170 大臣のツボ
家の中に勝手に入り、中を物色してもいない。やっぱり地下かな。
「ミリ? いるよね?」
「……ぃるぞぉ!」
「はは。地下かな?」
「ぽいですね」
三人で地下に進む。
目の前にはいつも通り作業をしている親方がいた。
「おかえり。大変らしいじゃないか」
「そうですね」
「少し休もうとしたらこれだ。やはりこれが私の運命なんだろうな」
「運命?」
「『鍛治を続ける』。それが私の運命だ」
「そうなんですかね……」
「あぁ」
前にここへ来た時、親方に「アイラが寂しがってる」って伝えた。その時の親方はそれに前向きだったけど、今はそうでもないみたいだ。
こんなことがなかったら、親方ともっと、普通の生活が出来たのかもしれない。いや、親方はそういう人じゃないか。
「そんなことは良い。話をするんだろ? ドラゴン対策のな」
「うん。でも僕はエラを呼んでくるからさ。久しぶりに会ったんだし、少し話してたら? はは」
「久しぶりってわけでもないだろ」
「じゃ。また後で」
大臣はこの場から去ってしまった。
てか、エラさんを呼びたいなら道中で話しかけちゃった方が早かったのでは? ちょっと寄り道をすることにはなるけど、我が家なら道からそんなに外れない場所にあったし。
他の目的があったのかな。まぁ、大臣もそんな細かいことまで考えてないってことかな。うん。
「そういえば、カエデも契約したそうだな」
「はい、そうです。出来ました!」
「ソウナノカ!? ダレダ!」
「私はエリー。あなた……昔会ったことある?」
「ナイ! イヤ! ワカラナイ!」
「こいつの名前はグェールだ。知ってる名前か?」
「グェール? それなら知ってるかも。魔力に狂ってるやつだと思ってたけど、正気だったのね」
「ウン! ショウキダ!」
「へぇ。知り合いなんだぁ。すご」
「私たちの巣にいきなり入り込んできて、大きな爆発を起こして、家をめちゃくちゃにした。思い出した。大変だったんだから」
「ゴメン!」
「……良いよ。それに、私たち家はもう無いしね」
グェールは生きてる時から家を爆発させてたのか。
それにしてもエリーさんが少し寂しそうな声で「家」と言ったのは胸が痛む。
これからドラゴンと戦わないといけないのに、どうしてドラゴンがちゃんとした生き物だっていうのが分かってきちゃうんだ。
「ははは。戻ってきたよ」
「私も来ましたよー。お久しぶりですー」
「あ、帰ってきた」
「カエデ聞いたよ! 凄いじゃん!」
「ありがとう! 嬉しい!」
「本題に入っても良い? ごめんね? はは」
大臣が話を途中で切り上げさせる。そうでもしないと話すことありすぎて切りがないしな。それに時間がないのかあるのかもよく分かってない中だから、しょうがない。
「まずは、ドラゴンが攻めてきたら一番最初、なにをするのかって話なんだけど」
「そうですねぇ。その話からですかね?」
「一番最初は僕が育てたドラゴン達に戦ってもらうつもりなのね? だから君たちは暇になるの。で、その間に」
「その間になんだ?」
「街のみんなに剣を渡して? 鎧とかもさ?」
「……受け取ってくれますかね?」
「別にすぐに使ってもらおうってことじゃないよ? みんな君が剣で成果を出してることは知ってる。だから、本当に危ない時は弓矢を捨ててもおかしくないね」
「どうだろうな」
「全員は無理だろうけどね? 一部の人は必ず剣を使う」
そうなのかな……俺的には剣ってドラゴンの近くに居ないといけないから、怖いといえば怖いんだよなぁ。初めて使った時とか、死ぬと思ってやってたし……
「そもそも配ると言っても限度があるだろ」
「二人なら出来るでしょ? 契約してるんだからさ?」
「そんな得体の知れない物、誰が使うんだ? しかも危険だ」
「魔法でさ、使うように指示してよ。彼みたいにみんなの頭の中にさ? ははは!」
「良いのか?」
「良いよ。それしかないし。女神様にでもなった気持ちで指示しても良いんだよ? はは」
「……剣を使え。とでも言えば良いのか?」
「ははは!! それはカエデくんがやったら? どうせミリには出来ないだろうしさ! はははは!!」
「おい。笑いすぎだ」
大臣は今まで見たことないぐらいに笑い転げてしまった。そんなに面白かった? ツボに入っちゃったんだろうけど、こんな大事な時まで……ホントにマイペースな人だなぁ。
「はぁ……はぁ……まぁ、話を戻そう……ははは! はは!」
「こいつの代わりに説明してくれ。エラ」
「あ、はい……えっと、剣を配った後は、前線に出てドラゴンを狩っていきます。その際はスティーが守ってくれるそうなので、命の心配はないらしいですね。ちなみに私は戦力にならないので、避難指示をします。これにはアイラさんや、ハヤトさん等も協力してくれる予定ですね」
「君と僕は最初っから戦うよ? ドラゴンと一緒にね? はは」
「あ、そうなんですね」
一番最初からかぁ……嫌だなぁ。死なないらしいけどさ。いつもこうだ。
結局、大臣と一緒にいると……いや、これに限っては大臣は悪くないよな。しょうがない。
「つまり君と僕は一緒に行動。そして、エラ、ミリ、カエデくんは三人で。剣を配り終えたらエラを除いた二人と僕たちが合流。そんな感じだね」
「後は?」
「後は頑張るだけだね。はは!」
「頑張るかぁ……」
「はは。心配しなくて良いよ。僕たちは死なないからさ」
そういう問題でもないような……と思ったが、考えてみれば、多くのドラゴンを相手にするのはこれで二回目だ。あの時のことを考えるともしかしたら、普通になんとかなるのかもしれない。
(また我の出番は無しか?)
「かもね」
「アキラさん?」
「あ、ルドリーが」
「あ、ルドリーさんが」
まぁ、ルドリーに頼らなくてもなんとかなるのが一番良いな。
会議は順調に進んだ。もう話すことは無さそうだ。
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