245 高い山のレインを読む
特にやる事もない日々を過ごしていると、大臣からとある提案をされた。
「暇?」
「そうですね……暇です」
「なら、君が賢者探してみたら? 正確には君とイーリカの二人で」
「え? いきなりどうして?」
「そんな話があったんだよ。おとぎ話ではあるんだけど、賢者に会えるのは護られた人間だけだって話があるの」
「へぇ……それって女神様に護られた人って事なんですかね?」
「おそらくね。詳しく知りたいならその話が書かれた本を渡すからさ。もし暇なら読んでみたら?」
「分かりました……まぁ、読んでみます」
「でも、読まなくても良いよ? ははは!」
「え、まぁ、読みます、読んでみます」
「そう? ははは」
俺が読むというのを見越していたみたいに、大臣は持っていた本を俺に手渡した。それの表紙を見て、そのあと軽く目次を見てみると色々なおとぎ話のオムニバス的な物になっていることが分かった。同じ世界の中ではあるが、毎回異なる登場人物による物語が繰り広げられるという感じ。
「それの三番目の話ね」
「三番目……」
「うん、目次に書いてあるからさ。読み終わったら勝手に探しに行って良いよ? ははは!」
「まぁ、とりあえず読んでみます」
「そうして? はは」
大臣は今日もまた家から出て行った。一体何をしているんだろう? そもそも、この本はこの街にあった物なのか? どこか違う街からパクってきたんじゃないか? カエデさんがいたら一日で色んな街を見て回るなんて余裕だしな。
まぁ、それでもまだ賢者や、大臣の故郷が見つからないってことは、相当遠くに……てか、本当にあるの? 大臣の幻覚とかって可能性も……いやいや、そんなこと考え始めたらもう終わりだ。もうちょい探しても見つからないようだったら、その線を疑っていこう。うん。
俺は大臣から貰った本を開いてみた。目次の三番目には『高い山のレイン』と書かれている。レインって雨? 英語がここでも使われてる感じか。
『レインは宇宙からきた青年でした。彼は彼がいた世界の技術を使って、まだ小さな町と言えるほどの街を発展させたり、巨大なドラゴンを討伐したりなど、この世界の人々と仲良く、上手く生活していました。しかし、その技術を恐れた街の人間は、彼を遠くの山へと追いやってしまったのです。
悲しかったレインですが、街の人達に仕返しをしようとは考えませんでした。なぜから、価値観は人それぞれだし、自分がこの世界にとって異質であることを理解してきたタイミングでの事だったからです。
彼は一人で退屈だったので、とある目標を立てました。それは、『自分が元々居た世界へと戻る事』です。その為に技術で飛行機を作ったり、宇宙へ進出したりしましたが、自分が取り組んでいる仕事があまりにも無謀なように思えてきて、途中で挫折してしまいます』
思ったよりも長いなぁ……ちょっと、もう集中力が切れて……今まではじっくりとちゃんと文章に目を通しながら読んでいたが、ちょっと面倒になってきたな。
うーん……自分なりに要約してみるか。
『挫折した後、人恋しくなったレインは街へ。前回の経験を活かして、今度は技術を使わずに普通の市民として人と接していたが、あまりにも物知りなのと、見た目に変化が見られなかったことで、不思議がられるとともに、自然と街一番の有名人になった。
街の人気者となったレインは、王様と謁見することに。その時に宇宙から見たこの星の姿を、地球儀のような物を使って教えた。
それに感動した王様は、彼に勲章や、報酬を与えようとしたが、権威的なものに興味がなかったレインはそれを断った……』
まてまて、全然まとまってないぞ。まだまだ全然あるぞ? 結局のところ俺は何を調べてるんだっけ? 大臣に何を言われたからこの本を読んでるんだっけ?
……俺なら賢者に会えるかもしれないってことだよな? その理由は、俺が女神様に護られているから、だから、同様に護られているイーリカも会えるみたいな。どっかにそのページないかな?
『それからは、『護られた人間』の気配を感じるまで、会う必要のない人には会うことがないように、誰も来れないような高い山で暮らしていたのでした。一人でも幸せに暮らしていました。終わり』
なるほど……めちゃくちゃ大臣が言ってた通りだ。賢者に会えるのは、護られた人間だけ。
……いや、これ読まなくても良かったんじゃない?
大臣の言ってたことが全てじゃん。賢者は護られた人間だけ会うことに決めたっていう、そんな感じのことは最初から知ってたじゃん。
まぁ、でも、それ以外にも面白そうな部分は結構あったかもな。途中で妖精みたいな文字も見えたし、おそらくスティーに関することもあるのかもしれない。暇があったら読もう。暇だったら。
てか、本を全然読んでなかったせいで、文字に対する耐性がマジで下がってる。もしかしたらこのままだとヤバいかもしれない。まぁ、だからといって勉強する気はないんだけども……前はもっと読めてなかったか? うーん……
不都合な事を考えていた脳を思考停止にしながら、俺は読んでた本を閉じて、外に出た。さて、イーリカは今どこに居るんだ?