211 襲撃
「起きて? はは」
「……んん?え……」
「ほら起きないと死んじゃうよ?」
「えー……ちょっと……今何時ですか?」
「知らない。でも、夜中だよ」
女神様じゃなくて大臣の夢を見てるのか? それにしては現実感があるような……まぁ、夢じゃないんだろうな。
しばらく状況が飲み込めていなかったが、なんとか身体を起こして周りを見てみると真っ暗だ。そしてカエデさんとイーリカもいた。なにごと?
「なんですか?」
「僕たちを殺そうとしてる人達がいるんだってさ? ははは!」
「はぁ? 本気ですか?」
「うん。スティーが言ってたよ」
「……えーー、なにそれーー」
やっぱりめちゃくちゃ治安悪いじゃねーか!
こんな街で長居しなくちゃいけないだなんて……でも、これをきっかけにまた野宿生活に戻るのも嫌だなぁ。割り切らないといけない感じかもしれない。はぁ……大変だ。
「どうするんですか?」
「捕まえよう。そしたら話し合いもできるでしょ? はは!」
「捕まえる? 大丈夫……ではあるか」
「作戦とかないから。それぞれ頑張ってね?」
「あ、もう行くんですか?」
「また後でね? ははは!」
大臣が一階に降りていくのを、部屋の入り口から見てた。その手には剣を持っていたけど、大丈夫か? 相手が。
流石に殺しちゃったらマズイだろうから……でも、正当防衛だよね? いや、とにかく今は俺も外に出よう。頑張ろう。
「イーリカはカエデさんと一緒に居て」
「なんで?」
「……まぁ、じゃあ、行く?」
「見に行くよ。面白そうだし」
「そっか。なら一緒に行こう」
「私も良いですか?」
「もちろん」
というわけで大臣は一人で行っちゃったけど、俺たちは三人で戦うことになった。負けることはないな。万が一、相手を殺しちゃったらっていうのだけが心配だ。それが現実的に考えられる一番悪いケース。
宿屋の外に出ていってみたが、あんまり人はいない。多くの人が自分の家で睡眠中であろう街の中で、本当に俺たちを殺そうとしている人がいるのだろうか?
そもそも殺しにきてるって人数は? それによって全く話が変わってくるような。
「どこにいるのかな?」
「こっちですかね」
「え? こっち?」
「隠れてる人達がいます。大臣さんもそこに……」
「なるほど……それならそっちに行こう。あ、ちなみに何人ぐらい居るかは分かる?」
「月、綺麗だね。動いてる」
「え?……あ、あの、六人です」
「六人も居るんだ」
集団で襲いかかってくるつもりだったのか。大臣なんかした? なんでこの街に来ていきなり謎の六人に殺されそうにならないといけないんだ。
大臣を助ける為、カエデさんに着いていった先には縄でグルグル巻きにされた人達が居た。早い。魔法でも使ったんでしょうか?
「おい! そこの誰か! 助けてくれ! このクソ野郎に襲われたんだ!」
「ははは! 思ったより手間取らなかったよ。これなら一人で良かったね? はは!」
「クソッ……知り合いかよ!」
「お疲れ様です。えっと、これからどうするんですか?」
「一通り質問したら返してあげる。殺すのは無理だって、君たちも分かったでしょ?」
「……なんだよ、質問って」
「それは後のお楽しみ。時間はいくらでもあるからさ」
これは朝までですね。朝まで大臣に付き合うことになる。なんて不幸な人達なんだ。
「もう少しマシな場所は無い? それが一番最初の質問」
「ねーよ! そんなのねー」
「なら今夜はここだね。君たちの事を思って言ってあげてるんだけど?」
「……あの、俺たちはもう帰って良いですか?」
「え、大臣さん一人で大丈夫なんですか?」
「でも、多分長くなるよ。朝まで終わらないかもしれないし」
「は!? 朝まで!?」
「それぐらいはかかるかも? はは」
「助けてくれーーー! 誰かー!」
可哀想ではあるけど、これぐらいの罰は受けてもらわないと。俺たちだから良かったけど、普通の人だったら普通に死んでるからな。六人も居たら。
さてさて、俺たちは眠るとしよう。てか、普通に大臣は眠くないの? マジでもう寝てるんじゃないかってぐらい俺は眠いんだけど。
「じゃあ、また明日」
「……私も残ります。目が覚めちゃったので」
「え? カエデさんも」
「はい」
「なるほど…………いや、やっぱり俺は寝よう。眠すぎる」
「分かりました。それではおやすみなさい」
「おやすみ?」
本当は残った方が良いんだろうけど、そんなこと言ってられないくらいに眠い。こういうの苦手なんだ。睡魔には勝てない。
宿屋に帰ろうと歩いてみたが、まさかのイーリカもここに居るつもりのようだ。大臣とカエデさんは分かるけど、君は一体何の為にここに居るんだい?
理由は分からない。だが、これは、帰っちゃダメという無言の圧力を感じる……
……意味ない! 俺が居ても意味ないし眠ろう! 明日の予定も特にないけど、先に一人で眠ることにしよう! だって、このまま行くと朝までずっと起きることになるでしょ? 絶対そうでしょ?
少し足が動くのに時間はかかったが、どうにかまた歩き出す事が出来た。はぁ……本当に帰って良いの?
その疑問でまた足が止まる。今からならまだ間に合う。いや、間に合わないだろ。
(何してるんだ?)
「寝よう……」
ルドリーの一言で踏ん切りがついた。
こんな真夜中にまで、人の気を遣って生きる必要はない。
……本当は俺もあそこに居た方が良いんだろうなぁ……
分かってはいたが、どうしても眠りたかったので、寝てしまった。だからやりたい事が見つからないんだよ。