223 コードネーム
おかしなことになってしまったので、何を言おうか迷っていると、オルトラさんが話しかけてくる。
なんだかめちゃくちゃシリアスな顔をしているけど、明らかに変なことになっている。どうした。
「私がこの国を嫌いだってどうして分かったんですか?」
「ん? それはだなぁ……」
なんだその口調は。雰囲気作りの為に、口調を変えてみてるけど、どうなんでしょうか? そもそもスパイってそんな話し方しないだろ。
てか、どういうこと? 相手の中で勝手にストーリーが進んじゃってて、全然理解できてないんだけど?
「それを知っててここに来たんですよね? だから、本当は言っちゃいけないことまで、話してくれたんですよね?」
「……」
「言えないですか。ただ、知ってます。テストですよね? 私がどんな反応をするのか確かめて、その結果として、協力しても良いと思ったんですよね?」
「……」
黙ることしか出来ない。どうしてこんなことになっているんだ? 呆然としていたが、それでも彼女は話を進めていく。怖い。
「私の書店に並んだ本を見て分かったんですよね? なぜならここにある本はこの国の思想と相反するものも多いから。それに気付いて私に声を掛けてくれたんですよね?」
「そうだ……」
「やっぱり!! やっぱりそうなんですね!?」
「……」
そんなはずないだろう! だって俺はこの辺りの人間じゃないんだし、そもそもこの街に入ったのも初めてだ。
はぁ……こうなったらやることはやっちゃおう。大臣達もこの街に入れるように手配してあげないと。
「仲間たちもこの街に入れたいんだが……大丈夫か?」
「というと?」
「俺……僕だけが街に入ることは簡単だった。ただ、仲間が置いてけぼりなんだ」
「それならどうにかなります。私の知り合いにも同じ思想の友がいるんですが、その方に馬車を借りれば出来ます」
随分と自信満々だけど、本当にそんなんで成功するのかな? そもそも同じ思想の友ってなんだよ。
その友達が俺たちのことを裏切る可能性もあるけど、その時はその時に考えることにしよう。もはや流れに任せるしかない。よく分からない。
「成功するのか?」
「します。何度もシュミレーションをしたことがあるので、大丈夫です」
「……」
都合が良すぎる。だってたまたま入った書店の店主が国に対して謀反的な事を起こそうとしてたなんて、そんなことあり得るのか?
普通に考えたら、あり得ない。だから多分だけど、このまま俺に協力する振りをして、隙をみて捕まえるつもりだ。例えば、寝てる間に縄でグルグル巻きにして、それを警護に引き渡すみたいな。
「それじゃあ、仲間を呼んできても良いか? ちょっと待っててくれ」
「もちろん。あの、コードネームとか……」
「え? コードネーム?」
「はい。ありますよね?」
「……」
そんなんあるわけないだろ。ただ、ここは話を合わせないとめんどくさい。もうアキラがコードネームってことにしちゃおうかな? いや、確か自己紹介しちゃってるな。それならアレにしよう。
「ルドリー」
(おい。我の名前を勝手に使うな)
「コードネームはルドリー……私のことは作戦が完了するまでアルファと呼んでください」
「分かった……アルファ」
「はい!」
おままごとしてるみたいで恥ずかしくなってきた。それでもこれをやることが大臣やみんなにとって一番良いというならば、しょうがないから受け入れよう。でも、こんなことを大臣に知られたら、死ぬほど笑われそう。本当に死ぬんじゃないかって心配になるくらい笑ってきそう。
「それじゃあ、外に行ってくるよ。ははは」
「待ってます……帰ってきてくださいね?」
「もちろんだ……ははは」
書店から出て行こうと扉を開けると、目の前にはシャッターが降りていた。そういえばさっき閉めてたな。
微妙に恥ずかしい気持ちになりながら、オルトラさん……いや、アルファがシャッターを開けてくれるのを待った。はぁ……
「どうぞ。大丈夫ですよね?」
「大丈夫だ」
そう言って俺は外に出て行った。通りに人はそこそこ居て、なんだか見られてる感じがしたので、コソコソと路地裏へと逃げ込む。
早いとこ大臣にこの事を報告してしまいたかったが、少し疲れてる。この後、透明になって街の外へ出ていく事を考えると、先に脱出をした方が良いだろう。おさらばだぜ! こんな街!
○○
頑張って街の外へ出た時にはちょっとクタクタになっていた。ただ、こんな状況でもドラゴンを……アレ?
いつもはこういう時にドラゴンを狩って食べてたんだけど、この辺ってドラゴンいないじゃん。あの変な鐘のせいで近づけなくなってるじゃん。
どうしよう。え、今日ご飯なし? 耐えられないくらいにお腹すいてるんだけど?
「はぁ……ご飯ないわ」
(そうか。居ないからな)
「えー、どうしよ」
(あの変な女に頼んだらどうだ?)
「変な女って……まぁ、それしかないか。それとも適当に草でも食べてみる?」
(セントラルからこれだけ遠いのだ。安全に食べれる物なんて分からないだろう)
「だね。よくよく見てみると知らない草ばっかりだわ」
(早くアルファの元に行ったらどうだ? ルドリー?)
「はぁ……行くぜ。待ってろアルファ」
いつか絶対にボロが出るだろうけど、それまでになんとかして街に入るキッカケを作ろう。ちょっとぐらいは役に立ちたいしな。