186 アヤカとハヤトとアキラ
親方とカエデさんは未だに寝てた。
勢いで来たはいいけど、そもそも二人は着いてくるのか? てか、カエデさんが来ないって言ったら、俺もここで生活することになるけど……いや、考えるな! 大丈夫……
「どうするんですか? 寝てますけど」
「良いんじゃない? このままで。起きたら出発しようよ」
「……その間、俺たちは?……」
「隠れてれば良いじゃん。それに、まだここでやる事もあるでしょ?」
「まぁ、確かに」
隠れるのか、どこに隠れるのかは分からないけど、魔法さえ使えばなんとでもなりそう。てか、魔法といえばアレだよ。みんなに教えちゃったけど大丈夫なのか?
「あの、みんなに魔法、教えて良かったんですか?」
「良いよ。だっていつかは気付くでしょ?」
「大変なことになったり……」
「魔法使った方が早くない? はは」
なんで今までこんなことで悩んでたんだろ。普通に魔法を教えても良かったんだ。
そうだよな。いつかは必ず魔法もバレるだろうし、そんなこと言ってられない状況になってるし。
うーん……わざわざ俺たちだけでどうこうする必要もなかったのか。
「ちょっと……これからどうしましょう?」
「ははは。僕もやる事があるからさ。君は寝てたら?」
「手伝いますよ」
「いや、大丈夫。はは」
「あ、なら、頑張ってください」
大臣は一人で外に出て行く。手伝わなくても良いって言うのはどうしてだろうか? 手伝いたかったのに。
うーん。それならちょっとみんなに連絡するか。特にハヤトとアヤカはいきなりで良く分かってないだろうし。
あーあー、ハヤト……アヤカ……
(あれ? アキラくん?)
(お、繋がった)
(え? これハヤトも聞こえてるの?)
(聞こえてるよ? 三人で話せるんだ……)
(あの、いきなりだけどさ、ごめん……ここから出ることになっちゃった……)
(うん……なんとなく知ってる。僕も驚いたよ)
(私も驚いたんだから。もう居ないの?)
(いや、まだ近くにいる。死体置き場のとこ)
(……ちょっと会いに行っても良い? せめて挨拶ぐらいさせてよ)
(良いと思う……いや、良いよ。きて)
二人を呼んで三人での話し合い。
この二人なら信頼できるし、説明する責任みたいなのもある。本当はアイラとか、エラさんとか、村のみんなとか出来るだけ多くの人と話し合いたいんだけど、それは無理だから。
待っていると、建物の扉がコンコンッとノックされる。どうやら二人とも着いたみたいだ。
「あ、いらっしゃい」
「アキラくん……」
「まぁ、入ってよ。いや、外で話せる?」
「良いよ。ハヤトは?」
「僕も大丈夫」
まだ親方もカエデさんも寝ているからな。
外に出て、適当な場所に椅子を作る。地べたに座るわけにもいかないだろうし。
「ホント?」
「うん」
「そうするしかないの?」
「まぁ、今はね」
「それは、アキラくんも望んでるんだよね?」
「……どうだろ」
「え?……」
望んでいるのかはハッキリ言って分からない。
ただ、大臣を殺すくらいなら、間違いなくここを出て行った方が良いっていうのは確かだ。てか、心配させないように、「はい」って言っておけば良かったわ。
「それならここに居たら良いじゃん。無理なの?」
「いや、望んでるかも……はは」
「……僕は、僕はハッキリいうと、ここに居て欲しい。それが無理なら一緒に行きたい」
「私も」
「大変だよ?」
「良いよ。だって……もう会えないかもしれないんでしょ?……」
ハヤトの目がいきなりウルウルし出した。いやぁ、泣かせるつもりとかは全くなかったのに……
うーん。どうしよ、泣いちゃった。本格的にどうしたら良いのか分からなくなってきたな。元々良く分かってないけど。
さっきはあんなに晴れやかな気持ちだったのになぁ……
「会えるよ」
「でも、またドラゴンと戦うんでしょ? どうせ」
「戦うけど、また会えるよ。死なないようにするから」
「アンタさ、もっとちゃんと考えないと。みんな心配するよ」
「俺は、多分、大丈夫だと思う。いや、大丈夫」
「「……」」
実際は分からん。でも、大丈夫な気がしてるのは本当。なんでだろ? そんなわけないのに。
「心配しなくて良いよ。って言ってもするか……」
「アキラくんは……アキラくんは、それで良いかもだけどさ……」
「私たちは心配だよ。だって意味分かんないし」
「ははは……」
俺も良く分かんないって言おうとしたけど、これ以上失言を重ねるわけにはいかない。どうしたら、心配しないでくれるか……いや、心配してくれるってありがたいな。
「心配してくれてありがとう。でも、俺は行くことになったからさ」
「またお別れ? もう嫌だよ」
「また?」
「アキラが死んだ時、私たちホントに辛かったし、悲しかったんだけど。ねぇ、分かってる?」
ハヤトだけじゃなくて、アヤカも泣き出してしまった。いや、なんか俺も泣きたくなってきちゃったよ。でも、流石にそれはしちゃいけない気がする。
覚悟なんて決まってるわけないけど、決まってるフリしないと。だって、俺が悪いんだし。
「大丈夫」
「……」
「大丈夫だから……」
「アキラは」
「……え?」
「お前が決めたんなら、それで良かったよ! でも、そうじゃないんでしょ!?」
「……」
「なんでそんな大事なことも自分で決められないの!? アンタの人生でしょ!?」
「いや……」
「そんなにあの人のこと信頼してんの? それならちゃんと最初からしっかりしろ!」
「……はい」
感情を剥き出しにしたアヤカにそう言われて、涙が出てきた……はぁ……その通りです。ホントに。
「……こめん! でも、着いていきたいのはホント! それだけは信じて。ぶっちゃけ死ぬかもしれないけど、俺も他国行きたい」
「……アキラくん」
「それはなんでよ」
「うーん。面白いから?」
予想外なことを口にして焦る。いや、こんな理由で出て行くのダメだろ。
「正気?」
「じゃないかも……いや、正気です」
「うん。分かった」
ハヤトは涙が引っ込んだ顔で、俺の目を見た。
「帰ってくる。それは約束してね」
「約束する。帰ってくるよ」
「はぁ……私たちも頑張って、大きな街にする。その時は案内してあげるから」
「ありがとう」
なんとか話がまとまったみたいだ。もしかしたら呆れられてるのかもしれないけど、二人に直接話せたから、まぁ、あんまり後悔みたいなのはないかもな。
「戻るね。あの、出発する時は僕らにも教えてよ?」
「うん」
「アキラなら大丈夫だよ。色々言ったけど」
「ありがとう。じゃあ、また」
「うん、またね」
二人と別れた。
いやぁ……なんか今になってもっと涙が出てきちゃうな。ホントにお別れかもしれない。
うーん……でも、決めたんだし、やるしかないな。
もしかしたら覚悟が出来てきたのかもしれない。もっと曖昧な人間だと思ってた。