167 大移動の荷造り
朝になってもカエデさんは帰ってきていなかった。もしかして、まだ話し合ってる?
エリーさんに聞こうと思っても、俺の頭の中にはルドリーしかいない。また二人か。
「まだかな」
(待ってれば帰ってくるだろ)
「探しに行こうにもどこにいるのか……いや、探しに行こうかな」
(いきなりどうした? 心配しすぎてないか?)
「うーん。俺自身が思ってるより、動揺してるのかも……だって、もしかしたら、今からドラゴンが襲ってくるのもあり得るじゃん」
(そもそも、お前に守られる必要がないだろ。まさか、昨日の事を忘れたのか?)
「契約?……確かに……」
とうとう本格的に守る必要がなくなってきた。
どうしよっか。
なんとなく悩んでいると、カエデさんは帰ってきた。はぁ……ひとまず安心した。
「おかえり。どうだった?」
「街に行ってくれるみたいです! 今から出発らしいですよ?」
「はは……良かった……でも、ちょっと忙しないね?とりあえず、俺たちも手伝おうか」
「はい!」
村のみんなを説得出来たらしいな。
ここでカエデさんがどれだけ信頼されているのかを感じる。流石だなぁ。
本心から相手の事を考えてるって人はやっぱり信頼されるんだな。
……もしかしたら大臣も?……いや! エラさんや、村の人たちは信頼してるかもしれないけど、俺はそんなに信頼してないぞ!
「どうも、俺たちも手伝います」
「あ……お、おう」
俺が来た瞬間、騒がしかったこの場の空気が凍ったのを感じた。そっか……俺はまだ怪しいやつなのか……
意気揚々と来たばっかりだけど、やっぱり戻ろうかしら?
「ありがとね! 手伝いに来てくれたんだろ? 助かるよ!」
「あ、どうも……」
「お礼を言うのはコッチ。ほら、これ持って!」
その女性が指差す先にあったのは束ねられた数個の弓。
それを持ち上げる。
はぁ……結構、重たいな。まぁ、なんとか持つことは出来るけどさ。
……え? これどうするの? 持たされたのはいいけど、何にも言われないままだ。聞いてみるか。
「これどうすれば?」
「あぁ! そこの荷台に載せちゃって?」
「あれ? 馬は?」
「まず街に報告に行ってるんだよ。みんなで移動するってさ!」
「あぁ、なるほど。馬に乗って報告に……」
「そう! それじゃあ、よろしく!」
報告かぁ……俺が大臣から聞いたってことも言われてそうだな……
「秘密にしといて」とは言ったけど、今報告をしてくれてる人までそれが伝わってるか分からないし……
そもそも隠さないといけないことなのかな? もしかしたら、セントラルの方でもドラゴンの襲来が噂になってて、あっちも大混乱なのかもしれない。
そんなことを考えつつ言われたとおりに、弓の束を馬のいない馬車の荷台に載せる。
それから作業を手伝っていたが、あまりの荷物の多さに驚く。これ、どうやって向こうに運ぶんだろ?
「荷物、こんなに運べるのかな?」
「そうですね……まだ時間はありますよね?」
「まぁ、多分……」
いつ頃、ドラゴンの群れが攻めてくるのかを大臣は教えてくれなかった。なら、もしかすると明日かもしれないし、ずっと来ないかもしれない。
質問しても答えてくれないんだろうな。そもそもそんなことまで分からないか。
報告をしてきた人が沢山の馬を連れて帰ってきた。
一人だけじゃなく、街の人たちも何人か来ている。その人たちが俺を見て驚く。
お互い何となく顔は知ってる程度の関係だと思ってたけど、なんだ?
「おぉ! アキラ?」
「はい。どうも」
「なんでここに?」
「ここは、最初にお世話になった場所で……」
「そう? それにしても大変だな。ドラゴンが襲ってくるんだろ?」
「あ、知ってるんですね」
「はは。でも、信じてないよ……ここだけの話だぞ?」
男は俺の耳元に近づいて話を続けた。
「……村の奴らにはこういうところがあるんだよ。迷信だとか、変な占いだとかを真に受けてさ? この村だけじゃないんだぞ?」
俺から離れた男はニヤッと笑ってきた。
色々気になることはあったが、まぁいいだろう。しかし、大臣から聞いたってことは言わないでくれたのかな。後でお礼でも……逆に迷惑か。
「いや、信頼出来ますよ」
「お前もそっちか? まぁ、それにしてもこんなに大変なのは初めてだな。村全体が大移動なんてさ?」
「そうなんですね」
「あ、そういえばドラゴン。お前らドラゴンに乗れるんだろ? 聞いたぞ」
「門番さんに?」
「そう」
「まぁ、乗れますよ」
「ホントか? お前が言うならそうなんだろうけど、信じられないわ」
大臣が言ってた通り、噂は徐々に広がり始めてる。
やっぱり襲来に関しては計算外だったのかな? めちゃくちゃ話聞きたいけど、次にしっかり話すのは全部終わってからだろうな。
それから夜になるまでずっと作業は続き、なんとか荷造りは全て終わったようだ。
後は、馬車に載せて出発するだけ。
信じてここまでやってくれたのはありがたいけど、もし、そんなことがなかったらもうここには帰ってこれないな。
別に俺はそれでも良いか。
家の中で、カエデさんと二人並んで休んでいる。下手したら狩りよりも疲れた……
「カエデさん?」
「はい? なんですか? アキラさん?」
「もし、ドラゴンが来なかったら、全部俺のせいにしてよ。騙されてたってさ」
「え?……」
「それで良くない? 俺はこの村が好きだけど、みんなは別に俺のこと知らないしね。はは……」
「そんなことしません。アキラさんのこと好きなので」
「あ……」
そう言って、カエデさんは俺の唇にキスをした。
はぁ……好きだぁ……
ゆっくりと時間が流れていく。このままがいいなぁ。
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