184 思い出
家を魔法で建てる作業が暗くなったことで終わり、三人とも家の中に入っていく。
明らかに昨日よりは楽だった、それでも十分疲れたけど。
「はぁー、疲れたぁ……」
「疲れたねー。もう眠たい」
「そうだね。僕も寝ちゃおうかな……アキラくんも寝ちゃう?」
「ん? いや、ちょっと外に行くかも」
「昨日もそうだったよね? どこに?」
「いやぁ……」
なんとなーくカエデさんのところに行くって報告しづらい。今日もからかわれるようなことがあったし、でも、そんなこと隠しててもしょうがないか。
「カエデさんのとこ。親方も寝てるし」
「そっか……まだ起きてないんだよね?」
「うん。いやぁ……これって思ったより心配だね。いつも待たせてたけどさ」
「そうだよ? 僕の気持ちも分かってくれた?」
「はは。いつもありがとう」
「私も心配してたんだけど?」
「アヤカもありがとう……て、なにこれ? もう行くよ? 俺」
「うん。いってらっしゃい」
「じゃ、おやすみ。私は寝ます」
「いってきまーす」
また昨日と同じようにカエデさんと親方の寝ている場所にドラゴンに乗って向かった。
空から見てみると、俺たちが作った家が沢山見える。中々頑張ってるんじゃない?
二人のいる家の扉を開ける。
やっぱり中で寝ていた。いやぁ、本当に大丈夫なのか? それに、まだフーマさんは見つかってないのかな。もしかして……うーん……
それからしばらくここに居たが、ずっと居てもしょうがないので、元の場所に戻る。はぁ……いつまで起きないんだろ。早くしてくれー。
心配を抱えながら、戻ってきました。
家に入り、寝るために横になろうとすると、頭の中に声が聞こえてきたので、立ったまま応答する。ん、大臣?
(起きてる?)
(あ、はい。起きてます)
(実は、僕、処刑されることになっちゃった。ははは!)
「えぇ!!」
あぁ、しまった。驚きすぎて、声が出てしまった……心配して横を見るとハヤトとアヤカは、少し動いた後、また眠った。危ねぇ……
(ど、どういうことですか!?)
(死刑。王様に殺されちゃう。ははは)
(いや、笑い事じゃなくて……なんで?……)
(前から知ってたんじゃないか、って思われてるみたいだね。はは)
(ドラゴンのこと?)
(そう。ホントに知ってたんだけどね? ははは!)
それは、確かにバレたらまずいだろうけど、なんで死刑まで、しかも、バレた理由も分かんないし……あぁ……全身から血の気が引いていく……倒れちゃいそうだ……
(どうして……)
(バレた理由? 村から沢山人が来てたでしょ? それでバレたんだって)
(……俺のせいですか……)
(そうかも? いや、そんなことないよ? ははは!)
大臣が気を遣って俺のせいじゃないとか言ってくれてるけど、コレどう考えても俺のせいだろ。
……良くないかもだけど、助けに行けたりしないかなぁ……魔法さえ使えば。
(え、今どこに?)
(良いよ。だって、僕は今日処刑だからさ)
(きょ、今日……)
(今までありがとう。それじゃあね?)
(い、いや! 待ってください! 助けに行きます! 場所を、教えてください!)
大臣? 大臣!
……返事は返ってこない。この後処刑?……本当に?
頭がこんがらがっておかしくなりそうだ……はぁ……ちょっとどうしたら?
状況が受け入れられなくて、そのせいで落ち着かない。落ち着かせるために、外に出てみることにした。
森の中を歩きながら考えた。絶対救えるはずなんだよ。だって魔法があるんだから。なんとかなるはずなんだよ。
どうしたら良いのか悩み続けた結果、一つの解決策を思いついた。
ルドリー。ルドリーなら大臣の居場所を知っているはずだ。教えてもらおう。
「ルドリー。大臣は今どこ?」
返事がない。どうしてこんな時に何にも言ってくれないんだ……
「ルドリー。ねぇ……ルドリー!」
どうして返事がないんだ。こんな時に限って。
……どうしたら大臣を救えるのかを考えたい気持ちはある。でも、それとは関係なく、疲労による疲れで眠気もあった。頭は冴えてきているのに、どうしてか、倒れそうなほど、気絶しそうなほど眠たい。
あぁ、ウザイ!
このまま外で倒れるわけにもいかないので、一度家に戻る。なんだか、冷や汗が出てきて、どうかしてしまいそうだ。
大臣が死ぬ?
……思い出が頭の中を駆け巡ってきた。それは初めて会った時から今までの全部。
ドラゴンの煙を吸ってた大臣。親方と会わせてくれた大臣。
ルドリーを一緒に倒した大臣。
グェールも一緒に倒したし、一緒に他国にも行った。
思い出せば思い出すほど、震えが止まらない……あぁ……嫌だ……
「アキラくん? どうしたの?」
「あ」
いつのまにかハヤトが起きていた。
そりゃずっと横で突っ立ってるやつがいれば起きるよな。
「ごめん。もう寝るよ」
「すごい汗だよ? 大丈夫?」
「大丈夫」
手の震えを隠そうと、ハヤトに背を向ける。
もしかしたら、大臣はもう殺されてるかもしれない……
あぁ……もう良く分からない。どうしたら……
「どうしたの? 教えて?」
「別になんでもないよ」
「嘘でしょ。教えて」
振り返って見たハヤトの目は真っ直ぐだった。
このまま一人で抱えてもなんにもならない、ルドリーも大臣も応えてくれないし。
ハヤトは信頼できる。だから、もう言っちゃおう。相談しちゃおう。
「……分かった。ハヤトにも関係あるだろうし」
「なに? どうしたの?」
「大臣が殺されるんだって。処刑されるって」
「……」
結局、相談をしたは良いが、ハヤトにも受け止めきれてない。それからしばらく考え込んだ後、口を開いてくれた。
「今どこにいるの?」
「分からない。教えてくれなかった……」
「……大丈夫じゃないかな?」
「え? どういうこと?」
「本当に危ないんだったら、知らせると思う。じゃないってことは問題ないか、それか……処刑を受け入れてるか」
「受け入れてる……」
「それに、大臣さん自身も魔法が使えるんだから。スティー? さんも居るし……大丈夫だと思う。何か考えがあるんだと思う」
考えがある。
確かに、大臣が無抵抗で殺されるわけがないか。でも、大臣にもどうしようもないことが起こってる可能性は?
助けを求められない理由があるとしたら?
「寝れないなら魔法を使ってきた方が良いよ」
「…….そうだね。ちょっと外行ってくる」
「もしもの時は僕も協力する。だから、今は大臣さんを信じた方が良いよ」
ハヤトの助言に従い、外でちょっとした焚き火を作る。じっと火を見ながら、これからどうなるかを考えてみた。