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225 オルトラさんの家

 

 オルトラさんの家の中はめちゃくちゃオシャレだった。薄暗い雰囲気、頭がクラクラするんじゃないかってほど、強い、キツい匂い。

 棚に置かれた照明は灯りを支えるための二つの棒がなぜがグニャグニャしてて、交互に行ったり来たりをしていたり、カーペットが敷いてあったり、他にもオシャレポイントは沢山あったが、なによりも物が整頓されていて、スペースが広く感じる。

 逆に居心地の悪さを感じながら、椅子に座る。


「食事はまだもう少し待っていてください。もうすぐできます」

「助かる」


 知り合ったのって今日だよね? それなのにこんなに良くしてもらえるなんて、ありがたいけど普通に裏があるんじゃないかって疑ってしまう。スパイがどうのこうのもめちゃくちゃ嘘なんじゃないのか? それはコッチか。


「お口に合うかは分かりませんが……」


 そう言いながら持ってきた食事は、不思議な香りがする鶏肉の丸焼きだった。良く分からないけど、スパイスかな? 元の世界でこういう香りの料理はなかった。なんか、良い意味で木屑みたいな匂いがする。良い意味で。

 サラダやスープなども色鮮やかで綺麗だ。この辺りは野菜が沢山取れるのかな?


「それでは、いただきます」

「どうぞ……」


 まずはサラダから食べてみた。その間、オルトラさんはずっとコッチを見ている……正直な話、オルトラさんは美人だし、この家の雰囲気は怪しげだしで、ちょっとヤバい。

 多分、向こうにその気なんてないんだろうけど、ないと思いたいんだけど、とにかく変なことにならないことを祈っておこう。


「美味しいですか?」

「あ、美味しいです。はい……」


 美味しい。けど、ちょっと塩っぱい気がする。サラダなのに塩っぱいっていうのは、中々の塩分好きか?

 まぁ、食文化って様々だからな。何かしら背景があって、濃い味付けになってるんたろう。


「動揺してるんですか」

「いや、そんなことは……」

「私のこと好きですか?」

「え!」

「今日はここに泊まってください。安全ですよ」

「いや……それは……」


 その気があった。向こうにその気があったけど、それに乗るわけにはいかない。だって普通に俺カエデさんがいるし、ここで乗っちゃったら普通にダメだ。うん、頑張って断れ! 俺!

 いや、まだ早とちりって可能性もあるのか? だって泊まるって変な意味じゃないかもしれないし……そんなわけあるか!


(断れるのか?)

「大丈夫」

「大丈夫ってどういうことですか?」

「あ、それは……」

「気を使う必要なんてどこにもないんですよ。誰かに言うわけないじゃないですか。秘密の関係なので」

「いや……」

「私が危ないんですよ? アナタをここに(かくま)うことで、私にもリスクはあるんですよ!? それなのに誰かに知られるようなマネはしないです。もし、仮にアナタに大切な人がいたとしても、大丈夫です。泊まっていってください」

「え……ちょっと……」

「信頼関係ですよね? 私たちに必要なモノって。そのためには共有の秘密を持つことって有効だと思うんです。二人だけの秘密」


 えー、なんでそんなに? 今更だけど、もしかしてオルトラさんってちょっとおかしいんじゃないか? 流石に失礼すぎるかもしれないけど、ちょっとその疑惑が湧いてきてしまった。

 というか、この場はどう乗り切ればいいんだ? そもそも俺にそんな気は全くないからどうしたら良いのか分からん。助けてくれー。


「……ひとまず今日は戻っても良いか」

「まだご飯も残ってますよ」

「食糧は君が使ってくれ。また仲間が来たら頼む」

「ダメです。どうして帰ろうとするんですか?」


 恋人がいるから、そういうのはダメなんだ。てか、そもそも知り合ったばっかりなのに、恋人とかになるなんてダメだ! いや、それは俺にも刺さるからやめとこう。

 怪しげな薄暗い空気の中で、独特の香りが頭の中に充満してくる。もしかしたら、泊まっても良いのでは? うん。


(おいおい。大丈夫なのか?)


 お……危ない危ない。心が揺らぎかけていた。中々良いタイミングで話しかけてくれたな。ルドリーよ。

 てか、ルドリーがいる時点で、二人だけの秘密じゃないじゃん。そう考えると一気に目が覚めてきたな。その考え方だと、居なかったら断ってなかったみたいだな。

 いや! ルドリーがいなくても断ってたはず! 自分を信じよう。うん。


「ごめん! やっぱり帰る! それじゃ!」

「あーー! 待って! 帰るなら言います! 警護に言います!」

「えー……でも……」

(大丈夫だ、コイツは言わない。帰ってしまえ)

「でも……」

「良いんですか? スパイなんですよね? バレたらマズイですよね? だってそんなことが国に知れたら戦争になりますもんね?」

「え……戦争に?」

「はい? 当たり前じゃないですか? 私は、間違いなくアナタがここに来たことを証明してみせます。なので、そうなると戦争ですよ? 良いんですか?」

「オルトラさんはそれで良いの?」

「良いですよ。だって、こんな国嫌いなので」


 そんなこと言わないでよぉ。嫌いな国だからって戦争はマズイでしょ。ここで俺が帰ったら、もしかしたら戦争になるかもしれないって正気か? え? マジか?

 しかも、俺の嘘のせいでそうなるって……流石に「関係ないです」みたいな顔しているわけにもいかなくてなってきた。


「それならもうちょっとだけ話そう……君がこの国を嫌いな理由も含めて」

「それで良いんですよ。ご飯はまだ余ってますよ?」


 オルトラさんの優しそうな笑顔が逆に怖い。こんな状況で笑える人にマトモな人なんて一人もいない。


 いつになったらみんなに連絡出来るんだろうか。出来たとしても、どうやって説明すれば良いんだろうか。

 ひとまずは、目の前の問題に集中するとしましょうか。



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