17 三人の会話
親方の家に着いた時にはみんなクタクタだった。大臣から貰った袋は親方とカエデさんが一つずつ持ってくれた、ありがたい。そのお陰で肉体的な疲れはあんまりないが精神的な疲れの方がひどい。
「お疲れ様でした。王様とどんな話をしたのか聞いてもいいですか?」
「王様は不機嫌だったよ、だって弓矢じゃなくて剣を使ってドラゴンを倒したんだからね」
「どうして剣を使うとダメなんですか?」
そんなことで怒らないだろう。この世界が弓矢にこだわっていることは俺も知ってる。けど、ドラゴンを倒す手段は別になんでも良くないか?
「この国の歴史では弓矢が神聖なものだと言われている。だから、不浄なドラゴンを倒すときには神聖な弓矢を使わないとドラゴンの悪い気が流れ出て国にとって良くないことが起こると言われているんだ。それだけの話だよ」
そんな話があるんだとしたら王様はだいぶ不機嫌だっただろうな。親方が言うにはすごい数のドラゴンを倒したわけだし、その数だけ悪いことが起こるんじゃないかと不安に思っているのかな?
「でも、鍛冶屋でカエデさんが働くことが出来なかったのってなんでですか?」
「簡単だ。それは彼女がこの世界の住民だからだ。王様はなぜかそこに強くこだわっているんだ。違うところにいたお前が剣を使うことは黙認できるが、ここで生まれ育った者が剣を使うことは認めることが出来ないらしい。不思議な話だ」
そう言うとまた鎧を脱ぎ捨て、布の面積がほとんどなくなった。親方は身軽すぎるほど身軽になった。
「あの、できれば着替えてもらいたいんですけど」
「ん? 別にこれでいいだろ! なんの問題があるんだ?」
「まぁ、そんなこと言わずに着替えてくれませんか?」
渋々ではあったが、二階に上がっていった。服を取りに行ったのだろう。
親方が二階に行ってる間は二人きりになっていたのでいろいろ話してみた。
「作業の手伝いとかでもダメなのかなぁ。だって剣を使わなければいいんでしょ?」
「うーん、そんなこと言える空気じゃなくて、私はほとんど喋ることが出来なかったです。ミリアさんがいろいろとやってくれて」
それでもダメなら多分ダメなんだろな。でも、そうなると俺が鍛冶屋で働くことになったことが不思議だなぁ。大臣は独断で俺を鍛冶屋で働かせることにしたんだろうか?
「じゃあさ、ご子息様のお世話って具体的に何するの?」
「まだよく分からないですけど……おそらく身の回りのお世話だけでそんな大変なことはしないと思います。ボディガードみたいなものじゃないかなぁって思ってます。」
それならすこし理解できるな。彼女はめちゃくちゃ弓矢が上手いし、物腰も柔らかいし、面倒見はいいし、ボディガードとしては最高かもしれない。
俺もだいぶ世話になった。
「おい! もう仕事ないからあとは勝手にしていいぞ! ただ、明後日には仕事があるからしっかりと休んでおけよ!」
「ありがとうございます!」
親方が二階からの階段を降りながら言った。明後日に仕事ということは明日は休みだろうか? 有り難い、この辺りの地理が分からなかったのですこし散歩でもしようと思っていた。明日は色々なところに行ってみようかな。
「すみません親方! 俺たち、この家のどこに住めばいいですか? 親方の部屋で寝てたのでどこで休めばいいのか」
「それなら、一階の廊下の一番奥に物置があるはずだからそこで寝てくれ。すこしホコリっぽいがちょっと掃除すれば綺麗になるだろう!」
「もちろん彼女は私の部屋で寝てくれ。それでお前もいいだろ?」
「はい! 分かりました! 親方!」
まぁ、そうなるよな。俺、この世界に来てからまだ一週間たってるか、たってないかくらいだし、普通はそうなるよね。
「じゃあ、俺ちょっと物置見てきますね。お疲れ様でした!」
「ついていっても良いですか?」
「いいよ! とりあえず見に行ってみようか」
二人で廊下の一番奥にあるという物置を探す。廊下は清潔にされていて、ワックスをかけたように光っている。
渡り終わると、すこし古い扉があったので物置だろうと思い開ける。
思ったより綺麗でほんとにちょっとの掃除で住めるようになりそうだ。
「綺麗だね。これならホコリさえ払えばすぐに眠れそうだ」
この家に入ってきた時から思っていたけど、やっぱり親方は相当な綺麗好きらしい。初めて会った時にはそんな風には全く見えなかったが、今となってみれば案外、そんなところにも親方らしさを感じた。
「思ったより綺麗でやることもなくなっちゃったなぁ……ちょっと話そうか?」
「はい! そうしましょう!」
しかし、何から話せばいいんだろうか。村の様子でも聞いてみようと思ったがまだこの街に来ていきなりなのに村の話はどうなんだろう?
それならここのことについて話してみようかなと思っていると話しかけてきてくれた。
「あの、村で渡した棒、まだ持ってくれてます?」
「あぁ、多分親方の部屋に置いてきちゃってるかも知れないな。ちょっと取りに行こうか」
「いえ、無くさないでいてくれたならそれだけで嬉しいです。あれは私が子供の頃から家に置いてあったものなので愛着があって」
「そうなんだ、何か雑に扱っててごめんね。これからはもっと大事に扱うよ」
「でも、結局は武器なので雑に扱うことになるんじゃないですかね?」
彼女は笑って僕の方を見た。笑顔が印象的な子で、彼女のことを思い出すといつも笑った顔が浮かぶが、なんだか最近さらにいい笑顔になってる気がする。
俺に対して警戒心を解いてくれたのだろうか?
「でも、これからは出来るだけ忘れないようにするよ。あれを見るとおばあさんのことも思い出せるしね!」
「そうですね……おばあちゃん元気かな?」
「あんなに元気だったんだから、きっと大丈夫だよ」
慰めようと言ってみたがきっとあんまり聞こえてないだろう。あぁ、おばあちゃんもこの街に来れたらいいのに。
「おい! カエデだったか? こっちに来てくれ、用があるんだよ」
親方が廊下を渡ってここまできた、空気が重たくなってたのでありがたい。俺も掃除道具どこにあるか聞いとかないとな。
「親方。雑巾とかってどこにありますか? 拭き掃除ちょっとしようと思ってるんですけど」
「それなら雑貨屋だ。ここから歩いて十分もかからないところにあるから、一緒に行こうか」
「あ、いいんですか? 用事あるんじゃないんですか?」
「十分ぐらい何でもない! しかも、君はまだ道も分からないだろう? 迷ってしまうより私が連れていった方が早い」
しかし雑貨屋かぁ。そうなるとあのアイラって子がいるはずだけど、大丈夫かな。
別に心配することないはずなんだけどなんとなく心配になってしまう。
親方は今日の朝と同じように薄い服を着ていただけだった。鎧を着ていない時はいつもこんな感じなのかもしれない。
「私についてこい! 雑貨屋に着いたら私は一人で帰るからゆっくりしていくといい。アイラはああ見えていい子だから心配することはないぞ!」
「分かりました。でもすこし待ってもらってもいいですか?」
親方が不思議そうにしていたが、俺は二階の親方の部屋に行くとおばあさんにもらった棒切れを持ってきた。
「用は済んだか? まぁ近くだ。これからも行くことになるだろうから、道はしっかり覚えるんだぞ!」
「はい!」
親方が玄関から出て行こうとする。赤い髪が日に当たって輝いて見える。
外に出てみると、太陽は角度がつき始めており、朝起きてからだいぶ時間が経ったことが分かった。
「それじゃ、カエデさん! ちょっと行ってくるね!」
「行ってらっしゃい! 気をつけてね?」
「気をつけるよー」
カエデさんの笑顔が見えなくなるまで、手を振った。もちろんずっと振り返してくれていた。家の前にある川が太陽光に反射してキラキラしている。この世界に来れて良かったと思った。
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