193 不愉快はショック
少し話した後、広場の入り口からテーブルや椅子がある場所まで移動する。
果たして王子様をこんな場所で迎え入れて良いのだろうか? まぁ、別にもう関係ないからいいんだけど。
「どうして魔法を黙っていたのでしょうか? 私たちにも話さないというのは失礼じゃありません?」
「すみません……」
「僕たちも魔法がどんなものか良く分かってなかったからね。そこはむしろ王子様を思ってのことだったと思うよ?」
「アナタも知っていらしたんですよね?」
「うん。そんな話をしに来たの?」
「いや、違うね。もっと大事なこと!」
王子様は俺たちに大事な話があって来てくれたらしい。この様子だと単にお別れを言いに来たわけでもないみたいだしな。
となるとなんだろう? 他国の様子を知らせてくれ、みたいなことか?
「俺が……王になった時。その時はお前たちを重要な役職として迎え入れたい。だから、ちゃんと帰って来てくれ」
「ははは。そんな話?」
「今は難しいかもしれないが、いつかは戻ってきて欲しい。それを直接言いに来た。頼む!」
そう言って立ち上がり、深々と頭を下げられた。いや、こんなにちゃんと……言われると……
「フレイデル様。私たちに頭を下げるなんて……」
「ここでは様なんて付けなくていいよ。名前で呼んでくれ!」
「なら、フレイデルくん。ここを僕たちが住めるようにしておいてね? 分かった?」
「分かった! それなら……あんまりすぐには帰ってこないでくれよ? あっはは!」
「フレイデル様。もう少しお控えください」
「済まないな。楽しくなっちゃってさ」
どんだけ大人になってるんだよ。やっぱりこういう風に振る舞うための教育を受けているんだろうか? それとも本人の素質?
良く分からんけど、戻ってくる場所はどうやら作ってくれるらしい。俺もそのことまではちゃんと考えてなかったかも。
「元気そうで良かったです。フレイデル……さん」
「……オレもカエデの顔が見れて良かったよ。それじゃ、戻ろう」
「あまり長居すると気付かれてしまうかもしれませんしね」
「なら、君たちで送って来てあげなよ。フレイデルは魔法で空飛んだことある?」
「ない! まだ魔法はこれぐらいしか出来ないな」
フレイデルくんはマリアさんの足に手を当てると、ゆっくりとさすった。
どうやらここまでの疲れとか、歳特有の痛みとかをとってあげてるみたいだ。なんか、優しい子だね。良い子だ……
「どう? 楽になった?」
「ありがとうございます。疲れが取れました」
「へぇ。もう覚えたんだね」
「こんな状況でも、魔法っていう希望の光があるお陰でみんな明るいよ。だから、スューリにも感謝だな」
「僕が魔法を教えてあげたことは絶対に忘れないでね? はは!」
「忘れないよ。絶対」
「そろそろ良いでしょうか? 送っていただけますか?」
「あ、はい」
というわけで俺とカエデさんの二人で王子様とマリアさんを送ることになった。でも、空中を浮かぶってちょっと怖くないかな。そういうのを楽しいって思ってくれる子であることを祈ろう。
「じゃあ、浮かせちゃっても……」
「あぁ! よろしく!」
出来るだけ怖くないように、ゆっくり、ゆっくり、と地上から空中に浮かせていく。
「うぉ! 足が宙に!」
「だ、ホントに、大丈夫なんですか!?」
「安心してください! 私たちを信じて?」
「スゴイ! 浮かんでる!」
王子様は楽しいと思ってくれてるみたいだけど、マリアさんはこの世の終わりみたいな顔で、離れていく地面を見ている。慣れないと怖いよな。普通は。
空を飛んでいる間は、王子様とカエデさんが親しそうに話をしていた。やっぱり二人での方が話しやすいんだろうな。
乳母さんと俺は、お互いに話しかけようかな?って考えているのかもなぁ、と察せるぐらいの空気になっていた。
「……」
「カエデさんのことは頼みましたよ」
「あ、はい」
「良い子ですから」
「あ、そうですよね……」
「フレイデル様もそのことを心配してらっしゃいます。表にはあまり出しませんけれどね」
「そうなんですね」
「もうちょっと、しっかりして欲しいですけどね。私は」
「え?」
「アナタですよ」
またかぁ。最近それを言われることが多すぎて、メンタルが……いや、なんか慣れてきちゃってる自分もいる。
そんなにしっかりしてないかな? そこまで絶望的にダメってわけでもないと思うんだけど……なぜ?
「そろそろ降ろしてください。近すぎると見つかってしまうので」
「あ、分かりました」
「その癖直しなさい」
「え? 癖」
「あ、とか。え、とか。そういう事を頭に付けてから喋るのはやめなさい」
「……はい。すみません……」
「アナタはそれが目につきます。不愉快です」
いや、なんだ! いきなりスゴイキツいこと言われたけど……慣れたとかさっき思ってたけど、普通に心の底からショック……モヤモヤしてるわ。胸の中が……
良い人かと思ったら、悪い人か? カエデさんも多分、色々言われて大変だったんだろうなぁ。
最後はそんな感じのことを思いながら、二人を地上へと降ろす。もうちょっと良いお別れにしたかったような気もする。
「じゃ! 待ってるよ!」
「ありがとうございます!」
森の中へと消えて行く二人。最後まで頭を下げ続けるカエデさんにならって、俺もずっと頭を下げ続けていた。
「ふぅ……おつかれさま」
「会えて良かったです。本当に」
「でも、大変だったんじゃない? マリアさんって結構キツイっぽいし」
「確かに少し悲しくなることもありましたけど、でも、素敵な人なんですよ?」
「そう?」
「マリアさんは、人のことを考えてる人だと思います」
「そっかぁ……」
それを否定するわけにもいかないので、「そう?」って言葉は飲み込んだ。
まぁ、こんな短い付き合いの俺よりも、カエデさんの方が詳しいだろうし、おそらく良い人なんだろう。多分。
帰りに空を飛びながら、もしかしたらカエデさんは人に良い悪いを付けない人なのかもしれないな。と思った。