20 さんぽーさんぽー
「久しぶりだよね? 二人で歩くの」
賑やかな街の片隅、家と家の影になっている暗い場所で並んで歩いた。
「もう生活にはちょっと慣れてきましたけど、やっぱり街の人の多さにはまだ慣れません」
「不思議だよね? あんなに多くの人がいつでもいるんだからさ」
道を進んでいるとちょうどいい木のベンチがあったので腰掛ける。
近くに噴水があるせいかひんやりと涼しかった。そういえばここって四季とかあるのかな? 後で親方に聞いてみようかな。
「疲れてませんか?……最初に会った時よりやつれてるような気がして……」
「うーん。ちょっとは疲れてるけどもう少し経てば大丈夫なはず。慣れだよ慣れ!」
今までハードスケジュールだったからな。
まだこの街のこともよく知らないし、仕事が落ち着いてきたらまたこんな風にゆっくりしたい。
「長い休みがもらえたら二人でおばあちゃん達に会いに行きたいね?」
「そうですね……でも、忙しいみたいだし、それに……良いんですか?……街に比べると退屈かもしれないです」
ベンチに座りながら俯いてそう言った。俺からしたらこの街もあの村も素敵な場所だ。それにおばあちゃんに会いに行きたい気持ちは心のどこかでずっと残っていた。
「うーん……俺にとっては全部が新鮮だし、全部が楽しいよ? もちろん大変なこともあるけどさ……でも! あの村で嫌だなぁとか思ったことは一度も無いし、ホントに心の底からお世話になったって思ってて……」
言葉にまとめるのが難しいな……
「そろそろ帰りますか? ミリアさんもきっと待ってると思いますし……」
「そうだね……うーん……」
どうしてこんな暗い雰囲気になってるんだ! そんなつもりは一ミリもなかったのに!
「わたし……最近、色んなことが変わりすぎてて……びっくりしちゃってるんです」
カエデさんは俯いたまま静かに喋り出した。
「ずっとこの村で生きていくのかなぁって思ってたんです。でも、心のどこかで外に出たいって気持ちもあって……」
「ホントの事言うと毎日が退屈でした。ドラゴンを倒して、ご飯食べて、村のみなさんのとかお手伝いして……」
大事な話になってきた。ちゃんと聞かないとと思うと、ベンチにペタッとついていた背中が自然に浮いた。
「楽しかったんですよ? でもそれだけで私の人生終わっちゃうのかなってずっと思ってて」
「そんな時にあなたと会えたんです。アキラさん」
名前を呼ぶのと一緒にこちらに目を合わせる。大きな目といきなり視線が合って動揺してしまった。
うーん……ちょっと心臓が痛くなってきたぞ……ドキドキしすぎかな?
「その……まだ、会ったばっかりなのに、一緒に生活とか、おかしいですかね?……私は、運命だと思って……その……自分だけの考えで暮らす事に決めちゃったんですけど……おかしいですかね?」
村でなんか言われたのかな。てか、冷静に考えたら合ったばかりの人と同棲なんて反対じゃなかったとしても何か言うよな……俺も舞い上がりすぎてたのかも……
「うーん……確かに今思えば、ちょっとおかしいかも……いや! あの、でも! 良かったと思ってるよ! 絶対に間違いじゃないと思ってるし、うん!」
「……そうですよね……おかしいですよね」
すげぇ落ち込んじゃった……うん。やっぱりちゃんと二人で話させて良かった。
そうじゃないとカエデさんがこの思いを抱えたままこの街で生活する事になってたんだ。
「おかしくても一緒に頑張ろうよ! だってさ……そもそも異世界から来たって普通じゃないじゃん? だから、おかしいけど……でも、それで幸せになれそうならそっちに向かって行った方が良いと思う……よ?」
知ったような口で色々と偉そうに言っているが結局のところ俺もどうすればいいのか分からない。でも、今はそんなことよりもこの街でもっと色んなことを知りたいし、カエデさんともっと明るい話がしたい。
そういえばこの街も観光もいつかしてもらおう。楽しみはいっぱいある。それに比べたら少しのおかしなところなんてどうでもいいはずだ。
「もう戻ろっか? 帰りにちょっと寄り道とかする?」
「そうですね……ちょっと、歩きたいです」
まだ悩んでいる様子だ。どうしたらその悩みを解決できるのか分からない。そもそも、カエデさんは俺と一緒に居て幸せなのかな?
寄り道をしている時、街の催し物が目に入ったので二人で寄ってみる事にした。
自分で投げたリンゴが宙に浮かんでいる間に弓矢で射抜くという曲芸のようなショーだ。
二人してじっと宙に浮かんだリンゴを眺めていると、飛んできた鳥がそのリンゴを口に加えてどこかに飛んで行ってしまった。
慌てた曲芸師が弓矢から手を離すと、今度は芸に使っていたリンゴの山に矢が当たって、ガラガラと崩れ出す。
観客がみんなでリンゴを拾い、また元の場所にリンゴの山を作った。
「大変そうだね?」
「ふふ。でも、面白かったかも……」
クスクスと笑うカエデさん。失礼だと思っているせいか顔を隠したり、声を上げないように必死になっていた。
「面白かったね」
コインを曲芸師のカバンの中に投げ入れ、その場を去る。
しばらく歩いているとカエデさんが大きな声で笑い始めた。
「どうしたの!?」
「ははは! お、思い出しちゃって……ごめんなさい!」
「あぁー、確かに今思うとすごい面白かったね! 俺も笑えてきちゃった。はは!」
なんか分かんないけど雰囲気がすごく明るくなった。これで明日からも仕事を頑張れそうな気がした。
「ん? お前たちどうしてそんなに笑ってるんだ? 何かあったのか?」
「いや……はは! べ、別にたいした事じゃないんです! ははは!!」
すっかりツボに入ってしまったカエデさんは鍛冶屋に居る間も不意に笑っていた。
親方は不審そうに見ていたが、俺はそれを見て安心した。
どうにかやっていけそうだな。きっと上手くいくはずた。
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