232 鐘を無くそう
今日はついにアルファことオルトラさんに、大臣……いや、グレィースとルドリーの二人で会いに行くことになった。
ちなみに大臣にも俺と同じように設定を決めようと話を持ちかけてみたが、めちゃくちゃ笑われて話が流れてしまった。もし、これで変なことを聞かれたらどうするんだ、とか思ってたが、大臣なら上手いこと適当なことを言うんだと思う。うん。
前と同じように扉をノック……いや、待て。そういえば扉の叩き方を大臣に教えてないな。
(あ、ちょっと良いですか?)
(ん? どうしたの?)
(あの、扉をノックする時は……上下上の順番で叩いてください)
(ははは。やって見せてよ)
(じゃあ、こんな感じです)
大臣が分かりやすいようにしながら、扉の上の方と下の方、もう一回上の方を叩いて、オルトラさんが出てくるのを待つ。
大臣はそれをしている俺を見て笑っていた。はぁ……俺もこんなのおかしいって気付いてるんだよ?
「あ、ルドリーさん……そちらの方は?」
「グレィースだ」
「あっはは! よろしくね?」
俺の芝居がかった口調が面白かったのか、大臣がいつもより大きめに笑っている。はぁ……恥ずい。
大臣は軽く頭を下げた後、右手を出してオルトラさんと握手をしようとしていた。随分と大胆だな。
「アルファくん。それじゃあ、中に入れてくれる?」
「もちろんです。シャッターは閉めちゃいますね」
「今日は大事な話があるんだ。絶対に聞かれないように出来る?」
「それなら……それなら、外に出て話した方がいいかもしれません。一度離れますか?」
「そこまでしなくて良いよ。僕たちも素人じゃないからね。それじゃ、入るね?」
慣れた様子でスパイになり切る大臣。もしかしてこれって別に恥ずかしいことじゃない? こんなに堂々とやられると、俺たちのやってることは間違ってないんじゃないかって勘違いしちゃいそう。
中に入り、その後オルトラさんがシャッターを閉める。そうしている間に二人で椅子に座った。
「本題から入るよ? 僕は鐘を壊したいんだ」
「え……そこまでする必要は……」
「あるよ。だってドラゴンって生活に必要な生き物でしょ? それを遠ざけること自体が間違ってるんだよ」
「でも、危ないじゃないですか? ドラゴンも危険です」
「まだ出来てから日が浅くて気付けてないだけで、アレはこの街にとっても無い方が良いよ。はは」
「そんな……」
オルトラさんと大臣のやり取りを黙って聞いていたら、俺たちが随分と大層なことをやろうとしているのが分かった。あんな巨大な鐘をどうやって無くすんだろうか?
「でも、そんなこと不可能です。どうやって退龍鐘を壊すんですか? 壊したとしてもこの街はどうなるんですか? 瓦礫は?」
「柱を森の方に倒すの。そうすれば、鐘はそっちの方向に倒れていくでしょ? その他にも考えてることは沢山あるからね」
「倒した時の衝撃は計り知れないものになるんじゃないですか? それに巻き込まれる人もいるでしょうし……」
「僕たちは上手くやるよ。それとも一生陰の中で生きていく? はは!」
まぁ、大臣だからこういうことを言い出しても別に不思議じゃない。でも、それを俺も手伝うとなると話は別だ。別っていうか、どうやって鐘を倒すの? 街全体ぐらいの大きさなのに。
これだけの規模のことだし、魔法も使いながらやるんだろう。そうなると、オルトラさんの前では話さないはず。
「それじゃ早速計画に移るから。アルファはそのまま待ってくれれば良いよ?」
「待ってる……待ってれば良いんですか?」
「うん。ははは!」
というわけで、特別なことをすることもなくオルトラさんとの話し合いは終わった。
大臣と二人で店の外に出て、その後、街の人間にバレないよう透明になり、街を歩いた。
(鐘を倒すってどういうことですか?)
(別に倒すわけじゃないよ。無くすだけで)
(無くす?)
(そう。だってない方が良いでしょ? はは)
(えー……そもそも出来るんですかね?)
(魔法を使えばすぐだよ。違う?)
まぁ、魔法を使えば被害ゼロでも鐘を無くすは可能かもしれない。特にカエデさんとか親方の力も借りれれば難しいことじゃなさそう。
(はは。君には言ってなかったけど次の目的は決まっちゃってるんだよ。次にやりたい事は決まってる)
(あ、そうだったんですね)
(これも無駄になるわけじゃないからさ? ははは)
(そうですよね。でも……難しいんじゃ?)
(ははは! こんなの簡単に出来るよ)
簡単に出来ちゃうのかな……これを簡単に出来るってなんでも簡単に出来ちゃうじゃん。
(話は後で良い? とりあえず外に出よう)
(あ、分かりました)
(ははは。無駄に魔法使わない方が良いでしょ?)
いつもの場所に移動して、とりあえず透明を解除する。さてさて、大変なことになってしまった。
どうやってやるのかは分からないけど、とにかく大事だ。
(二人が来るまでは待機だね)
(あ、カエデさん達も呼ぶんですね)
(うん。手伝ってもらわないとね? ははは!)
いきなりのことで心がザワザワッとし始めていたが、あんなおかしなスパイごっこを続けるよりは、鐘を無くすって目標の方が楽しいかもしれないな。
そんな想いで二人を待った。