうな血液が流れ出してる。痛みとかはないのに、ちゃんとそういう機能は付けてるんだ……
なんだか、俺のお腹まで痛くなってきたので視線を逸らしていると、いきなり別の部屋にいた。本当にいきなりで何があったのかは分からなかったし、剣はいつのまにか背中に戻ってきていた。
「元気か?」
「え?」
『おう。元気だぜ』
またまたいきなり知らない声が聞こえてきたかと思うと、スティーがその知らない声に対して応答した。この声の主が賢者なんだろうか?
困惑しながらボケッと突っ立っていると椅子がいきなり出てきたのでそこに座る。
冷静になってきたので、部屋の様子を見回してみた。物が一つもないコンクリートの四角の部屋、扉もない。てか、コンクリートってこれ自分で作ったのかな? この世界にはないだろうし、おそらくそうなんだろうな。
広さはそんなになくて、でも、賢者の姿は見えない。数百年も生きてるってどんな顔してるんだろ?
「それなら良かった。じゃあ、二人はそこで待っててくれ」
『お? 良いのか? アイツもお前と同じだぞ』
「同じ?」
『違う世界から来たんだとよ。そんな奴に会ったことはないだろ』
「なるほど……それは確かになかったかもな」
すると、これまたいきなり目の前に普通の青年が出てきた。てか、普通に洋服着てた。なんか、普通の柄のない黒のTシャツに、ジーパン着てた。
「どっちが?」
『男の方』
「へぇ、どこから来たの?」
「え、えっと、地球から?」
「お。同郷だ。てか、そういえばそれ知ってたな」
「あ、そうなんですね……」
「ごめんね、頭良すぎて」
「ははは……」
賢者は思ったよりも普通の人だった。しかも、俺と同じで地球からこの世界に来たらしい。なんだか、不思議な事もあるんだな……