169 門番の愚痴
誰もいない村で俺たち三人だけ。
もう大臣に聞きたいことも無くなってきたので、どうしようかなと思っていると、声をかけてきた。
「それじゃあ、帰ろっか? ね?」
「あ、もう良いんですか?」
「そもそも僕が来たのは君たちを呼ぶためだからさ。もう支度は終わってる?」
「まぁ、一応? カエデさんは?」
「終わってます!」
「じゃあ行こう。そろそろドラゴンも来るだろうしさ。ははは!」
というわけで俺たちはセントラルに帰ることになった。
親方からもらった剣と、グェールの鱗で作った手袋を使うことはなかったけど、これからいくらでも使えるだろうから、楽しみにとっておこう。
「俺たち、ドラゴンに乗ってきたんですけど、大臣は?」
「僕もだよ。ほら、そこにいるじゃん」
「なら俺たちのドラゴン連れてきます」
「分かったよ。それじゃあ待ってるからさ。ははは」
最後にドラゴンと別れた場所に行くと、まだしっかり待ってくれている。やっぱりめちゃくちゃ頭が良い。
……ドラゴンに対して愛着を持ち始めているかもしれない、これから沢山殺すことになるのに。
「ちょっとさ、可愛く思えてきちゃったかも……あ、忘れて」
「……私は、私もそう思います」
「まぁ、行こうか。うん」
「はい」
大臣と合流した後は、セントラルに向かって飛んでいく。すると、高く飛び立った時に、遠くの方でドラゴンの群れが見えた。
目視出来るぐらいまで近付いたのか。ホントに来るのかよ。
「アレですか?」
「うん。もうそろそろだね」
「ホントに来るんだ……」
「ホントに来るよ。だからその時はよろしくね? はは!」
久々にセントラルに帰ってくる。
ドラゴンはまだ門の近くで待ち続けていた。なんで殺されないんだ?
「まだいるんですね」
「殺さないように言っといたから。これでも元大臣だからね? それぐらいなら出来るよ。はは」
「それでも、王様がドラゴンをあんなに嫌いなら……」
「僕たちが居なくなってから、お城は凄く大変だろうしね。はは」
「そうなんですかね?」
「後は、王にもどうしたら良いのか分かってないんだと思うよ? どうしたいのかも分からない」
「意外ですね。なんか」
「僕からしたら意外じゃないけどね。そういう人だから」
「そういう人?」
「うん。ドラゴンは悪いって書いてあったからそれを信じてる。素直な人だと思うよ? はは」
「へぇ……」
そこそこなこと言ってるけど、大丈夫でしょうか? 大臣は元々、国の為というよりも自分の為に頑張る人ではあるけど、それにしてももう少しぐらい敬っても良いんじゃ……王様だし。
「おぉ! お前、帰ってきたのか? 村はどうだった?」
「まぁ、色々ありましたね……」
「そっちもそうなのか? あ! あの村か? 例の」
「例のってみんなで移動してきた? それならそうですね。あの村です」
「そうかぁ……うーん……ちょっと愚痴良いか? 実はここ数日でめちゃくちゃなことになってるんだよなぁ。街ではドラゴンが襲って来るって噂があるしさ。食事の手続きはめちゃくちゃ時間かかるようになっちゃったし……それなのにドラゴンの報告数はめちゃくちゃ増えるしさ……まぁ、お前に愚痴る……てか! 大臣さん!?」
「元大臣だよ? だから、その愚痴はお城に言ってね? ははは」
「辞めたのかぁ……だからか、通りでおかしいと思ったんだよ……」
大臣に気付かずに国の愚痴を言った門番。なんか、みんな大変なんだなぁ。
それから街の中に入ってみたが、案外そこまで混乱してない。やっぱり噂程度に思ってるのかな。
それとも、見えないところではちゃんと準備してる? てか、大臣はみんなに教えてるの?
「あの、街の人たちってこのこと知ってるんですか?」
「知ってる人もいるし、知らない人もいる。それだけ」
「大臣から教えてあげたりとかは……」
「もう大臣じゃないからね? はは!」
「でも……信じてはくれるんじゃないですか?」
「どうせ混乱しちゃうからさ。それなら噂程度で広まってくれた方が良いよ。準備は出来るでしょ?」
「混乱するんですかね?」
「そんなに変わんないよ。教えても教えなくてもさ。はは」
とはいえ教えた方が良いのでは? まぁ、俺よりも大臣の方が深く考えてるだろうけどさ。
というか、俺たちはどこに向かってるんだ? 多分、親方の家だろうけどさ。
「今はどこへ?」
「ん? ミリの家」
「というか……ドラゴンが来るまで俺たちはどうすれば?」
「それはこれから話すよ。それとも歩きながらの方が良い? 大事な話だけど」
「いやぁ……なら家で話しましょう……」
「……やっぱりもうすぐ来るんでしょうか? 心配です……」
ずっと静かにしていたカエデさんが、不安からか口を開いた。
歩きながら、なんとなくカエデさんの方を見てみる。うーん……心配してそう……
「まぁ……心配しすぎない方が良いよ。難しいか……」
「そうですよね……」
「うん……」
励ますつもりが全然上手くいかなかった。
無責任なことばっか言うわけにはいかないし、どうすりゃ良いんだろ。
そんな事を考えているといつのまにか親方の家に辿り着いた。さて、どんな話をするのやら。みたいな。
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