182 心配の順番
それからしばらく話していると、アーノルドさんが帰ってきて、また作業に戻ることになる。
その作業が終わったころには、立っているのもままならないくらいに眠たかった。早く寝てしまいたい。
「……よくやってくれた……数百人は入るだろう……」
「は、はい……」
「お疲れさまでした……」
「……今日はじっくり休め……明日もある……」
「はい……」
フラフラになりながら、最初に作った家に戻る。一応、ここが俺たちの家ということになった。
「つ、疲れた……」
「そうだね……僕、もう無理だ……」
「大変だわ。うん」
「はぁ……ちょっと早いけど、寝ちゃおうかな……アキラくんは?」
「俺は……」
本当は、カエデさんや親方の様子を見に行きたいんだけど、どうしよう。
このまま寝ようか。いや……やっぱりちょっとだけ見に行こう、心配だし。なんだったら向こうで寝ちゃえば……それはダメか、ちゃんと帰っても来ないと。
「俺は、まだ起きてようかな。おやすみ」
「凄いね。それじゃあ、おやすみ?」
「うん。また明日」
「はは……また明日」
家を抜け出し、遠くにいるドラゴンの元へ歩く。ふぅ……眠いけど、まだそんなに夜じゃない。夕方が終わったばかりだ。
森の中を抜けた先で、静かにドラゴンが待ってくれている。どうしてそんなに忠実なんだ?
「ドラゴンって人間のこと好きなの?」
(好きでも嫌いでもない)
「うーん。なら、なんでこんなに従ってくれるんだろ?」
(ドラゴンにとって人間は特別な生き物だ。それが理由だろう)
「特別?」
(死して尚生き続ける為に人間が必要なんだ。だからだ)
「契約かぁ。こんなに小さなドラゴンでも出来るの? それって」
(さぁな。お前も知らず知らずの内にしているんじゃないか?)
「だから出来ないとかある? もう先にしちゃってるから」
(お前の魂を埋めるほどのドラゴンとはしてないはずだ。だから、問題ない)
「魂……」
なんかよく分かんね。
良く分からないまま、ドラゴンに乗って、二人の元に飛んでいく。多分まだ寝てるんだろうけどさ。
上空から、元死体置き場を探すのは地味に大変だった。明かりも付いてないし、人もほとんどいない。
それでも、まだ夜になりかけだったこともあって、ちゃんと探せばちゃんとある。
そこに降りて、ちょっと扉を開けると、中では二人がまだ寝てた。
……これ大丈夫なの? このまま起きないとかないよね?
ただ、手首を触ってみるとちゃんと脈がある。まぁ、今度は俺が心配する番ってことだな。
「起きてないね」
(そうだな)
「帰るか」
確認は終わったので、もう帰ることにする。このままここにいるわけにもいかないし、それに、俺もホントに眠い。帰って寝よう。
ドラゴンに乗ってまた戻る。何しに行ったんだって話だけど、まぁ、いっか。
眠気でボーッとしたまま、空の旅を終える。うーん……このまま寝てしまおうか。って感じ。
そんなことを思いながら、広場から少し離れたところに降りる。戻っていくと、なぜか家の前に何者かが立っている。また、魔法のやつか? 今日はもう無理……断んないと。
「あれ? アヤカ?」
「あ、うん」
「どうしたの?」
「……あのさ」
「え? なに?」
「私も手伝おっかなって。私なら大丈夫でしょ?」
「そうなの?」
「え? 私たちが違うとこから来た、ってことでじゃないの?」
「ん?」
どういうこと? 眠たすぎて頭が働いてないのかも。
アヤカは俺の目を見て、困惑している様子だ。これは俺が悪いっぽい。良く分からないけど。
「え、ごめん。疲れてて」
「違うとこから来たじゃん。だから、魔法を使っても良いんじゃないの?」
「……あぁ、なるほどね」
「ハヤトとアキラってそういうことじゃん。私もだから」
「え、てか、結構大変だよ?」
「良いよ。てか、今も大変だし」
「そっかぁ……それは確かに」
アヤカも手伝ってくれるとなると、ちょっとは楽になるのかな。
断る理由もないし、なんなら俺が断って良いのかも分からん。それなら協力してもらう方が良いな。
「じゃあ、よろしく。ありがとね」
「うん。それじゃ、明日は私も呼んで?」
「家の中で寝たら? そこそこ広いし」
「ダメでしょ……良いの?」
「まぁ、良いんじゃない? ハヤトも気にしないと思う」
「……そう。なら寝ちゃおうかな?」
「うん。じゃあ、どうぞ」
家の扉を開けると、アヤカが中に入る。
中はまだ場所が余ってるし、別にこの三人なら問題ないだろ。
なんだったら、三人で泊まったことあるくないか? 大昔……いやぁ、ホントにおぼろげにそんなことあったような気がする。なつい。
「おやすみ」
「え? もう寝るんだ」
「まぁ、魔法使ったから」
「だからハヤトも寝てんだね」
「そうだね……てか、マジでヤバいから寝るわ」
「オッケー。布団とかいる? 作ろっか?」
「良いの?」
アヤカは、明るい黄色をベースにした花柄の見たことあるような布団を出してきた。これ……
「これってアヤカん家の?」
「そう。なんかこうなっちゃった」
「まぁ、ありがとう。使うわ」
「ん? おやすみ」
はぁ……眠たい……
俺はもはや柄とかどうでも良いくらいに眠たかった。だから、そのまますぐに寝ました……