204 ヤバい人だね
そろそろみんなが帰ってくるだろうと思ったので、軽く食事の支度を始める。食器やら調理器具も作ったので、そこそこちゃんとしたものが作れるぞ。まぁ、食材はドラゴンぐらいしかないんだけど。
「帰ってきたよ? はは」
「あ、おかえりなさい」
みんなが帰ってきたので、早速夕食の支度を始める。そういえば、みんなお昼ご飯とかはどうしてんだろ?結局、ドラゴンなんだろうなぁ。なんて単調な生活なんだ。
夕食の終わりか、その途中にイーリカちゃんについての話を済ませておきたいんだけど、中々帰ってこないなぁ。本人もいた方が話が早くて良いんだけど、まだかな?
「今日はどんなことを?」
「もう出発することになったよ。ははは」
「え、ダメだったんですか? 中に入るのは?」
「僕たちでも入れそうな国が見つかったからね。治安は悪いらしいけどさ? ははは!」
「治安が悪い……なるほど……」
「僕たちなら問題ないと思うよ?」
「まぁ、たしかに……」
治安が悪いって、なんともタイミングが悪いというか……たしかに俺たちだけだったらそんなに問題はないんだけど、イーリカちゃんが居るからな。まぁ、その子も問題ないって言うんだろうけど。
「あの、ちょっと良いですか?」
「どうした?」
「ちょっと……みんなが居ない間にちょっと、いろんな事があって……」
「……なにかあったんですか?」
「うーん、ちょっと説明が難しいんですけど……」
あまりにも帰りが遅いので、本当に着いてくるのか不安になってきていたが、これをこのまま自分だけが抱えているというのも辛いので、ひとまずはみんなに事情を説明してみた。
みんなは思ったよりも動揺とかしてないみたいで、着いてきたいなら着いてくれば良いっていうスタンスでいるらしい。良いのか?
カエデさんは心配している感じだったけど、それが普通だよね?
「まぁ、そんな感じです」
「それなら魔法とかもちゃんと教えてあげた方が良さそうだね? 今日は帰ってくるんでしょ?」
「多分……」
「ここに来なかったら勝手に出発すれば良いしね? それに、特別な子なら役割もあるかもしれないしさ」
「特別ではありますね」
「どうせここに戻ってくることもないだろう。それに、私たちの存在は殆どの人間が知らない。勝手に連れて行っても問題はないな」
「そうなんですね?」
「本人の意思なんだろ。それも死が決まっている人間の意思だ。尊重した方が良い」
なんか、俺もそんな気がしてきた。自分の意思がないみたいでアレだけど、たしかに死ぬのが決まってるならそういう冒険的な、ていうか、冒険をしても良いのかもしれない。帰ってきたらちゃんとオッケーしようかな。
それからご飯も終わり、ついでに明日出発することも分かり、ゆっくりとイーリカちゃんを待っていると、やっと帰ってきた。女神様が居るってことでそんなに心配はしてなかったけど、流石に帰りが遅いような。
一人で暮らしてるっていうのを少し信じてなかった部分があるけど、こんなに自由な行動が出来るってことは、本当に一人暮らしなんだろう。もうそういう事で話を進めよう。
「おかえり」
「……」
「えっと、着いてきて良いって。一緒に行こ」
「……」
「……あ、この人がおやか……ミリアさんで、あの人がカエデさん。で……」
名前が分からないと警戒して話さないからみんなの名前を教えようとしたが、あれ? 大臣の本名ってなんだっけ?ってなってしまった。
確か、ちょっと変わった名前なんだよなぁ。うーん……でも、「名前が分からないので教えてください」なんて言うのは流石に気が引ける。それは難しいやつだ。
「あっははは! 僕はスューリ。よろしくね? はは」
「うん。イーリカ」
「名前は聞いたよ。よろしくね、イーリカ」
「よろしく」
大臣はめちゃくちゃ笑いながら自己紹介をした。その途中にめちゃくちゃ俺と目が合った。名前を忘れていたのがバレてるぞ。しかも、それなのに笑ってるってコワ。
覚えておいた方が良いな。笑ってるけど実は俺を恨んでいるのかもしれない。大臣を敵に回さない方が良いのは間違いないからな。
「ついてきなよ。みんなも一緒に冒険したいってさ? ははは!」
「どっちにしろついて行ってたけどね」
「はは! 面白い人だね」
「スューリはヤバい人だね」
「あ、ちょっと……」
「はははは! はは! その通りだよ! はは!」
過去一で笑ってる。怖いよこの人。
まぁ、よく分からんけど波長が合ってるんだろう。そういえば、イーリカちゃんの無理やりでも自分のやりたいことを進める感じは大臣にそっくりだし、意外と仲良くなるのかもしれない。
ただ、こんなこと思うのは失礼だけど、大臣が人と仲良くするなんて出来るんだろうか?……まぁ、俺は仲が良いつもりではあるんだけど、向こうはどう思ってるんでしょうか?
「明日だから。明日でも良いんでしょ?」
「良いよ。どうせ死ぬんだし」
「ははは! そうだよね。どうせ死ぬんだから良いよね?」
「うん。それに女神様も居るから」
「はは。それは良かったね」
やっぱり変わってる人は変わってる人同士じゃないと仲良く出来ないのかもしれない。てか、めちゃくちゃ失礼なことばっかり考えてないか?
その日は早めに寝ることになった。なぜなら明日出発だからだ。早い。