238 時計
それからしばらく見ていたが、あまりにも親方はジッと見ているので飽きてしまった。どんなに素晴らしいと思ったものでも飽きることはある。さて、どうしようか。
店の中を見回してみても特に面白いものはない。いや……そんなこともないな。壁に飾ってある剣とかでドラゴン斬ったらどんな感じになるんだろう?って好奇心がちょっと湧いてきた。
(……ここ剣って上手ですか?)
(ん? どういうことだ?)
(あ、あの、壁の剣とかってやっぱりちゃんと作られてますか?)
(あぁ。私が求めるものとは少し違うが……これの方が使いやすいという奴もいるだろうな。ここまで来るともはや好みの問題だ)
(へぇ……)
使ってみたくなっちゃったな。まぁ、質問する前から使ってみたい願望はあったんだけど、親方がここまで絶賛しているのを聞いて、尚更それが出てきた。
でも、正規の方法で手に入れるのって難しいしな。ただ、盗むわけにもいかないし……ていうか、そんなことしたら親方に殺されそう。そういう部分は怖そう……
しばらくすると男性の作業が終わった。すると服をおもむろに脱ぎ出して、鏡で体を確認し始めたのだ。下も脱いでるのだった。完全に裸なのだった。はぁ……ごめんなさい……
(もう行きましょうか……)
(やはり中々の腕前だったな)
(いや、行きましょう……)
(そうだな)
親方はそれをなんでもないように見ている。見ない方が良いんじゃないですか? 知らないけど。
俺は気まずくなったので、急ぎ目に店から出て行く。その後から親方が着いてきた。というか普通に、このタイミングで店に入る人がいたら見られるんじゃね? それとも鍵が掛かってんのかな?
最後の好奇心で、少しだけドアノブを回してみると、普通に感触が軽かったので、このタイミングで誰かが入ってきたら大変なことになるということが分かった。
やっぱり凄い人って変な人が多いのかなぁ……このムキムキの男性にも、大臣や親方の雰囲気を感じながら、街の中の探索に戻った。
メイの探索を続けていて思うのは、この街には鍛治以外にも面白そうなものが、ある意味ハイテクなものが沢山あるということだ。
自転車のようなものに跨って移動している人もたまに見るし、遠くの方には電車……いや、おそらく、機関車みたいな音も聞こえてくる。
そういえば親方が前にここには機械もあるらしいというようなことを言っていたが、それは機関車のことなんだろうか?
どちらにせよ、後で見に行って確認してみたいな。音から予想した物とは全く違う物がそこにはあるかもしれない。
(これからどうするんですか?)
(私は鍛冶屋を見て回ろうと思っている。お前はどうするんだ?)
(俺は……)
俺がここに来た一番の目的は鐘の問題を解決すること。出来なかったとしても、それに向かってなにかしら頑張るというのは目的だ。
そもそも鐘が無くなったことの問題があるのかどうかも調べないといけない。
まぁ、とにかく鐘に関してのことをやらないといけないから、鍛冶屋を見て回るという親方に着いて回るわけにもいかないだろう。
(俺は調べ物です。なので、別行動ですかね?)
(そうか。それなら私の方が一段落ついたら、そっちを手伝うよ)
(ありがとうございます……それじゃ……)
(無事でな)
親方と別れて、一人でこの街を歩いてみる。大きな時計がデカい建物に飾ってあったりと、本当にこの街には技術力があるように思えた。
あれ? そういえば時計を見たことなんてこの世界であったっけな? なんとなくの時間帯で合流みたいなことは良くあったけど、明確に五時、とか六時に集合ね? みたいなことはなかった気がする。
色々とあるもんなんだなぁ……てか、普通に良くないイメージなんだけど、こんなに技術が進んでいるメイがマーチに攻め込んだら余裕で勝てそうだな。
探せば銃みたいなのもあるかもしれないし、作ろうと思えば作れそうだ。
そうなったら剣だ、弓だなんて言ってられない。結局、鉄砲が一番強いでしょ? 良く分かんないけど。
ボンヤリと街を歩きながら、一番大きな建物に入ってみる。今までの感じからして、一番大きな建物には街で一番偉い人が居たりする。
まずはここの様子を見てみよう。まだ、鐘のことは知らないかもしれないし、知っててめちゃくちゃ混乱してるかもしれない。
建物は大きかったが、中身は中々簡素だ。マーチには装飾があったりしたけど、無骨な感じというか……やっぱり効率を重視してたりするのかな?
「はぁ……めんどくせーな」
適当にブラブラと散歩していると誰かの声が聞こえてきた。どうやらなにかをめんどくさがっている様子……もう情報が届いたのかな? それにしては全然驚いた感じがないけど?
この声の主を確かめたところで、メイとマーチに関わることでないかもしれない。ただ……このちょっと乱暴な声の感じとか、場所的なこととかを考えると……面白そうだ。
ちょっと見てみようかな? どうせまだどうしたら良いのか分かってないんだし……
無責任な事を色々と考えながら、この大きな建物の中を歩いた。