213 おひとりでさがして
宿に戻っても大臣はいなかった。
親方にも言われたが、やっぱりお金は持っておいた方が良いはずなので、早いとこ話をしてお金を渡してもらいた……なんかこういう考え方って良くないかも。でも、自分で稼ぐ方法なんてなぁ。
いま大臣が何をやってるのかは知らないけど、何か手伝えることはないかな? 多分、手伝えること自体はないんだろうけど、あったほうが嬉しい物とか、良い物っていうのはあるはず。俺も役に立たないと。
自分の部屋でゆっくりしながら、大臣にテレパシーを送る。いきなりだけど大丈夫かな。
(あー、大臣?)
(ん? どうしたの?)
(今は何を?)
(うーん、情報収集?)
(あの、手伝えることありますか?)
(ないよ? はは!)
(……なら、あの、これが欲しいみたいな物があれば……)
(でも、お金ないよね?)
(まぁ、ないんですけど……魔法とかでなんか……)
(それならカエデくんに頼むよ? だってそっちの方がいいでしょ? ははは)
(……じゃあ、もうなんでも良いので手伝えることありますか? なんでも良いです)
この際もうなんでも良い。みんな忙しいのに自分だけ暇みたいな時間が嫌になってきた。なんでも良いから手伝えることはないでしょうか! 大臣!
(なら、国を探してくれない? 別の国)
(ん? 探す?)
(僕たちはもう少しここでやりたい事があるから、その間にみんなで入れる国を一人で探して来てくれない?)
なるほど。それなら言わなきゃ良かった。
一人で? 一人でかぁ……入れる国を探すって……そんなこと出来るの? 俺に?
大臣とか親方なら出来るだろうけど、俺だよ? えーー、嫌ダァ! テキトーなこと言わなきゃ良かった!
(ははは、嫌そうだね。なら良いよ)
(……やります……探します……)
(そう? ホントに? ははは!)
(探します……探してきます……)
(あっはは! よろしくね!? はは!)
……探そう。どうせやる事ないんだし、それに……自分で言ったことだしな。やるしかないんだ……はぁ……気分が重い、ここまできたら断るわけにもいかないし、もう覚悟を決めて一人で旅に出よう。うん。
……良いこともあるかもしれない。だって普通に考えてここは治安がめちゃくちゃ悪いわけだから、ここよりも良い場所なんて沢山有るはずだし、そもそも俺には女神様がついてくれてるわけだし。
気持ちの問題だ。頑張ろう。マジで。
「はぁ……しまったぁ……」
それでも溜め息は出てしまうのであった。やっぱり断ろうかな? まだ間に合う? まぁ、良いや。とにかくやろう。うん。
でも、まずは何をしたら良いんだろう? 国を探すって当たり前みたいに言ってたけど、中々かなり相当難しいことを任された気がする。
ドラゴンにでも乗って適当に空から地上を眺めてたら見つかるかな? それとも一応本でも読んで調べてからの方が良い? 知り合いもいないので、誰かに聞こうと思っても聞ける人がいない。
街歩いてる人に手当たり次第話しかけてみようかな? まぁ、そんなヤバいことこんな所でやらないけど。
アルミコさんかなぁ。それか、宿屋の店主? 関係が薄すぎて聞きづらい。でも、その人たちぐらいしか居ないかなぁ。
と考えたところで、イーリカがセントラル出身ではないことを思い出した。ただ、イーリカにこの話をしたら面倒なことに……いや、頼れる人は頼らないと俺に他国を探すなんて無理だ。
廊下へ出て、イーリカの部屋を探そうとしたが、考えてみればどの部屋に泊まっているのか知らないので、聞いてみることにした。
あー、あー、イーリカ? あー、あー……まだ寝てるのかな?
(あーあー)
と話しかけていると、いきなり一つの部屋の扉が開く。それをボケーッと見ていると中からイーリカが出てきた。あら、タイミング良いのね。
「呼んだ?」
「あれ? 聞こえてたの?」
「うん。魔法?」
「そう。あ、そっか」
魔法が使えないってことは、テレパシーで会話をすることも出来ないってことか。あぁ……忘れてた。
そっかぁ……俺だけが出来ればいいってわけじゃないんだ。それはちょっと大変かもしれない。もし、迷ったりとかしたら場所分かんないじゃん。
「なに?」
「あの、他国の事って知ってたりする?」
「どういうこと?」
「ここ以外の国の情報。例えば……ていうか、部屋で話さない?」
「別にここで良い」
「そっか。まぁ、じゃあ……例えば、どこに有るのかとか」
「なんで?」
なんで? と聞かれてしまった。これは答えなければいけないのか? 実は一人で他国を探しに行くことになっちゃってって……あ、どうでも良いし、関係ないけど、エラさんに会いたくなってきちゃった。はぁ……また一緒に他国探したいなぁ……あの時も楽しかった。
「まぁ、探すことになったから?」
「へぇ、そうなんだ」
思ったよりも興味がなさそうだ。それはそれで悲しい。私も着いていくって言ってほしかった気持ちはちょっとある。そんなことはどうでも良いんだよ! めんどくさい奴め。
「だから知ってることがあれば教えてくれたりする?」
「普通に道なりに歩いていけばあるよ」
「そっか……そりゃそうだよね」
「行ったことあるけど入れないよ」
「行ったことあるの?」
「うん」
多分フラフラ歩いてたら着いちゃった感じだろうな。想像できる、そういうことをしてるイーリカちゃん。
「まぁ、ありがとう。じゃあ、とりあえずはそうしてみようかな」
「私も途中まで一緒に行こうかな」
「そう? なら出発する時は言うね」
「もう行くんじゃないの? 行こ」
「え、もう行くの?」
「私は行くよ。ほら」
大臣も急だし、イーリカも急だ。
俺の周りにそういう人が多いのは、俺が何にも決められない優柔不断なタイプだからだろうな。そんな気がする。
前を歩いていくイーリカの横に並び、街の外へ出た。まぁ、別に準備するようなことなんてない、お金もないし。
ドラゴンに乗ろうかとも考えたが、暇なので歩いていくことにした。あぁ、他国探すぞーー。