174 知ってたけど、知らなかった
気合でドラゴンの群れに近づいていく。
すると明らかな敵意を集団で向けてくる。でも昔、ドラゴンの巣で似たようなこともやったことあるし、大丈夫なはず……
違うのは上空で戦うことになるくらいか。大丈夫。大丈夫……
……ヤバい。ドラゴンが多すぎて大臣がどこにいるのか見失っちゃった……これはみんなもそうだろう。これだけいれば……
（見失っちゃったんで、助けられないです。頑張ってください）
（ははは！ そもそもそんなこと考えてなかったなぁ。はは！）
（無事でいてください。こっちも頑張ります！）
（はは。頑張ってね）
というわけで、ここからは一人の戦いだ。
どうにか届くくらいにまで近寄った数匹のドラゴンに対し、剣をブンブンと振ってみるが、どうしても空中の動きでブレて、擦り傷みたいなダメージしか与えられない。
もっと近づくのか？
変な体勢になったせいで、全身がバキバキだし、汗かいてるせいで剣を落っことしちゃいそうだけど、そこを気合でなんとかして、また近づく。
「おらぁ！」
両手で振りかぶった一撃は、対象を真っ二つにした後地上に落下させる。まだ一匹かぁ……
残りの数匹を同じ要領で倒し、またドラゴンの群れへと一歩……一歩じゃないけど、とにかく近づく。
（魔法は使わないのか？）
「疲れちゃうじゃん。危ない時だけ」
（向こうは派手にやってるみたいだぞ）
「それって親方とカエデさん？」
（スューリとかいうやつも魔法だ）
「なぜ……大臣は辞めといたほうが……」
もう視覚も聴覚もあんまり役に立たない。自分の近くのことしか分からないから、大臣達がなにをやってるのかは知らないけど、頑張ってくれてるみたいだ。
考え事をしていても上から下からあらゆる方向からドラゴンが飛んでくる。切りつけられるものは切って、そうじゃないものは避けて、なんとかこの場を凌ぐ。ただ、最終的な結末はなーーんにも見えない。
いつのまにか囲まれていたし、俺に突進してくるドラゴンを一つ一つ丁寧に対応しても、いくらでも代わりがくる。
この前はエリーを倒せば、あれ？ なんだっけ？
エリーを倒した後、どうなったんだっけ？
「あれ！？ この前って！」
（大きな声じゃなくても大丈夫だ）
「この前ってどうやって助かったんだっけ？」
（巣を壊した時か？ あの時は、小さいのが全部終わらせた）
「……今回は？ やってくれないのかな？」
そうなると終わりだ。スティーの協力がないと、これだけの数を倒すなんて不可能だし。
（多くの人間が見ている中で、あれだけの規模の魔法を使いづらいんだろ。避難が終わるのを待て）
「なるほど。それなら、なんとかなるかも」
そんな会話をしている間もずっと剣を振り続けている。
結局、時間稼ぎが目的ならば、魔法は攻撃ではなく、疲労の回復に使う。まだまだ眠くない！ やっぱり寝ててよかったわ。
ただ、疲労の回復は俺だけじゃなくて、乗っているドラゴンにもやらなければならない。だから、倍疲れるわけだ。
いきなり体力が切れて落下しちゃったら危ない。
「あぁー！ もう疲れた！！」
（一度戻るか？）
「いや！ やろう！ はぁ……」
（しかし全く数は減ってないぞ）
そう。目の前にはさっきと同じぐらいのドラゴンの群れがいる。まったく変わってない。
俺だけでも五十は倒した。ということはカエデさんや親方や大臣は間違いなくもっと倒してる。それなのに、まっったく状況が変わらない。
なら一回戻ろうかな。でも、俺がここにいることでドラゴンを少しでもひきつけることが出来てるなら、やっぱり頑張らないといけない。うん。
あ！
不意に剣を落としてしまった。
別のことに気を取られていたせいで、手の力が緩くなっていたらしい。
「あ！ 落とした」
（やっぱり一回戻れ。剣が無ければ無理だ）
「そうだね。流石に戻ろう」
まずは外に抜け出すために、全力で魔法の衝撃を一方向に飛ばす。するとそこに抜け出すための道が出来た。
そこを全力で、ちょっと魔法で加速しながら飛び抜けると、黒いドラゴンの群れから飛び出すことが出来た。
「あ、カエデさんだ」
そこから周りを見渡した時に、弓矢を使って遠くからドラゴンを狩るカエデさんの姿が見えた。
大丈夫かな、と心配していながらそれを見ていると、とんでもない速さで飛んでいく矢が、数十匹のドラゴンを一度に貫通するところを見た。
スゲェ……アレが例の手袋か。グェールのやつ。
みんなも頑張ってる。ついでにちょっと休憩しよっかなーって心のどこかで思ってたけど、やっぱりもうちょっと頑張ろう。てか、やらないと人が死ぬ。
地上に降りていくと、人は大分居なくなっていた。まだ残っていた数人は弓矢ではなく、剣を使ってドラゴンに立ち向かっていた。しかも鎧まで着けている。
「おぉ……アキラか……」
「大丈夫ですか！？ 避難は？」
「俺たちは戦う……お前もそうなんだろう？」
「はい！ でも、任せてください。危ないです」
「はは……経験は俺たちの方が上だ。しかも、これは素晴らしい……」
「剣？」
「不思議だったよ。噂で、お前は狩りの経験がなかったって聞いてた。それなのに、どうしてあんなに……って」
「……」
「それがコレだった。知ってたはずだが、なにも知らなかった」
「それはミリアって人が作った剣と鎧です。鍛冶屋です。覚えててください」
「……生きて帰れたら、みんなにも……おっ！」
「ひとまず寝てて。俺が運ぶ」
そこにいた全員を魔法で気絶させ、空中に浮かせる。避難してる場所がどこかなんて知らないけど、ここよりは安全な場所なんていくらでもある。
「どこが良いかな？」
（この近くなら城だろうな）
「……うん」
ドラゴンの死体が降ってくる時の衝撃で、建物や道はボロボロになっていた。そして、その道に沢山の死体があった。
見覚えのある人たちの死体。
市場によく行っていた人達。
ありがとうございます！
